ヴァラン戦記
@taku_shino_maron
第1話 侵略軍
崩壊暦293年、大陸東の国ヴァランに北の大国モーデルが攻め入った。
北の大国であるモーデルはほぼ全ての国と国境を接している関係上、むやみやたらに他国を進行することは無かった。
ヴァラン国はモーデルが進行することは無いと考え、ヴァランより東に位置する小国メルーを攻めていた。その最中の侵略であった。
ヴァラン軍の主力が東に出払っていたため、モーデル軍はヴァランの北の要所『エドモン城』にたどり着くまで一切の兵の損耗が無かった。モーデル軍は小城の全てを素通りし、その実、侵攻から12日でエドモン城へとたどり着いたのである。
ヴァラン大本営は南からとある男を招集した。武芸に長け、軍略の天才と言われる男を。男は赤毛の騎馬にまたがり、手勢の3千を引き連れ、先日王都に到着した。
「北の大国モーデルは、卑劣ながら我らに奇襲を仕掛けた。宣戦布告もなく、約15万の軍勢を越境させ、付近の村々を蹂躙し、女、子供までも皆殺しにしている!今この王都から精鋭を東に向かわせた今、敵を撃退できるのは若きながらも天下一と言われるそなたの軍略だけである!!レイロッド将軍!王都軍3万と農兵8万をそなたに預ける!!必ずや敵軍を葬り、下劣な侵略を止めるのだ!!」
「しかと受け賜りました。」
王都の軍詰所に集結した王都軍3万を引き連れ、レイロッドは出陣した。
大地を鳴らす騎馬の大軍は国を救うべく北の最前線エドモン城へと進軍した。
「レイロッド将軍、先に出立した農兵8万は現在エドモン城と王都の半分の地点まで進軍したとの報告です。また、エドモン城は包囲されてはいますが未だ、攻撃は受けておりません。」
「...兵糧攻めか。エドモン城の守備隊及び民の数は?」
「エドモン城守備隊8千、民の数4万!」
「レイロッド殿、半月持ちますか?」
「いや、20日が限界だ。しかもそれは兵糧攻めを受け続ければの話。攻撃が始まればもはや猶予は無い。ルイス、騎馬3千を引き連れ先にエドモン城へと行け。敵の情報を取ってこい。」
「...御意!!」
「全軍に通達、足を速めるぞ。」
「御意。」
レイロッド率いる騎馬軍は足を速めた。
*
一方包囲を受けているエドモン城では、守備総長始め、小隊長、中隊長、大隊長らが幕僚に集結し対応策を練っていた。
「おのれモーデルめ、まさかこのエドモン城が包囲を受けるとは!」
「守備長殿、兵糧は全部でひと月分あります。更に矢の数も十分にあります。敵の狙いが消耗を避けた攻撃なら、おそらく兵糧攻めかと。」
「......そうだな。念のため兵糧庫の守備の数を増やせ。更に街の巡回もだ。万が一だが、敵の間者が潜んでいるやもしれぬ。」
守備総隊長は即日に兵糧庫の守備を堅くした。長年、前線を荒らしてきた老将であるガドラは直観的に、そして論理的に間者の可能性を強く確信していた。
理由は二つある。1つは敵の兵糧からの逆算である。この距離を12日という速さで進軍してきたモーデル軍は兵糧を本国から輸送するための中継地点を作れていない。兵糧の数はエドモン城の方が上であると考えると、長期戦には出たくないはずである。つまり、敵には短期でここを落とす策があるということが考えられる。2つ目は敵の将軍である。敵の本陣らしき軍の集団に白色の生地に堂々と描かれた3つ首の番犬の絵が描かれていた。その旗が意味するものは、モーデル軍にたった3人しかいない大将軍がいるということである。
「ぬぅ、あの旗、あの軍容、間違いないか。モーデル軍の三公の軍か。そこの者!鳥を飛ばせ!この城に向かっているはずの味方の軍へこの文書を届けるのだ!」
ガドラはモーデル軍との戦闘経験から、6,7日後に攻撃が始まると読んでいた。そしてそれは、まさに的中するのである。
*
エドモン城包囲から2刻、モーデル軍は微動だにせず、兵糧攻めの構えである。モーデル軍本営の周りには黒い鎧を身に纏った精鋭と思われる部隊約2万確認できた。他戦力は以下の通りである。弓装中装歩兵5万、重装槍歩兵2万、重装騎兵1万。そして、その指揮を執っているのはモーデル三公である。
この情報がついに、レイロッドの元に届いたのは包囲より4日たった時であった。
「ガドラ将軍か。流石だ、この情報はデカい。農兵の進軍度はどうだ?」
「農兵8万は現在、エドモン城南13里に布陣しました。」
「いつ?」
「つい先日です!!」
「伝令!!」
騎馬で駆けているレイロッドたちの元へ、前方から伝令係がやってきた。
「伝令、ルイス様からです!モーデル軍は50人ばかりの小隊を複数放ち、村々を襲撃。発見した敵は直ちに撃破したが、襲撃された村の数は10を超えたと!さらに報告ですが、西方に微かではありますが砂煙が見えたと。何人か斥候を放ったようですが、誰一人帰ってこなかったようです。」
「......(おかしい。虐殺が目的なら、8万でエドモン城を包囲し他7万でそれより北を削ればよい。しかも、ルイスが敵を発見したということは、距離や足の速さを考えても、農兵は既に発見されているはずだ。なぜ手を出してこない。農兵をやられれば俺とて勝てない。いや、そうではない)」
レイロッドは思考を巡らせた。城攻めにはあまりにも中途半端、虐殺についても中途半端。戦略の意図が読みがたいその機動は、レイロッドの意識をくぎ付けにした。
レイロッドは旗を掲げさせ合図を出した。
「一度止まるぞ。地図を持て。」
レイロッドはエドモン城一帯の地図を開かせた。影がなくなる時間帯、木を背もたれにし、じっくりと考えた。軍隊の配置、敵戦力、味方戦力、兵糧、地形、時間、あらゆる要素を考慮した。レイロッドは周囲を見渡し、地形を確認した。木々が生い茂る高地に囲まれた隘路に布陣した自分たちを俯瞰して見た。そして彼ははっと気が付いた。その瞬間、レイロッドの背筋は凍り、額に汗を流した。
「全軍に通達、半分は馬から降り迎撃態勢。敵が......来るぞ。」
レイロッドが指示を出した途端、高地の方からどっと喚声が上がった。
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