ケモミミさんはがんばりますっ!

たまごやき

プロローグ

「里から出ていけ!この魔族がっ!」

「あがッ!?」


痛い。やめて。痛い。

口の中から鉄の味がする。


「一族の恥よ...穢らわしい」


オレが...オレが何をしたっていうんだよ...

皆に認めて貰いたかっただけなのに...どうして.........


「ぐぅっ......ひっぐ...おとーさん...おかーさん......」


もう見れなくなってしまった2人の輝かしい笑顔を思い出す。


......ごめんなさい。お父さん、お母さん。

もう誰も、信じられない。




今となっては名前が思い出せないが...俺は平凡な高校生だった。

特に目立った才能もなく、成績も普通。毎日だらだらと過ごして、たまに休日に友達と遊ぶ。なんの面白味もない人生。だけど、それが俺にとって幸せだった。


だから、咄嗟に女の子を庇って車に轢かれたときは、ああ...やっちまったなぁ...他の誰かが庇ったかもしれないのに、カッコつけて死にそうになってる。ただ、フツーの人生が送りたかったのに、バカだなぁ俺。


そんなことを思いつつ目を閉じた。


目を開けると見知らぬ天井。


病院?いえ、異世界です。

いやまぁ、びっくりしたよね!美人のケモミミお姉さんが泣きながらオレのことだっこしてたもん!マジ!?この人がオレのかぁちゃん!?


これが噂の異世界転生ですか!皆さん見てください!!赤ん坊ですよ、赤ん坊!!!

オレこんなにちっちゃくなって...!前世でもあんまりおっきくなかった息子もこんなに......


?????


女の子ですやん!!!!!

こっこここっこれが巷で有名なTS転生ってやつですか!?しかも我がエクスカリバーの代わりか知らんけどしっぽあるし!


どうやらオレは色んな種族の獣人が住む、シルヴァ村に生まれたらしい。シルヴァって、なんかカッコいいよね。

オレの両親はそこそこ有名な冒険者で、母が妊娠したから里に戻って引退したそうだ。

それで生まれたのがこのオレってわけ。

元気な女の子だよ!


......ハァ、まぁ色々ツッコミたいけども!

オレの2度目の人生。魔王なんて倒したりしないし、知識チートで領土繁栄もしない(そもそもそんな知識ない)


オレはこの世界で家族と一緒にスローライフを満喫するんだ!






だが、その願いを叶えることはできないとすぐに知った。


獣人では珍しい雪のような真っ白の不気味な髪。まるで爬虫類のような鋭い金色の瞳、同性が嫉妬する容姿。極めつけは里の中でたった1人だけの褐色の肌。


この世界では褐色の肌は忌み嫌われる魔王の配下、魔族と喩えられ差別されてきた。

エルフでいうダークエルフみたいな感じ?

ダーク獣人とでも言うのか!ダサいわ!


オマケにオレは前世が日本生まれの男子高校生。

殺るか殺られるかのこの世界で動物1匹殺すのにも躊躇う役立たず。

女なのに男らしい口調や仕草。

周りより少し頭が良いだけでなんの才能も無い穀潰し。

里の皆はオレを気味悪がり、罵った。


でも、そんなオレを両親は愛してくれた。

同年代の子どもたちに苛められて泣いていたときには慰めてくれ、家に帰ったときはいつも笑顔で迎えてくれた。


前世の親はオレに全く興味を示さなかった。ただただ無関心。話しかけても口を開かず、まるでいないかのように扱ってくる。前世の両親は正直嫌いだった。


だから嬉しかった。撫でてくれるのも、褒めてくれるのも、怒ってくれるのも、一緒に悲しんでくれるのも。


本当の両親だと思った。


だが幸せな時間はいつまでも続かない。


両親が死んだ。病気らしい。

里の皆はオレを指差し、こう罵った


こいつは悪魔だ!恩を忘れ自分の両親を殺した!って...


...なんでだよ......お父さんとお母さんは死ぬ筈じゃなかった。向かいの家に住んでるおじさんだって同じ病気にかかったけど治ったのに!!薬があれば治る病気だったんだ!...なのにッ!どれだけ頼んでも!血反吐を吐きながら土下座しても誰も!助けてくれなかったッ!


「魔族を庇うから死ぬのよ」

「気味が悪い。死んで清々した」

「夫がいながら魔族と交尾した尻軽女。死んで当たり前よ」

「少し剣の腕が立つくらいで威張りやがって...」


どうして......どうして.........


「出ていけ。薄汚いクズが」


両親が死んだ2日後に長に言われた。

でもオレは、1人ではなにもできない。生きていけない。


「......お願いします...成人するまではっ...ここに居させてください...っ」


必死だった。父が褒めてくれた容姿も涙でぐちゃぐちゃになり、母が褒めてくれた自慢の髪も汗やら泥やらで汚れボサボサになっていたがそんなことどうでもいい。


2人は死に際に...オレに生きろと言ってくれた。


「泣かないで...あなたには笑顔が一番似合ってる」

「アイン...僕たちはアインが娘で本当に幸せだった」

「「アイン...」」


幸せに生きて...


「フン...貴様に生きる価値などない、絶望して死ね。この悪魔が」

「お願いします...お願いします...」

「黙れッ!!里から出ていけ!この魔族がっ!」

「あがッ!?」


何度も何度も殴られる。顔が熱い。地面を赤く染めていく液体。それが自分からでていることに気が付くのに時間がかかった。


オレ...死ぬのかな?

いやだ...死にたくない......約束したのに...幸せに生きるって約束したのにッ!


「なッ!?───」


気が付けば、目の前には長だったモノがあった。それは人と呼ぶには余りにも難しく、ぐちゃぐちゃの肉の山と化していた。


2度目の人生、なーんの才能もないと思っていたが、初めて殺人を犯すことで自身に殺しの才能があることがわかった。


「......はっ...ははは.........」


自分の血か、それとも他の誰かの血の味がする口から乾いた笑いが込み上げる。


「はははは!!なんだよ!ははは!こんな才能持ってたのか、オレ!......どうしろっていうんだよ...」


どうやって幸せになればいいんだよ...

...教えてよ......誰か教えてくれよ...


「...ヒッ!」


騒ぎを聞きつけてやって来たのであろう。

女はこちらを見るなりその場にへたり込んだ。


「悪魔...」


不味い、見られた。どうしよう、どうしよう、どうしよう......殺そう...殺す......


「ヒィッ!!来ないでッ!」


ふと両親の顔が横ぎった。

なにをしているんだオレは......?

オレは立ち止まる。たった数秒、だがそれで十分だった。突然、肩に痛みが走る。


「ぁがッ!?」


肩が溶けるように熱い。見ると、矢が刺さっている。


「......クソッ!!」

「逃がすな!殺せ!!」

「悪魔が!」


たった1人の女の子を殺す為だけに里の者全員が動きだす。

両親が死にそうなときは誰も動かなかったのに...。


...オレはただひたすら逃げた。

雨のおかげで匂いが消え、撒くことができた...。

目が覚めた。どうやら寝てしまっていたらしい。よく死ななかったなと思いつつ、未だに痛みが走る肩を抱き、歩き始める。どうやら雨は晴れたようだ。太陽がさんさんと照りつける。


だが、オレの気持ちはいつまでも晴れなかった。




















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