第347話 ◆動く闇1

 ◇◆◇ 11月26日 2:49 ◆◇◆


 深夜を迎え、八王子の大通りとて人もまばら。

 夜が明ければ、月刊Newbie12月号発売が店頭に並ぶ。

 そんな中、KWN堂記者――御剣みつるぎ麻衣まいを守護する【阿修羅あしゅら山井やまい拓人たくとに向かいギラりと鈍く光るナイフが飛ぶ。


「っ! 何奴じゃっ!?」


 闇夜に動く影。

 ナイフを弾いた山井が身構えるも、相手はに姿すら見せない。


「七海に雇われたはぐれ、、、か、それともアノ国、、、の兵隊か……あるいはそのどちらも……なのか」


 鋭い眼光で双剣【虎王こおう】そして【龍王りゅうおう】を引き抜く。

 山井が捉えるのは、闇に忍ぶ影。


(……強いのう。第四段階は確実。おそらく【剣皇】か【頭目】……またはそれに近しい速度特化の天恵。しかも、【天武会】で戦った【インサニア】の渡辺や武田より錬度が高い。それも…………チームワーク、、、、、、のじゃ)


 山井の前に降り立ち、ショートソードを構え、仮面を被った男。

 その後方でナイフを身構える仮面を被った女。

 両側面から槍、そして鉤爪かぎづめを構える仮面を被った男たち。

 その全てが黒装束を纏い、山井を狙う。


(第四段階相当が……四人か、ちとじゃのう)


 既に山井の包囲網は完成され、身動きがとり辛い状況。

 そこで山井は双剣を持ち、身構えながら……言った、、、


「『ハイ、KWNカウン! たっくんの家、、、、、、に電話して』」

「「っ!?」」


 その直後、山井のスマートフォンが発信される。

 1コール、2コール、そして3コール――。

 直後、三人の男が一気に山井へ詰め駆ける。

 黒装束の女は一歩引き、四本のナイフを投げる。

 山井がショートソードをかわし、鉤爪をさばき、槍を払ったところで電話が繋がる。


「『ハイ、KWNカウン! スピーカーにして!』」

『――こちらクラン【命謳】の事務所でございます~』

「何のためのディスプレイじゃ! 名前を見んかっ!」


 山井が苛立ち言うも、電話の相手は未だ山井の状況を把握していない。

 そんな中、山井への攻撃は苛烈を極める。


『えー? あ、山じーじゃん? 何? また暇電ひまでん? 言っとくけど、電話番でも仮眠は必要なんだからねー? あ、そうだ、パックしなくちゃ――』

「――あずっち、、、、! 美人記者が狙われとる! 至急全員に召集をかけるのじゃ!」


 そう、【命謳】ビルの今宵こよいの電話番は――【月見里やまなしあずさ】。


『え……マジ?』

「この……戦闘音が……聞こえぬかっ!?」


 無数の攻撃を捌きながら、時には剣で受けた際の金属音も響く。

 当然、それは電話のマイクにのっているはず。


『わ、わかった! すぐに連絡するから!』


 普段であれば、この程度のやり取りもスムーズと言えるだろう。

 しかし、山井は手練れ四人に囲まれ、身動きがとれない。

 そんな中、御剣が狙われれば――、


(おそらく四人こやつらは足止め要因。わしを足止めし、ホテルで休む美人記者を連れ去る腹積はらづもりか……!)


 幾多の攻防をするも、山井は攻め切る事が出来ない。

 それは、相手が山井を囲み、完全に受けに回っている事が原因である。全員が攻め手であれば、山井は必ず突破口を見つける。

 しかし、はなから勝負をするつもりがない相手を前に、山井は大きく動けずにいた。


(せめて後一人……三人であればまだ何とかなるというのに!)


 もどかしい思いをしながらの攻防。

 しかし、意外な助っ人が山井の動きをフォローしたのだ。


「っ!?」


 轟音ごうおんと共に鉤爪の男の腕が弾かれたのだ。


「「くっ、銃撃だとっ!?」」


 そう、轟音の正体は銃撃。

 そしてその狙撃を成したのは、【命謳】ビルから現場へ一直線に駆け付けた――今宵の電話番、、、


「この銃弾は経費だからね、山じーっ!」

「ナイスアシストじゃ、あずっち!」


 月見里やまなしの狙撃によって出来た一瞬の好機。

 百戦錬磨の山井拓人が逃すはずもなかった。


 上体の反れた鉤爪の男を蹴り飛ばし、槍の男のふところに潜り込む。槍に剣を滑らせ、男の首元を狙うも、男はかろうじてそれをかわす。

 しかし、山井の本命は男の殺害になかった。

 槍の男の身体を駆けるように、山井の膝がその顎先に向かう。


「ぐはっ!?」


 槍の男が吹き飛ばされると、ショートソードの男は山井から距離をとった。当然、投げナイフの女も同様に山井から離れた。

 その理由は当然、槍の男の離脱による戦力低下にあった。


「ふん……儂、今夜の騒音クレームは、絶対やりたくないからのう……しからば、誰がそれをやってくれるのかのう……!?」


 山井の目がギロリと動く。

 その気迫を前に、戦線に復帰した鉤爪の男が、山井を警戒しつつ、自身を追いつめた女の動きを追う。

 しかし、その視界には既に月見里やまなしの姿はなかった。


「阿呆、あずっちは既にホテルに入った。貴様らの相手なぞ、儂一人で十分じゃ……!」


 剣気、殺気を纏い、一歩、また一歩と前進する山井。

 だが、山井は足を止めてしまう。

 何故なら、正面に新たな敵が現れたからである。


「いや~、早速山井相手とか、困るんすよね~」


 山井は、その男を見て目を見開く……。


「な、何故お主が……ここに……!?」

「はははは、やっぱりシャバ、、、の空気はいいっすね~」


 直後、山井と戦っていた三人の能力が向上する。

 山井はそれを肌で感じ、経験で理解した。

 それは、【兵卒】系の天恵を持つ天才の……強力なアシスト。


「【将校】……【飯田いいだはじめ】……! お主は【天武会】で儂らに負け、【天獄てんごく】にいたはずじゃろうて……!?」


 かつて【インサニア】のメンバーとして【命謳】の前に立ちふさがった男が、今、山井の前に現れるという異常事態。

 正面に立つ飯田は澄まし顔で軽口を言う。


「う~~ん……ま、そういう事なんじゃないっすかね~?」

「くっ……!?」


【将校】の能力により、山井を取り囲んでいた黒装束のはぐれたちが、一歩、また一歩と接近する。

 全員が第五段階近くの力を手に入れ、山井に迫る。


「た、たっくんピーンチ……!」

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