第345話 ◆宗頼と賢二……そして一心1
◇◆◇ 20X0年11月20日 正午 ◆◇◆
池袋にある天下の大企業【KWN株式会社】。
現代日本経済界の父と称される辣腕社長【
その川奈に呼び出された日野市を本拠にする中小企業【
てっぺんの見えない超高層ビルを見上げる二人。
「いやー……ついに来ちゃったね」
「来ちゃい……ましたね」
穂積の隣で
「伊達君、じゃあ……ここからはよろしく」
「えっ、私が先頭ですかっ!?」
初手、穂積からの言葉に、一心は焦りの色を見せる。
「大丈夫大丈夫、細かい打ち合わせは僕がやるから。伊達君には手続きとかそういうのをお願いしたいなーと」
「でも私、こんな大企業で受付した事ないですよ?」
困惑する一心に対し、くすりと笑う穂積。
「何事も経験、でしょ?」
柔和な表情で言った穂積を横目に、一心は大きく溜息を吐く。
「はぁ……わかりましたよ。それじゃ、いっちょやりますか!」
「約束の時間の15分前……それじゃあ行こうか」
穂積に背中をポンと叩かれ、伊達一心はKWNの自動ドアをくぐる。
しかし、くぐって早々、穂積と一心を驚かせる事態が起こったのだ。
二人の正面には、十数名の部下を従え、両手を広げて二人を迎える川奈宗頼の姿。
穂積、一心は目を丸くし、その異常事態に口をぽかんと開けた。
中には役員もいるであろう部下たちは、穂積、一心に対し深々と頭を下げる。
「「穂積様、伊達様、本日はお忙しい中、ご足労頂きまして誠に有難うございます」」
「あぁ……えーっと、はい」
「こちらこそ……ありがとうございます……」
呆気にとられていた二人だったが、川奈宗頼が歩み寄った事で二人は再び緊張状態へと追い込まれた。
「あ……だ、伊達君、名刺名刺」
「は、はい! ただいまっ!」
二人は慌てて自身の名刺入れを取り出すも――、
「「っ?」」
川奈の右手によりそれは止められる。
「まずは握手から、よろしいですかな?」
ニコリと笑顔を見せる川奈に対し、穂積は釣られるように右手を差し出し、その後、一心も頭を下げながらその手をとった。
「穂積と申します。本日はお忙しい中、ご対応頂きありがとうございます」
「いえいえ、お噂はかねがね。穂積社長には、是非一度お会いしたかったんですよ」
穂積と川奈が握手をかわし、
「だ、伊達一心と申します。本日はどうぞ宜しくお願い致しますっ!」
「伊達……一心さんですね。以前、娘が何度もお宅にお邪魔したそうで。お礼も言えず申し訳ありませんでした」
川奈と一心が握手をかわす。
「い、いえ、こちらも息子がお世話になっております」
「いいえとんでもない。お世話になっているのはこちらの方ですよ。まぁ立ち話もなんです。どうぞ奥へ」
川奈はそう言って、二人を案内し始めた。
その時既に川奈の部下は散り散りになっていた。
穂積はこの動きに関心を見せる。
(凄いな。最大限の礼節を尽くしたかと思えば、既に効率的に動いてる。本来、あんな出迎えは非効率。でも、川奈社長は歓迎を選んだ。その方が自社に恩恵があると知ってるからだ……うーん、お腹痛い)
そんな穂積の関心に気付いたのか、川奈はくすりと笑みを零す。
(やはり優秀なお方だ。常々TLEの製品には一目置いてきた。我が社の魔石事業とTLEの技術を組み合わせれば……アレの実現が可能なはず。がしかし……彼が本当に日本一のクラン【
そして、堂々とした川奈の背中に圧倒され、ビル内の見た事もない装飾の数々に気圧され、気後れするばかりの一心。
(やば、ナニコレ? えぇ、ここにお金かけるの? 夕飯のもやしを豆もやしにした方がいいのでは? いやいやいやいやエレベーターながぁ……玖命、お前もこの道を通ったっていうのか? というか背中の汗が凄い。今すぐ着替えたい……!)
エレベーターが応接フロアにつくと、穂積が率直に感想を述べた。
「素晴らしいですな」
「玖命君とはよくここで話してますよ」
「ほぉ、だそうだよ。伊達君」
「話に聞いてはいましたが、やはり、実際目で見るのでは違いますね」
「はははは、正に百聞は一見に如かずというやつですかな。さぁお二人ともそちらにお座りください」
川奈の言葉を受け、二人はその正面に立ち、再度名刺を渡す。
「改めまして穂積です。よろしくお願い致します」
「伊達です。よろしくお願い致します」
「川奈宗頼と申します。本日は良い話し合いが出来ると期待しております」
川奈の名刺を受け取ると、一心はそれを持つ手が震えてしまう。
(全世界のサラリーマンたちが喉から手が出る程欲しい名刺を……貰ってしまった)
ゴクリと喉を鳴らす一心。
穂積、一心がソファに腰かけ、川奈も腰を下ろす。
「では、早速ですが本題に入らせて頂きます」
二人がコクリと頷くと、川奈が話し始める。
そして驚くのだ。
川奈宗頼がTLE株式会社に願うその内容に。
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