第308話 探究・考究・討究1

「――ヘッドの天恵の事、か」


 これまでふんぞり返っていた翔が、珍しく椅子に座り直す。


「ふむ、確かに【命謳】の全員が顔を連ねている。タイミングとして悪くはないと思うが……よいのか、玖命?」


 たっくんの言葉が全てである。

 この場で俺の天恵の事を話してしまえば、【命謳】全員が俺の天恵について知る事になる。それは、一つの情報拡大。

 これによって負うリスクについては理解しているのか……たっくんはそう言っているのだ。

 そのリスクがあるからこそ、皆は今まで俺の天恵について、あれこれ言わないでいてくれたのだ。

 本当に、俺には勿体無い仲間たちである。

 俺がたっくんに頷くと、たっくんは頷き返すだけでとどめてくれた。


「……それ、私も聞いていいの?」


 月見里やまなしさんが遠慮気味に聞く。

 確かに、月見里さんは【命謳】に加入したばかり。いきなり俺の天恵を話すのは、確かに何かと問題があるかもしれない。


「月見里さんにお任せします。少し席を離れるのも、このまま席に残るのも……ご自由に」

「そ、なら聞かせてちょうだい。それを知っているのとそうじゃないのとでは、大きな開きがあるからね。それこそ、生死にすら関わる程にね……」


 流石に役所勤めだっただけはある。

 慎重という面では、矢面に立っている天才より上かもしれない。まぁ、彼女の場合は別の面が残念なのだが。


「私は……聞きますよ」


 川奈さんも強い意思が宿った瞳で俺を見る。


「聞くよ」


 四条さんも、それだけ言って、川奈さんに負けない瞳で俺を見た。

 皆の覚悟に頷き、俺はこれまでの経緯を話した。

【探究】を得て、ゴブリンジェネラルを倒した事。その後、水谷に助けられた事。川奈さんと出会った事。モンスターパレードを2人で食い止めた事。

 水谷と訓練した事、赤鬼エティンを倒した事。

 宇戸田が雇った近衛このえさとるとの戦闘。

 立川でのサハギン騒動。魔法剣を得た事。たっくんとの出会い。

 四条さんに再鑑定をしてもらった事。嘘の報告に協力してもらった事。

 翔との出会い。リザードマンとの乱戦。

 四条さんが襲われた事。羽佐間はざまじんとの戦闘。

 翔と一緒にリザードキングを前に戦った事。

 ……そして大災害。八神やがみ右京うきょうとの戦い。【探究】が【考究】へと成長した事。

 月見里さんとの出会い。情報部の山井意織さんとの出会い。

 JCAFでのせんはん阿木あぎ龍己たつきとの戦闘。米原さんとの出会い。クランを創る決意をした事。

 クラン【命謳】が出来、大きな契約を結んだ事。

 借金を完済した事。

 神奈川県海老名市で起きたモンスターパレード。SSSトリプルダンジョンの侵入、死闘。【考究】が【討究】へと成長した事。

 事務所オフィスを設け、天恵展覧武闘会で団体戦で優勝した事。個人戦で勝てた理由。

 ……そう、これまでの全てを【命謳】の皆に話したのだ。


「ありましたねぇ、川の中にあったポータル事件。私、あの時に伊達さんに助けてもらわなかったら死んじゃってましたよ……」


 川奈さんは思い出すように、苦笑しながら言った。


「あの時のきゅーめー兄妹は最強だと思ったぞ。まぁ、今も尚って感じだけどな」


 四条さんもまた苦笑。まぁ、彼女の場合は何度も一筆書いてもらってるし、仕方ないかもしれない。


「カカカカ! リザードキングとやりあった時、めちゃくちゃ戦いやすくてな! あん時、ヘッドとなら、おもしれー戦いがいくらでも出来るって踏んだんだよ」


 クランを創る気があるか聞かれたのは覚えていたけど、翔は、あの時、そんな事を考えていたのか。


「ほっほっほ、あの日に魔法剣を覚えていたのか。完全に見落としておったのう。しかし、面白い人生送ってるのう、玖命は」


 たっくんは、自身の顎髭を揉みながら、ニヤリと笑って俺を見る。

 確かに面白い……というより珍妙な人生を送っている自覚はある。


「ふーん、伊達に歴史ありってやつね。でも驚いたわ。まさか伊達の天恵がそんな凄いものだったなんてね」


 やはり、月見里さんがいてよかったと思う。

 ちゃんと言いたい事、聞きたい事をしっかり言ってくれる存在は大きいものだ。

 月見里さんの言葉に、たっくんが頭をポリポリと掻きながら言う。


「えーっと……じゃあ玖命は既に儂の【阿修羅あしゅら】持ってるって事かの?」

「そうなりますね」

「ぬぉ!? くっ……何という精神ダメージ……!」

「個人戦で勝った事で条件を満たしたようです」

「いい……全部言わんでいい……儂泣いちゃう……!」


 まぁ、苦労して得た天恵を俺も持ってたら……辛いよな。


「カカカカッ! 個人戦で俺様に勝って、【拳神けんじん】を手に入れちまってたか! そんじゃ決勝の番場戦で勝ったから……【戦神せんじん】もか!?」

「団体戦では越田さんの【元帥】を手に入れた……かな」

「カカカカッ! すげーすげー…………が、【命謳ウチ】のヘッドはそれくらいじゃねーと務まらねーって事だな、おい?」


 ニヤリと笑い、翔が俺に言う。


「はは……が、頑張るよ」

「おう、一生頑張れや! カカカカッ!」


 そんな男性陣2人とは違い、川奈さん、四条さん、月見里さんは別の事を考えていたようだ。


「伊達さん、それって、天恵を得られる法則はわかっているんですか?」


 率直な川奈さんの疑問に、俺は首を縦に振る事は出来なかった。


「全部じゃないけど……ある程度は」

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