第296話 天才特別収容所【天獄】1
東京都新宿区の外れにある天才特別収容所――通称【
天獄――つまり、死ぬまで出られない場所という意味である。
勿論、軽犯罪を犯した天才はそうでもない。しかし、犯罪を犯す天才ともなると、大半は凶悪犯である。
その身に宿る力を、一般人に向ける。それがどれだけ恐ろしく、罪深い事なのか、彼らは【天獄】に入って初めて知るという。
たとえ出られたところで、天才たちが行く場所は天才派遣所。天才たちから後ろ指差されながら、討伐をこなすだけの一生が待っている。
俺と川奈さんを襲ったEランクの天才【
ただ、余罪があるかもしれないという事で、調査はまだ続いているようだ。もしかしたら更に刑期が伸びる可能性もあるかもしれない。
「むぅ……凄い圧力だな」
高い壁、壁、壁。
確かに天才相手ではどれだけ壁を高くしても不安が残るだろう。
しかし、それでもこれは凄い。
新宿区という都心という事もあってか、周辺住民の不安もあるのだろう。
【天武会】の団体戦の後、越田さんと話した時、雑談のように言っていた。
――どうして【大いなる鐘】は
――天獄が新宿にあるのであれば、新宿に強いクランを置けば住民も安心出来るからさ。票稼ぎには効果的だろう?
あの人は、絶対に敵に回しちゃいけない気がする。
俺はそんな事を考えながら、手続きを済ませる。
窓口で手続き、身分証の提示、天才としての実績を積んだOB、OGの指示に従い、決められた通路を通る。それ以外の事は決して許されない。
とはいえ、俺は荒神所長に便宜を図ってもらった身。
電子機器の持ち込みはOKとの事だ。
本来であれば禁止だが、どうやら俺の制限はそれを外れているようだ。
以前、越田さんが八神との面会の時にタブレットを持ち込んでいた。おそらく彼も荒神さんの協力の下、入ったのだろう。
さて、【天獄】側の準備もあるとの事で、面会の順番は選べないようだ。
たった一人ならまだしも、一度に4人との面会だ。
流石にそこまで無理は通せないだろう。
魔石コーティングされた強化アクリル板の前に、簡素な椅子が一脚。アクリル板越しにも同じものが一脚と、奥に見える頑丈そうな扉。
事前に荒神さんから各々から聴取したという資料を貰っているが、それ以上の情報が出て来るのか。
さて、まず初めに誰が来るのだろうか……ん?
扉が開き、まず最初にやって来たのは――、
「……ほぉ、私に会いに誰がやって来たのかと思えば……なるほどなるほど。他の天才共がやかましくなる訳だ」
両の腕に義手……小宮で寮へ帰ろうとする四条さんを襲った鉄腕の男――【
「お元気そうで何よりです」
「はっ、物凄い皮肉もあったものだ」
義手に……手錠は無しか。
「ふん、私のはこちらだ」
羽佐間がくいと顎を上げる。
すると、首には首輪が着けられていた。
なるほど、あれで強制的に力を抑えているのか。
「どうぞお掛けください。あまり時間がないもので」
「何とも自分本位な考え方じゃないか? 伊達玖命……!」
「流石に俺の名前はわかりますか」
「【天獄】唯一の娯楽がわかるか?」
「テレビ……ですかね」
「そういう事だ、貴様が【天武会】で大暴れした時は、流石の【天獄】も揺れたぞ?」
「ありがとうございます」
「ふふふ、阿木や八神は渋い顔をしていたがな。して、何をしに来た?」
「言わなければわかりませんか?」
言うと、羽佐間はじっと俺の目を見、ニヤリと笑った。
「当然、我ら【はぐれ】の事だろうな」
「よかった、ちゃんとわかって頂けたようで何よりです」
「私が渡せる情報は渡した。それ以上の事がわかるとは思えんが?」
「まぁ、俺が知らない事もあるので、出来れば最初から教えて欲しいんですよ」
「ははは、流石、王者の振る舞いと言ったところか。余裕だな。以前戦った時とは大違いだ。八神と同じ天恵かと思えば……どうやらそうではなかったらしい」
まぁ、【天武会】を見ていれば気付くだろうし、【天獄】の中で八神たちと接触もしているだろう。ならば、俺の天恵が八神の【道化師】と違うという事は羽佐間も理解しているはず。
「まず、お伺いしたいんですが、あの鉄腕……【腕力C】のアーティファクトを着けてましたよね。あれは
「そうだ」
意外にすんなりと答えるな。
まぁ、【はぐれ】は【はぐれ】で結束が脆いとも聞く。
それに、この情報は既にこちらが得ている情報。この質問自体、確認作業と言ってもいい。
じゃあ、別の角度から聞いてみるか。
「でも気になるんですよね」
「何がだ?」
「俺と羽佐間さんが戦った時、羽佐間さんの実力はおそらくAランク程。
「褒めたところで何か出るとは思わぬ事だな」
「【腕力】に
言うと、羽佐間が目を見開く。
そして俺をじっと見てから言ったのだ。
「なるほど、良い着眼点だ……」
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