第296話 天才特別収容所【天獄】1

 東京都新宿区の外れにある天才特別収容所――通称【天獄てんごく

 天獄――つまり、死ぬまで出られない場所という意味である。

 勿論、軽犯罪を犯した天才はそうでもない。しかし、犯罪を犯す天才ともなると、大半は凶悪犯である。

 その身に宿る力を、一般人に向ける。それがどれだけ恐ろしく、罪深い事なのか、彼らは【天獄】に入って初めて知るという。

 たとえ出られたところで、天才たちが行く場所は天才派遣所。天才たちから後ろ指差されながら、討伐をこなすだけの一生が待っている。

 俺と川奈さんを襲ったEランクの天才【宇戸田うどた雅樹まさき】たちは、まだ刑こそ確定していないものの、おそらく15年程の刑期になるんじゃないかと言われている。

 ただ、余罪があるかもしれないという事で、調査はまだ続いているようだ。もしかしたら更に刑期が伸びる可能性もあるかもしれない。


「むぅ……凄い圧力だな」


 高い壁、壁、壁。

 確かに天才相手ではどれだけ壁を高くしても不安が残るだろう。

 しかし、それでもこれは凄い。

 新宿区という都心という事もあってか、周辺住民の不安もあるのだろう。

【天武会】の団体戦の後、越田さんと話した時、雑談のように言っていた。


 ――どうして【大いなる鐘】は事務所オフィスを新宿に?

 ――天獄が新宿にあるのであれば、新宿に強いクランを置けば住民も安心出来るからさ。票稼ぎには効果的だろう?


 あの人は、絶対に敵に回しちゃいけない気がする。

 俺はそんな事を考えながら、手続きを済ませる。

 窓口で手続き、身分証の提示、天才としての実績を積んだOB、OGの指示に従い、決められた通路を通る。それ以外の事は決して許されない。

 とはいえ、俺は荒神所長に便宜を図ってもらった身。

 電子機器の持ち込みはOKとの事だ。

 本来であれば禁止だが、どうやら俺の制限はそれを外れているようだ。

 以前、越田さんが八神との面会の時にタブレットを持ち込んでいた。おそらく彼も荒神さんの協力の下、入ったのだろう。

 さて、【天獄】側の準備もあるとの事で、面会の順番は選べないようだ。

 たった一人ならまだしも、一度に4人との面会だ。

 流石にそこまで無理は通せないだろう。

 魔石コーティングされた強化アクリル板の前に、簡素な椅子が一脚。アクリル板越しにも同じものが一脚と、奥に見える頑丈そうな扉。

 事前に荒神さんから各々から聴取したという資料を貰っているが、それ以上の情報が出て来るのか。

 さて、まず初めに誰が来るのだろうか……ん?

 扉が開き、まず最初にやって来たのは――、


「……ほぉ、私に会いに誰がやって来たのかと思えば……なるほどなるほど。他の天才共がやかましくなる訳だ」


 両の腕に義手……小宮で寮へ帰ろうとする四条さんを襲った鉄腕の男――【上忍じょうにん羽佐間はざまじん


「お元気そうで何よりです」

「はっ、物凄い皮肉もあったものだ」


 義手に……手錠は無しか。


「ふん、私のはこちらだ」


 羽佐間がくいと顎を上げる。

 すると、首には首輪が着けられていた。

 なるほど、あれで強制的に力を抑えているのか。


「どうぞお掛けください。あまり時間がないもので」

「何とも自分本位な考え方じゃないか? 伊達玖命……!」

「流石に俺の名前はわかりますか」

「【天獄】唯一の娯楽がわかるか?」

「テレビ……ですかね」

「そういう事だ、貴様が【天武会】で大暴れした時は、流石の【天獄】も揺れたぞ?」

「ありがとうございます」

「ふふふ、阿木や八神は渋い顔をしていたがな。して、何をしに来た?」

「言わなければわかりませんか?」


 言うと、羽佐間はじっと俺の目を見、ニヤリと笑った。


「当然、我ら【はぐれ】の事だろうな」

「よかった、ちゃんとわかって頂けたようで何よりです」

「私が渡せる情報は渡した。それ以上の事がわかるとは思えんが?」

「まぁ、俺が知らない事もあるので、出来れば最初から教えて欲しいんですよ」

「ははは、流石、王者の振る舞いと言ったところか。余裕だな。以前戦った時とは大違いだ。八神と同じ天恵かと思えば……どうやらそうではなかったらしい」


 まぁ、【天武会】を見ていれば気付くだろうし、【天獄】の中で八神たちと接触もしているだろう。ならば、俺の天恵が八神の【道化師】と違うという事は羽佐間も理解しているはず。


「まず、お伺いしたいんですが、あの鉄腕……【腕力C】のアーティファクトを着けてましたよね。あれはJapanジャパン Creativeクリエイティブ Armsアームズ Factoryファクトリー――通称【JCAF】から流れたものという事でよろしいですか?」

「そうだ」


 意外にすんなりと答えるな。

 まぁ、【はぐれ】は【はぐれ】で結束が脆いとも聞く。

 それに、この情報は既にこちらが得ている情報。この質問自体、確認作業と言ってもいい。

 じゃあ、別の角度から聞いてみるか。


「でも気になるんですよね」

「何がだ?」

「俺と羽佐間さんが戦った時、羽佐間さんの実力はおそらくAランク程。シングルに届くか届かないかといったところだったと思います」

「褒めたところで何か出るとは思わぬ事だな」

「【腕力】にかかわらず、【脚力】、【頑強】、【威嚇】、【体力】、【魔力】などの天恵をアーティファクトとする場合、【C相当】にするのには、どうしてもSSダブルの魔石が必要です。それ程貴重なアーティファクトを、何故Aランク上位程の羽佐間さんに与えられたのか。それが気になるんです」


 言うと、羽佐間が目を見開く。

 そして俺をじっと見てから言ったのだ。


「なるほど、良い着眼点だ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る