第174話 越田高幸1
応接室のドアを開けると、綺麗な部屋の中央に、越田さんが立っていた。越田さんは俺を見ると、こう言った。
「やぁ、来たね」
「し、失礼します」
俺は応接室のドアを閉め、越田の対面に立った。
隣には秘書だろうか? 女性が立っていた。
「そんなに緊張しなくていい。さぁ、かけてくれ」
「は、はい」
天才派遣所が誇る【元帥】
俺がソファに腰をおろすと、越田さんが聞いた。
「紅茶とコーヒー、どちらがいいかな? 日本茶もあるが――」
「――あ、それじゃあコーヒーで。はい」
緊張のあまり食い気味で答えてしまった。
日本茶があるのであれば、そちらの方が良かったかもしれない……なんて、もう言える訳がない。
秘書の方が深々と頭を下げ、応接室から出て行く。
……うーん、やはりクランが大きくなると、一般の雇用も必要になるのか。俺たちもいつか雇う日が来るのだろうか?
求人とか、どう出せばいいんだろうか?
わからないから
そんな事を考えていると、越田さんは、何やらタブレットを操作し、それを俺の正面に置いた。
「ん?」
「先日、八神と面会した」
「っ!?」
「その時の映像だ。派遣所の許可ももらっている。ちょっとそれを観て欲しい」
そう言われ、俺は動画の再生ボタンをタップした。
正面に映っているのは……少しやつれてはいるものの、俺が以前戦った相手――
手には魔石コーティングされた手錠。
強力な天才を拘束する際、手錠にはSランクモンスター以上の魔石を使う場合があると聞く。八神相手なら、Aランクモンスター以上の魔石である事は確実だろう。
このカメラのアングル……越田さんの胸元にカメラを着けているだろう。
映像から声が聞こえる。
『ヒヒ……やぁ代表……また来たのかな?』
『城田……いや、八神か』
『ヒヒヒ……長い付き合いじゃないか。城田でもいいよぉ?』
『お前はその長い付き合いを帳消しにするだけの事をしでかした。それを忘れた訳じゃないだろう?』
『あれ? そうだったかな? ヒヒヒ、まぁいいよ。それで? 今日は何しに来たんだい?』
『お前の固有天恵【道化師】について聞きに来た』
『あーそれ? 前にも言ったけど、話す気なんかないから』
『伊達殿からの情報では、お前はあの戦闘で【聖騎士】、【大魔導士】、【上忍】、【剣聖】、【拳聖】の使いこなしていたそうだな?』
『またその話? その部分から始まらなくちゃいけないマニュアルでもあるの? ヒハハハ』
『先日、伊達殿が
『…………北海道が
『やはり、【はぐれ】のコミュニティに詳しいようだな』
『そんな事はどうでもいいだろ? それより玖命君があの二人を負かしたって? 冗談でしょ? ヒヒヒ……』
八神がそこまで言うと、越田さんは強化ガラスに今俺が手に持っているタブレットを近付けた。
『………………へぇ、確かに善戦してるね。何コイツ? 鳴神翔じゃない? ヒハハハ、面白い奴と組んでるなぁ~、玖命君は……!』
どうやら、姫天の動画を八神に見せているようだ。
『……なるほどね。確かに阿木を倒してる。でも、銭を逃がしたのは残念だったね~。ヒヒヒヒ……』
『教えろ。奴らはどうやって三つも
『ぐーぜんだよぐ~ぜんっ! そんなに気にしてると若ハゲになっちゃうよー? だ、い、ひょ~?』
『なるほど……あくまで
『どうとって頂いても~』
『これは、昨日私の下に荒神殿から届いた資料だ』
『はぁ?』
『見ろ』
『…………っ!?』
『過去、
そ、それってつまり……!
『固有天恵――ユニークと呼ばれる天恵は、制約が厳しいと聞く。八神……お前は対象の天恵を持った天才を殺す事で、その天恵を得ていた。違うか?』
そう言えば……
勿論、俺の【探究】――【
もし越田さんが言っている事が事実だとすれば、八神の手によって、多くの天才が命を落としたという事に……!
『……そうだったかな?』
動画の冒頭にも聞いたような言葉。
しかし、八神の表情は先程とは大きく違った。
『ヒ、ヒヒヒ……ヒハ、ヒハハハハハハハッ!!』
顔を歪ませる程の笑み。
逆三日月状の口元が、俺には恐ろしく見えた。
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