第160話 ◆樹子姫のGoTo天チャンネル1

 玖命に向けられた月見里やまなしのスマホ。

 そこにはピンク色の髪をした二次元キャラクターが映っていた。


「【樹子姫のGoToヘブン】チャンネル……!」

「そう、通称【姫天ひめてん】」


 そう言いながら、月見里やまなしはスマホの操作を始めた。そして、玖命に言ったのだ。


「伊達が寝てる間、【ポット】から今回の動画が送られて来てね。派遣所の監修が今朝終わったの」

「随分早かったですね」

「【ポット】からの催促が凄まじかったのよ」

「え?」

「動画はおよそ1時間。動画が送られて2時間経った段階から情報部に問い合わせが入ったの『まだ?』ってね」


 肩をすくめる月見里やまなしを前に、玖命は苦笑する事しか出来ない。


「そこからはもう大変よ。『まだ?』、『そろそろですよねぇ?』、『流石にもう監修出来たでしょう?』……で、とどめに『後30分で返答がなければ、監修の意思なしとして動画を公開する』って言って来たわ」

「うわぁ……」

「何、呆れてるのよ」

「いやだって……ねぇ……」

「クランとしてはかなり優秀よ、【ポット】ってところは」

「そうなんですか?」

「アンタもクランを創るのなら、参考にすべきところは多いと思うけど?」

「は、派遣所に対してそんなにプレッシャーかけて大丈夫なんですか……?」

「【ポット】がなければ北海道なんてとうの昔に滅びてる……って言えば、派遣所が文句言えないのもわかるでしょう?」


 そこまで言われ、玖命は息を呑んだ。


「やらなきゃやられる世界だからね、これも一つのクランの生き方って事よ」

「なるほど……」

「で、何とか監修を終えた派遣所が出した修正依頼箇所を修正した動画が……これ」


 再び玖命にスマホを向ける月見里やまなし

 チャンネルのメインパーソナリティー【米原よねはらいつき】が可愛らしく、コミカルに動き始める。


『こんにっちゃーん!』


 米原の挨拶の後、次々とコメントが投稿される。


 ――こんにっちゃーん!

 ――始まった!

 ――待ってた!

 ――今日、配信あるって告知あったっけ?


『はわわー、ごめんねー。今日は急遽配信が決まったんだー! でも、皆ならいっちゃんを許してくれるよねー!?』


 ――そもそも怒る事でもないやろ

 ――こんにっちゃーん!!

 ――許そう。そして共に飛び立とう。

 ――抜き打ち配信!今日何やるのー!?


『皆ありがとー! 今日はね、北海道の闇について迫っちゃうよー! 題して【潜入! 密造武器工場!!】』


 ――マジ?特ダネ系!?

 ――仕込みなし!?何それ面白そう!

 ――あー、あそこの工場ね。知ってる知ってる。

 ――↑知ったか乙


『えー!? 知ってる人いるのー!? もしかして有名だった? え、そんな事ない? なーんだ、いっちゃんあんしーん! それじゃあ、カメラマンの紹介でーす! 今回もカメラマンは【こばりん】だよー!』

『どうもー』


 ――こばりーん!

 ――相変わらずの癒しボイス

 ――声だけの出演!

 ――結婚してください。


『むぅー! こばりんの人気に、いっちゃんジェラシー! ぷんぷん! さ、気を取り直して本編にいってみよー! 今回の動画は、天才派遣所の監修も受けてるから、皆安心して観てねー!』


 ――この番組は天才派遣所の提供でお送りします。

 ――すごっ!

 ――拡散!拡散だー!!

 ――めっちゃ楽しみなんだけど!?


「こ……これは……」


 玖命は困惑しながらも続きを観る。


『それじゃあいってみよーぅ!』


 タイトルロゴが流れ、玖命の眼前に自分が映る。そこには顔にモザイク処理された玖命が映っていた。


「……うん、カメラOKですねー。◯◯さん、こちらはいつでも大丈夫ですよー」


 ――こばりんの声はわかったけど、この人は誰?

 ――ポットに刀使いっていたっけ?

 ――ざわざわ

 ――飛び降りた!マジ!?

 ――この高さから飛び降りれるなんて、Bランク以上だろ?

 ――モザイクかけてるって事はポットとは関係ないやつじゃね?

 ――はっや!?こばりんが追ってるんだよね?

 ――カメラ発見!隠れなくちゃ!

 ――判断はえぇwもう上階かよw

 ――さり気なく3階まで飛んでて草

 ――何者だよ。鎧はゴールドクラス?誰かkwsk

 ――刀以外ゴールドクラス。つーか刀やばい。あれ嵐鷲あらわしじゃね?

 ――どこ見たらわかるんだよw嵐鷲って何クラス?

 ――プラチナ

 ――金持ちキタ━(゚∀゚)━!

 ――しかも市場に出回ってないコレクター垂涎すいぜんのレア物。え、やば。

 ――今、窓の鍵どうやって開けたの?

 ――魔法っぽいけど、こいつ刀使いだろ?

 ――刀が杖というオチでは?

 ――コンニチワ〜

 ――何か、普通の工場だな。カメラ以外注意するところないな。工場ってこんなもんだっけ?

 ――何もない?ハズレ?

 ――刀使いしゃがんだ。

 ――腹痛?

 ――漏らすんじゃね?

 ――大迷惑で草


『あれれ? 何かあのパレットに違和感があるみたいだね〜?』


 ――流石いっちゃん。

 ――俺は最初から気付いてた。

 ――嘘松乙

 ――パレットから何が出てくる?

 ――私だ

 ――いいや私だ

 ――お前らよそでやれ


『わ、わわわー! もしかしてこれって秘密の階段かなぁ!?』


 大袈裟に驚く米原だったが、既に玖命は頭を抱えていた。


「まずい……嵐鷲にもモザイクかけてもらうんだった……」

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