第135話 ラーメン

「あぁ? 勘違いだぁ? おう親父、替え玉頼むわっ!」

「そうですよ、私、泣いてなんかないんですからっ! あ、すみませーん、私も替え玉あつもりハリガネでくださーい」


 川奈さんの呪文は一体どういう意味があるのか?


「いや、どう見たって泣いてただろっ?」

「違いますー! 伊達さんが頑張って戦ってたから、感動してちょっとうるっときちゃっただけですー!」


 口を尖らせて言う川奈さんだが、翔を前にその言い分は通らないような気がする。


「つまりアレだ、そりゃ…………泣いてたって事だろ?」

「むぅ! そんな翔さんには餃子あげませんからっ!」

「おう親父、餃子追加だぁ! 玖命、半分やんよ」

「伊達さんには私があげるんですー!」


 つまり、俺は餃子一人前食べられるのか。有難い。


「それにしても、新宿で何してたんですか?」

「いたのは池袋ブクロだよ。まぁちけーからな、嬢ちゃんからToKWトゥーカウきた時には、もう走ってたぜ?」

「それじゃ、池袋で何を?」

「あぁ? 嬢ちゃんの親父の会社、あそこにあんの忘れたのか?」

「え、お父さんと一緒だったんですか?」


 ラーメン美味しい。


「昨日またあのポータル内のモンスターが凶暴化してよ? 3個目の魔石を届けてたんだよ。近頃じゃ輸送業者も信用出来ねぇってゆーからよ? 俺様の足で届けたって話だ」

「翔さんってお父さんから結構信用されてるんですねぇ」

「カカカカカッ、親父さん言ってたぜぇ?」

「何てです?」

「『ウチの娘ももう少し君みたいにしっかりしてくれるといいんだけどねぇ』ってな。カカカカカッ!」

「むかっ! お父さんは今の私を知らないだけですっ!」


 確かに、チームを組んだ頃とは見違える成長してるしな。

 今の川奈さんなら、中堅クラスの壁役シールダーを務められるだろうし。


「お、玖命! 餃子きたぞっ!」

「いや、どう見ても私が最初に頼んだやつですよ! 翔さんのはまだです!」

「いいじゃねぇか。今なら熱々の餃子が全員食えるし、後から来たやつも熱々なんだから嬢ちゃんにも悪い話じゃねぇだろうが」

「むっ、それは確かにそうですね」


 おぉ、翔が川奈さんにプレゼンで押し勝った。


「じゃあ、はい伊達さん。餃子ここ置いておきますねー」


 俺はペコリと頭を下げる。


「そういえば、さっきのアレどういう事ですか?」

「アレ? アレって何だよ?」

「クランエンブレムですよっ! いつ決まったんですかっ!?」

「おうそうだ! いいデザイン案があんだよ!」


 餃子うまっ。


「デザイン~? 翔さん、そういうの出来るんですかぁ?」

「カカカカッ、俺様を嘗めるんじゃねーよ。昔所属してたチームの旗は俺様のデザインなんだぜ?」


 それ、絶対天才とは関係ないチームだろ。


「えぇ!? そうなんですかっ?」


 川奈さんが釣られちゃった。


「っぱ俺様たちの共通のモンをデザインには組み込みてぇだろ?」

「共通のモノですか?」

「おうよ」

「ヒト……ですかね?」

「お、おうよ……」


 川奈さん、そこまで遡らないと、翔と共通するものが見つけられなかったのだろうか。


「そ、それ以外にもあんだろ」

「………………ヒト、ですかね?」

「…………おう」


 流石の翔も呑まれたな。


「他にあるかなぁ……」

「だぁー、あんだろうが! 熱い心ってもんがよぉ!」

「あぁ、そういう事ですか。確かに大事ですよね!」

「よーしよしよしよしっ!」


 話が戻って来たな。


「熱い心っつーのはデザインにすっと何だ?」

「そうなると……やっぱり炎とかじゃないですか?」

「かぁ~~わかってるな嬢ちゃん! 俺様のチャーシューやんよ!」

「いや、いらないです」

「……そんでよ、それをエンブレムのバックに入れんのよ」

「ん~……まぁ派手な方が見栄えはしますよね」

「そんでその前にリーゼントスタイルの俺様の横顔が――」

「――却下です」


 却下だな。


「それだったら、安直にクラン名の頭文字とかをいい感じに配置した方がマシです」

「んがっ!?」


 こういう時の川奈さんは強い。最強だ。


「だったらまずクラン名決めようぜ? 俺様は朧弩龍魂ロードドラゴンって名前がよぉ――」

「――却下です」


 却下だな。


「んがぁっ!?」

「著名なクランの名前は【大いなる鐘】、【ポット】、【インサニア】あたりですね。私調べたんですけど、【大いなる鐘】は『鐘の鳴るところに集え』って意味で付けられたみたいですね」

「ほーん……で、【ポット】は?」

「有名なスポーツ飲料の名前を縮めてるみたいです」

「それってあの飲料か?」

「そうです。まぁ商標登録があるので、そのまま使えなかったみたいですけど」

「あー、何かそういうのもあるんだな。んで、【インサニア】は?」

「【狂気】」

「あ?」

「ラテン語で狂気って意味らしいです」


 山井拓人さん、そんなところにいるのか。

 まぁ、意織さんが「たっくんはもっと凄ぇ」とか言ってたしな。

 あの人も戦闘になると豹変するのかもな。


「ふーん、中々あぶねー奴らって聞くしな」

「翔さんならイメージに合ってるんじゃないですか?」


 翔、申し訳ないが俺もそう思ってしまった。


「カカカカッ、俺様はそんな小せぇところじゃ収まんねぇよ」

「ふーん、どんなところなら収まるんですかぁ?」

「そりゃ、ロンモチ、お前ぇらの隣よぉ! カカカカッ!」


 そう言われ、俺と川奈さんは見合ってしまった。


「翔さんって、たまに恥ずかしい事さらっと言いますよね」

「ぁん? そりゃどういうこってぇ?」


 翔の頭の上にはてながある内に、俺と川奈さんはくすりと笑い合い、翔のラーメンに一枚ずつチャーシューを足しておいた。


「おぉ!? 俺様のチャーシューが……ふ、増えてる!?」


 しかしクラン名か……何がいいのかねぇ。

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