第104話 ◆大災害4
「ウォオオオオオッ!!」
玖命が飛び掛かる相手はSランクモンスター、双頭の黒犬オルトロス。
意思を持った蛇の尻尾が今、玖命の手によって切断された。
「ガァア!?」
二つの顔が苦悶の表情を浮かべる中、【天騎士】山王がヘイトを集める。
これにより、オルトロスは強制的に山王へ身体を向ける。
がら空きになった側面から、立華が魔法を放つ。
「ボルトガトリング……!」
立華がこれに触れると同時、その手元から雷球が発射されると共に装填されていく。
終わりなき雷球のラッシュに、オルトロスの顔が歪む。
「グルァ!?」
立華の魔法により奥へと押されたオルトロスが体勢を崩す。
「スピードダウン」
【大聖女】茜がオルトロスの動きに制限をかける。
天井からオルトロスの右首を狙うのは、
「これで、終わりでござる……!」
【頭目】ロベルト。
ロベルトの小刀が首を通り、次の瞬間には鞘に戻っている。
自身の右首が消失した痛みに悶えるオルトロス。
しかし、それは一瞬の出来事だった。
尻尾の蛇を細切れにした玖命が、残りの左首を狙っていたのだ。
風光には、風魔法を付与してあり、その切れ味はプラチナクラスを超える。
これに玖命の全ての天恵が加われば――、
「……ッ!?」
オルトロスの左首は、自身の身体を見ながら天井へと吹き飛ぶ。後に残ったのは、オルトロスの胴体のみ。
――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。
――オルトロスの天恵【脚力A】を取得しました。
これまで【脚力C】だったものが、オルトロスの天恵を得る事で、一気に成長を果たす。
「……はぁはぁ……い、いいね」
肩で息をし始めた玖命に山王が声を掛ける。
「大丈夫か、伊達?」
「はぁはぁ……だいじょ、大丈夫ですよ……」
ひと目で無理をしているとわかる反応。
これには皆呆れ、山王は茜に目をやった。
「坊や、特別だからね?」
茜が言うと、玖命の周囲が緑光に包まれた。
「こ、これは……」
直後、玖命の身体は劇的に回復したのだ。
「これは……もしかして体力回復魔法?」
「一日に数回しか使えない制限付きなんだから、あまり無理しない事っ」
茜がウィンクして言うと、玖命は顔を赤くさせ、茜に背を向けた。
「ふふふ、
茜の言葉に、山王が反応する。
「茜が無駄に経験あるだけだろうが」
「何か言った? 十郎?」
【大聖女】の笑みは悪魔的なオーラを放ち、山王に迫った。
しかし、山王は無言で逃げるようにダンジョン核まで走り、破壊した。
「よーし、残り5ヵ所だ。これよりダンジョンから脱出。走りながら各自装備の点検。ダンジョン外へ出たらスマホで新情報を確認しろ。
「「了解!」」
◇◆◇ ◆◇◆
天才派遣所では、レンタルルームの扉付近を川奈ららがうろうろとしていた。
「うぅ……だ、大丈夫でしょうか……?」
レンタルルーム内のパソコンを確認しながら、相田が呟く。
「……既に厳戒範囲に入ってます。いつモンスターが来てもおかしくないはずです」
「入って来て欲しくないんですけどぉ……?」
「大丈夫、ここの強化ガラスは――」
「――戦車の弾も防ぐのはもう聞きましたぁ……!」
「わ、私これでも空手の初段持ってるから」
努めて明るく言った相田だったが、川奈の反応が変わる事はなかった。
「せめて【拳士】の天恵が欲しかったですぅ……」
「……そうね、こんな世の中じゃ、一般人の空手なんてなんの役にも立たない、か」
「で、でも怪しい男とか退治出来るじゃないですか」
「相手が天才だったら無理って事になるよね」
「盲点でしたっ!」
「そういえば、鳴神さんとは連絡とれたの?」
「翔さんですか?
「何て返って来たの?」
「『457体目』って」
「つまり……鳴神さんも戦ってるって事かしら?」
「だと思いますけど……」
直後、派遣所の受付の方から大きな音が鳴り響いた。
「「っ!?」」
ガラスの割れる音、重い何かが倒れる音、何かが引き剥がされるような音、小さな物が舞うような音……そして、無数の足音。
「あ、相田さん……」
「どうやら来ちゃったみたいね……」
各公共施設へのラインを守るため、どうしても八王子支部を離れられない相田は、川奈を護衛に付けたものの、それ以上の事は出来なかった。
八王子支部を守る。その気負いが川奈を巻き込んでしまった。
そう思い、後悔しつつも、やはり今の選択以上の選択は相田には許されなかった。
(被害が予想以上に早く拡大してる……このままじゃ、八王子支部どころか八王子全体が崩壊してしまう……)
「伊達さん……」
「伊達くん……」
二人の願いのような声が漏れると同時、
「「へ……?」」
二人は互いを見合って……見合って……見合っていた。
◇◆◇ ◆◇◆
その頃、玖命は――、
「はぁはぁ……こ、これで、6ヵ所目……」
八王子北側の
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