第96話 大いなる鐘の代表

「伊達くん! 久しぶりだね……」


 久方ぶりに天才派遣所にやって来た伊達玖命。

 既に翔とリザードキングを倒してから2週間の時が流れていた。

 相田に小さく頭を下げた玖命は、本日派遣所に来た理由を説明する。


「実は、越田さんから連絡があって。ここで待ち合わせなんですが……いらしてます?」


 周囲を見渡すも、越田の姿は見えない。

 玖命からの情報に、相田は驚きを見せる。


「ぇ、え? 奥のレンタルルームにいるけど、待ち合わせって伊達くんの事だったの?」

「どうやらそうみたいですね」

「い、一応確認するね」

「お願いします」


 相田は受話器を取り、越田がいるレンタルルームに連絡を取る。


「え? えぇ伊達さんがいらっしゃってます。はい……越田さんとのお約束という事で間違いないでしょうか。はい、それではお通しします」


 そう言ってから受話器を置き、相田は玖命に向き直った。


「うん、間違いないみたいだね。それでは伊達さん、4番のレンタルルームへどうぞ」

「ありがとうございます」


 玖命が言うと、彼が去る前に相田は小声で聞く。


「伊達くん」

「え、何ですか?」

「四条さんの事……大丈夫なの?」


 そう、玖命はひと月の休みを設けている。

 それは当然、四条棗の護衛にある。

 四条が正式な護衛を雇えるようになるまで後2週間は必要。

 それは相田もわかっていた。

 だからこそ、今回の玖命の来訪が理解出来なかったのだ。


「あぁ……それなんですけどね……」


 玖命は今朝の出来事を思い出していた。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 朝起きると、ToKWトゥーカウには越田からの連絡。


 越高――伊達殿、本日正午に八王子支部に来られるだろうか?

 玖命――おはようございます。えっと、今出来るだけ家を離れられない状況でして…。

 越高――知っていますよ。四条君の事でしょう?

 玖命――流石さすが、情報が早いですね。

 越高――大丈夫だ、彼女は我々にとってもなくてはならない存在。伊達殿にだけ負担させる訳にもいきません。ついては、ウチからも護衛を出そうじゃありませんか。

 玖命――ウチって大いなる鐘から?

 越高――勿論ですよ。信用出来る人間なので、伊達家の迷惑にもならないかと。


 越田からその連絡が来るや否や、伊達家のインターフォンが鳴った。


『はーい』


 階下から聞こえるみことの声。

 その後聞こえる――、


『きゃああああああああああああっ!?』


 みことの絶叫。


「え、嘘!? 何!?」


 玖命は驚きながらも部屋から出て、階段を駆け下りた。

 玄関前の上がりかまちでは、正面を指差し腰を抜かす伊達みこと

 休日の朝9時。四条は驚きながら部屋から玄関を覗き、一心がリビングから現れる。

 みことの指の先、玖命の視線の先には――ここ最近話題が尽きない、正に時の人。


「お? いたいた、やぁ、玖命クン!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 その説明を掻い摘んですると、相田は口をあんぐりとさせた。


「ゆ、結莉ゆりが……伊達くんの家に……!?」

「何か、俺がいない代わりだそうで」

「た、確かに派遣所を経由するような事でもないかもだけど……まさか、何で?」


 相田はブツブツとそう零し、唸っている。

 そこで、ピコンと相田のスマホから着信を知らせる音が鳴った。

 スマホを手に取り、見てみると、そこには一枚の写真と送信者からの一言。

 写真は、伊達家のリビングで一心、みこと、水谷、四条が仲良く大きなピザを囲う写真。


 水の谷の結莉ゆり――伊達家楽しい!よしみも後で来なよ!


「す、既に受け入れられてる……!? ピザ! ピザなのね!? わ、私も何か買って行こうかな……やっぱり結莉ゆりみたいに食料かしら? 胃袋を掴むとも言うし、ここは――」

「あのー」

「え、はい!? ど、どうしたの伊達くん?」

「あ、いえ。行っても大丈夫ですか?」


 玖命が聞くと、相田は人差し指を立て、最後に聞いた。


「最後にもう一つだけ、いい?」

「え? 何です?」

「ご家族の好物を教えてくれない?」


 明らかに公私混同。

 しかし、それを気にする玖命でも間柄でもない。

 相田の言葉を疑う事もなく、玖命が答える。


「えーっと親父はまぁお酒全般? 日本酒が好きですかね。それと、みことは装飾の凝ったお菓子? かな。俺はお肉、特に牛肉ですね」

「そう、ありがとう」

「それじゃ失礼します」


 玖命は軽く手を挙げ、その場を後にする。

 そして、相田は壁上部に掛けてある時計を見る。


「17時に上がりだから……うん、大丈夫なはず」


 そそくさとスマホを操作する相田。


 相田好――――行ってもいいけど、ご家族に了承もらってるの?

 水の谷の結莉―みことちゃんがOKだって


「よし、外堀は完璧ね」


 そう呟き、相田は満面の笑みで仕事に戻るのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 玖命が4番のレンタルルーム前へやって来ると、外部のインターフォンで、内部の越田に到着を知らせる。

 越田は何も言わず扉を開け、玖命をレンタルルームへと入れた。


「やぁ、伊達殿。よくいらしてくださいました」


 中にいたのは【元帥】越田高幸。

 そして、越田の後ろに控える圧巻の面々。


「わぁ……」


 そこに並ぶのは、テレビや雑誌で見知った【大いなる鐘】の精鋭たち。

 彼らの鋭い視線にも、玖命の憧憬の視線が変わる事はなかった。

 越田が一歩前に出ると、玖命に言った。


「今日は以前話していた合同訓練の日なんです。普段は新宿支部で行いますが、今日は伊達殿のために八王子支部までやって来たんですよ」


 不意打ちを喰らった玖命は、その場で凍り付いたのだった。

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