第80話 帰り道1
「ほ、本当に送ってくのかよ? 一人で帰れ――」
「――だめ」
四条の否定の言葉をスパッと止めたのは当然、
俺はクスクスと笑い、四条に言った。
「ちゃんと送られてやってください」
「……はぁ、仕方ねーな」
四条は靴を履き、俺もその後に続く。
玄関には親父と
「これ、本当にもらっちゃっていいのか……?」
それは、
洋服の入った紙袋を抱え、
「大丈夫大丈夫。もう着られなくなっちゃったやつだから」
確かに、
四条もそれを理解していたようで、珍しく遠慮気味だった。
だが、それでも欲しいというのには理由があった。
……が、
家から出ると、俺は四条と共に歩き始めた。
「刀、持って行くんだな」
「夜はモンスターの動きが活性化しますからね。昼間見つかっていなかったとしても、普通に路地を歩いている事もあるのが今の世の中ですから。ところで、質問があるんですけど」
「何だよ」
「初めて八王子支部で会った時、八王子の事『ど田舎』とか言ってましたけど……四条さん八王子住みなんですよね?」
「…………」
何か……黙ったな?
「……寮だよ寮」
「実家は違うと?」
「吉祥寺にある」
それはなかなか強いな。
「し、新宿支部の近くに寮なんて高くて建てられる訳ないだろ! だから八王子に寮が建ったんだよ! 何か文句あるか!?」
「いや、別にないですけど、八王子に愛はないんですか?」
「私、何を説かれてるの?」
何て純粋な目なんだ。
「いいところじゃないですか、八王子」
「それはきゅーめーが八王子の全てを知らないからだ」
「……寮ってどこにあるんですか?」
「……小宮」
「…………」
「何か……黙ったな? おい、今黙ったよな?」
「え、じゃあ今から小宮まで送らなくちゃいけないんですかっ!?」
「おま、きゅーめー! さっき『ちゃんと送られてやってください』とかほざいてたじゃないか!」
「小宮か……遠いなぁ。いいベッドタウンなんだけどなぁ……」
「で、電車で帰るよ! 駅まででいいから!」
「いえ、
「あの家の実権は何で高校生が握ってるの?」
「その方が円滑に回る事を、俺と親父は知ってるんですよ」
俺の説明に、四条は珍しく納得した顔を見せた。
「なるほどな」
そこから先は特に難しい話はなく、他愛のない話ばかりだった。
電車に乗り小宮まで着いた時、四条は改札を抜けてから俺に言った。
「きゅ、きゅーめー……」
「どうしたんです?」
「そ、その……今日はありがとな」
「いえ、俺と
「あ、あれはもういい! 気にするな! っていうか思い出させるな!」
「そうですか? それじゃ、わかりました」
「そ、そうか……うん」
「寮はどちらです?」
「あっち」
言いながら、四条は正面を指差した。
俺が歩こうとすると、それを四条が止める。
「ほ、ほんとここまででいいから! 他の鑑定課の人間に見られたら私が終わる! いいから! 帰れるからぁ!」
頑なな四条に、俺も困ってしまう。
しかし、これ以上強引なのも四条に悪い。
そこで俺は、及第点という名の
コールする事三回、
『どうしたの、お兄ちゃん?』
「あ、
それから、俺は
四条の寮が小宮にあった事、小宮に着いてから今日の礼を言われた事、そして、改札より先の護衛は必要ないと言い張っている事。
『何、お兄ちゃん、そんな事で電話してきたの?』
「いや、それしか正解が出なくてさ」
『ふーん、でも悪くないかも』
「だろ?」
『違う違う、そういう事じゃなくて』
「何だよ?」
『私が四条さんなら、お兄ちゃんが電話を掛け始めた瞬間に――』
「――瞬間に?」
『家まで逃げる』
そこまで言われて俺は気付いた。
「おい……本当にいないぞ」
『でっしょー? なら、遠目から護衛すればいいんじゃない? 一応本人からの許可も最初にとったんだし、大丈夫大丈夫』
なるほど、『悪くないかも』とはこういう事か。
護衛対象を遠目から守る……か。
確かにやった事がないからちょうどいいかもしれない。
そう思い、俺は四条が指差していた方へ向かうのだった。
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