第78話 ◆四条棗の上申

「内勤ってのはいくつかの部署に分かれてて、情報部だったら鑑定課、調査課、発掘課、クラン調整課……まぁ、中では調整課って呼ばれてるか。この四つが情報部に属してるんだよ」

「クランの調整課なんてあるんだ」


 意外そうなみことの表情に、玖命も頷く。


「俺も最近まで知らなかった。でも、調べてみたら重要なポジションだったよ」


 玖命が説明すると、四条がふんと鼻を鳴らす。


「大手クランとの連携を主にしてるんだよ。ポータル内のダンジョン情報、モンスター情報、クランメンバーの実力推移、新メンバー情報などなど」

「あー、天才から直接集める訳にもいかないのか」


 天才派遣所にも相田のように一般の人間もいる。内勤とはいえ、それは同じ事。

 特例があればその限りではないものの、天才個人から情報を集めていたのでは、数の少ない人員では情報をまとめる事は難しい。

 そこで、クランがまとめた情報を調整課に流す事により、情報の精査、取りまとめ、保管がスムーズになり、効率的になるのだ。

 これをすぐに理解したみことに、四条が玖命を見る。


「本当にきゅーめーの妹か? めちゃくちゃ物分かりがいいじゃないか」


 するとみことが四条にずいと顔を近づける。そう、答えたのは玖命ではなく、みことだった。


「本当にお兄ちゃんの友達? 私なんかよりお兄ちゃんのが凄いのよ」

「と、ととと友達な訳ないだろ!? なんだよ、お前、ブラコンかよ!」

「ブラコンじゃないよ。私は家族の中でお兄ちゃんを見て育って、大人になって、客観的にお兄ちゃんを見られるようになって、やっぱり尊敬出来る存在だと思ったから正当な評価をしているだけ。好きか嫌いかで聞かれたら……そ、そりゃ好きだけど……」


 言葉を濁し、紅茶を飲むみことを見て、四条は玖命に言う。


「きゅーめー。お前の妹、モテるだろ」

「この前も二人振ったらしいですね」

「付き合った後にか!?」

「付き合う前に決まってるでしょ! どうしたらそういう答えに行き着くんですかっ!」

「なら、告白を断ったって言うべきなんじゃねーの?」

「ぐ、それもそうですね……」


 玖命が押し黙った後、みことが再び口を開く。


「それで、発掘課っていうのは、何をするの?」

「え? まー読んで字の如くって感じだよ。天才の発掘。全国の天恵診断の情報をまとめて、カテゴリ別に分け、調査課に仕事を回すのが主な役割だな。で、鑑定課はその天恵診断の情報を元に就職の斡旋先をリストアップしたり、天才たちの人生プランを天恵毎に決めて、資料を作るんだよ」

「あ、お兄ちゃんの時もあった」

「戦闘系だと思われてたから派遣所しかなかったけどね。まぁ、実際正解だったけど」


 玖命の説明に四条が聞く。


「そういえば、きゅーめーが天恵を得たのは……?」

「確か……3年前、かな?」

「なるほどな」

「なるほどって?」

「一昨年、色々変わったんだよ。今なら場合によっては派遣所の内勤や事務の仕事に就けるぞ」

「んな!? そんな事聞いてないですよ!?」

「勿論、中高生から就職する場合だよ。派遣所の戦闘員から内勤に移すなんて事は、まあ難しいだろうね。戦闘が不可能になったってなら話は別だけど、そうなったらそうなったでそっちが優先されるから、どの道きゅーめーには今の道しかなかったって訳」


 つらつらと出てくる四条の言葉に、玖命が首を傾げる。


「何か……前回会った時より俺の情報増えてないですか?」

「い、いやっ!? そ、そんな事ないぞ!?」

「目が泳いでますよ?」

「こ、これは目の体操だよ! パソコン仕事ばかりで目が疲れてるからっ!」

「ふーん……ま、いいですけどね。どうせ、鑑定結果報告する時に俺のデータを見返したんでしょうし」

「わ、わかってるなら聞いてくるんじゃねーよ!」

「ところで」

「なんだよ!」

「ケーキ食べていいですか?」

「厚かましいなお前! もう食えよ! 好きなだけ!」


 玖命は胸元のポケットからスマホを取り出し、再生、、する。


『ケーキ食べていいですか?』

『厚かましいなお前! もう食えよ! 好きなだけ!』


 あんぐりと口を開ける四条。


「ノイズもないし明瞭ですね。ありがとうございます」

「どんな人生送ってんだよ!?」

「この前、水谷さんに奢ってもらった時も、実は相田さんに頼んで録音したんですよ。あの時はまだスマホなかったし」

「その年で……スマホを持ってなかった……!?」

「川奈さんもそうだったけど、そんな珍獣扱いされるもんなんですか?」

「珍獣レベルで珍しいよ! 道理で……だから資料に自宅の番号しか載ってなかったのか……!」


 すると、四条の発言にみことが反応する。


「……ふーん、そんなにお兄ちゃんの情報、調べたんだ?」

「か! かかかか鑑定課なんだから当たり前だろ!?」

「でも、お兄ちゃんの名前も知らなかったんでしょ? 最初」

「別にいいだろ!」

「会ってからお兄ちゃんに興味を持ったと」

「そ、それ以上言うなぁ!?」

「別に普通だよ。私の友達もそうだったし」


 友人の感性と同じと断ぜられ、四条は俯く他なかった。そしてみことにそっとメニューを差し出し……、


「お前もケーキ食えよ……」


 話題を逸らす事しか出来なかったのだった。

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