第66話 再鑑定2

 まるで少年のようで、少女のよう。

 猫目吊り目の、どこか中性的なあどけない顔つき。

 白いローブから覗かせる茶色のショートパンツ、インナーには黒いシャツを着、茶色のショートヘアという事もあり、なつめという名もあり、正直、越田の「彼女」発言がなければわからなかっただろう。


四条しじょうさん、お疲れ様です」

「……ぉ疲れ様です」


 ギリギリ聞き取れるかのような小さい声。

 小さい……身長も。

 彼女と川奈さんが並べば、川奈さんの方が背が高いのは明白。

 元高校生……? 中学生ではなくて?

 首を傾げながら考えてみても、天才派遣所に登録出来るのは高校に入学出来る15歳から。という事は、この四条さんは高校を退学し鑑定課に入ったという事。たとえ鑑定課という内勤だとしても、15歳から就職出来るという事は変わらない。

 相田さんと話している四条さんを後ろから見ていると、ちょこんと現れた川奈さんが小声で話しかけてきた。


「伊達さん! あの子! めちゃくちゃ可愛いですよ!」


 それはそうなのだが、川奈さんは不審者のようだ。


「ふふふ、ショーケースとかに入れちゃいたいですねぇ~」


 前言撤回。不審者だ。

 なるほど、川奈さんは可愛い存在に弱いのか。

 装備も見栄え重視だったから薄々は気付いていたが、ホンモノに出会った時の興奮はひとしおである。

 手をわきわきさせている川奈さんの肩を掴み、水谷に向ける。

 水谷は小首を傾げ、川奈さんのわきわきしてる手を掴む。

 そしてグイッと川奈さんの手を捻ったのだ。


「にゃぁあああああ!?」


 地べたで悶えている川奈さんの視線は、また四条へと向いている。

 しかしなるほど、水谷は力勝負だと思ったのか。


「ふむ……悪くない」

「え?」


 川奈さんがそう聞くと、水谷はその意味を教えてくれた。


「川奈さんも成長しているね。Fランクもそう遠くないんじゃない?」

「ホントですかっ!?」


 ガバっと起き上がった川奈さんは、嬉しそうに水谷に肉薄した。


「よーし! それじゃあ伊達さん! 後で討伐行きましょうっ!」


 意気込んだ川奈さんに、俺は親指を立てて応えた。

 その後すぐ、相田さんが俺を呼んだ。


「伊達くん、四条さんとレンタルルーム3号室に向かってください」


 その目は、どこか不安そうに見えた。


「ぁの……」

「あ、はい……えっと、伊達玖命です。よろしくお願いします……」

「はい……よろしくです」


 話してみて気付いたのだが、この子……どこか違和感があるような気がする。

「はい……よろしくです」の言葉はハッキリ聞こえた。だが、最初の声は極端に小さかった。俺の返答で安心した?

 いや、顔見知りである相田さんにさえ同じだった。

 ならば何故? まるで、後半の挨拶が通常ボリュームのように聞こえたのは一体?

 今の違和感の正体はわからなかったが、今日はこの子に【探究】の能力を覗いてもらうのだ。

 とりあえず、今はレンタルルームへ……。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「えっと……立ってればいいですか?」


 レンタルルームに入ってすぐ。

 俺は彼女にそう聞いた。


「ぇと……じゃあそこに」


 まただ。

 ……もしかしてこの子? いや、まさかな。

 言われたとおり、四条の正面に立った俺は、少々不安を覚えつつ、彼女に疑問を持ちつつ、その結果を待った。

 すると、彼女の黒い目が妖しく光った。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


 何でだよ。

 今、【超集中】も使ってなかったというのに、何故【探究】が発動したんだ?


 ――成功。適正条件につき対象の天恵を取得。

 ――四条棗の天恵【鑑定】を取得しました。


 しかも早い。どういう事だ?

 それに、最高条件ではなく、適正条件か。

 やはり、彼女が【魔眼】の天恵を持っているのは確かなのだろう。


「ん? ……あれ?」


 頭の上に?が見えそうな表情だ。


「えっと、どうしました?」


 そう聞くも、彼女は答えてくれない。


「ん~…………んん?」


 ずっと唸っているが、先程から声のボリュームは普通である。

 この子……やっぱり?


「ねぇ」

「はい?」

「アンタの天恵……【鑑定】じゃないよね?」

「え、いえ? 【探究】という天恵です」

「だよね」


 今、アンタって言われたな。つらつら喋ってるし。

 それは別にいいのだが、今のはどういう意味だ?


「何で【鑑定】だと思ったんです?」

「【鑑定】持ちには【鑑定】系の天恵は無意味なんだよ」


 淀みなく喋ってるな。

 先程の面影は既にない。

 しかし気になるな? もしかして【探究】が【鑑定】を……?


「それで、俺の天恵は一体?」

「ん~……疲れてるのかも。ちょっと糖分入れてくるわ」


 そう言うなり、四条はレンタルルームを出て行ってしまった。


「え?」


 レンタルルームの扉が閉まり、


「え?」


 俺の言葉は虚空へと消えた。

 流石にただ待つのは面倒なので、俺も扉から出た。

 相田さんに愚痴でも聞いてもらおうか。そう思いながら歩いていると、一番奥の休憩スペースから物音が聞こえた。

 誰かいるのかと思い、俺は自動販売機が置いてある休憩スペースに顔を出した。

 すると、四条がそこにいた。

 なるほど、糖分補給というのは甘い飲み物って事か。

 あまり覗いても悪い。そう思ったので、俺は相田さんのところに向かおうとした。

 しかし――、


「何で! 見え! ねぇん! だよ!!」


 とりあえず「何で!」で、ゴミ箱を蹴り、「見え!」で再度蹴ったゴミ箱がグラつき、「ねぇん!」で三度蹴ったゴミ箱が倒れ、「だよ!!」で外れたゴミ箱の蓋をシュートしていたのは見た。

 これはあれだ、白昼夢?

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