第34話 インプ討伐

 準備をし、情報提供者に連絡を取り、おおよその目撃情報からインプの出現場所を絞っていくと、廃れたゴルフ場跡に行き着いた。

 おそらく、過去モンスターの襲来で破壊されてしまった場所だろう。

 芝もバンカーもあったもんじゃない。

 大地は抉れ、コースはあってないようなものだった。


「……インプの足跡? 形状、歩幅からして間違いない。かなり踏み込まれてる……やはり、速いな」


 インプの恐ろしさはその素早さにある。

 林のあるゴルフ場を根城にするというのは非常に理にかなっている。

 膂力があり、素早く、火を吹く。

 ある意味、Fランクの天才の登竜門というべき存在だ。

 本来であれば、チームで挑む討伐依頼だが、相田さんは俺の天恵を知っている数少ない存在。

 ならば、その期待を損ねるような真似は出来ない。


「ん?」


 今、影が走ったように見えた。

 インプだろうか? しかし、こんな見晴らしのいい場所にいるとは考えにくい。

 しかも、今の影は……確かに走っているように見えたが、インプとは形状が違ったような……?

 とりあえずは、奴らのいそうな林周辺を捜索してみるか。

 だが、林に向かう途中に何度も気配を感じた。


「…………やっぱり、何かいるな?」


 捜索する俺をおちょくるように動くモンスターか。

 インプでないとすれば、もしかすると……――、


「ふっ!」


 直後、俺はその存在を撒くように駆けた。

 当然、相手も俺を追って来る。

 しかし、奴の速度より俺の方がやや分がある。

 ならば――!


「よっ!」

「っ!?」


 茂みを上手く使い、奴の背を取る。

 インプと似た特性を持つが、奴だけの特性もある。


「羽の生えたインプ……やはりグレムリンか」

「カァアッ!」


 奴の威嚇も、正体がわかってしまえばどうという事はない。

 斬って、倒して……終わりだ。


「まずはその羽だな。飛ばれたら厄介だ」


 言いながら、俺は再びグレムリンと距離を詰めた。

 しかし、やはり飛ばれてしまう。


「カカカカッ!」


 ……中々に腹立つモンスターだな。

 なら――、


「はぁ!」


 俺は剣を投げ、その軌道を追うように駆けた。

 当然、グレムリンは上空へ避難する。

 しかし、剣の軌道はそこから上空へと向かった。

 直後、


「カァッ!?」


 頭部に命中。羽を斬るより絶命させる方が早かったか。


「正面から迫れば、上空に向いてる剣の軌道よりも俺の接近に意識をとられる。同じ軌道だと思ったのがお前の敗因だよ」


 落ちて来たグレムリンから剣を引き抜き、ついでに魔石を取る。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。

 ――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。

 ――グレムリンの天恵【威嚇F】を取得しました。


「いいね、【威嚇コレ】があれば残りのグレムリンも倒せるだろう」


【威嚇】は対象に対して委縮を生ませる能力だ。

 飛び上がるグレムリンに対しては、その瞬間に【威嚇】を使えば今みたいな戦い方はしなくて済みそうだ。

 えーっと、一応電話した方がいいかな……?

 そう判断し、俺は一度天才派遣所に連絡を入れる。


「……あ、お疲れ様です。伊達玖命きゅうめいです」

『伊達くん? ど、どうしたの、また何かあった!?』


 まぁ、これだけイレギュラーな事態が続けば、相田さんも緊張するよな。


「あ、そこまでではないんですが、最初に出くわしたのがインプでなくグレムリンだったんです」

『グレムリン? ……確かにインプと見間違えやすいけど、今回は写真の投稿もあったのよね』

「だとすれば、インプとグレムリンの混合なのかもしれませんね。グレムリンは一般人に発見は困難でしょうから」

『確かに、その線が濃厚かもしれないわね。わかりました。こちらでも情報共有します。待機メンバーもいるので、何かあればすぐに連絡してください』

「はい、わかりました」


 そう言えば、Fランクの討伐任務から『待機メンバー』なる任務もあったな。

 何も起きなくても日給保証されるが、逆に何か起きたとしたら、安い賃金で有事に当たらなくてはならない。

 まぁ、大抵の討伐任務は何もないから、美味しい仕事といえばそうかもしれない。


「よし、それじゃあもう少し踏み込んでみるか……!」


 その後、俺が林の中に入ると、いたるところにインプの痕跡を見つけた。

 やはり、グレムリンだけではないという事。


「……インプの足跡が密集してる」


 どうやら、この先にインプの縄張りがあるようだ。

 だが、どう見てもこれは……、


「罠……だよなぁ」


 こちらにはインプの足跡のみ。

 インプを追ってこのまま進めば、背後からグレムリンが現れそうだ。というかそれしかない。

 小賢しい奴らのやりそうな事だ。

 なら、先程同様……、


「ふっ!」


 駆け抜ける。

 すると、駆け始めた直後、背後に何体かのモンスターの気配を感じた。

 これをぶっちぎり、接敵間隔にズレを生じさせれば、奴らの作戦は無駄に終わる。

 遠くに見えるのは、小さいながら隆起した背中をした……インプ。まるで小鬼のようだな。

 奴らはまだ俺の接近に気付いていない。

 ならばこのまま……仕留める!


「ふっ!」

「「ガァアアッ!?」」


 すれ違いざまに2体のインプの首を刈り取る。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


 ……さて、インプの天恵は一体?

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