第12話 新たな武器

 天才の武器や防具には、ランクと同じで等級が存在する。

 最下級のブロンズクラス、下級のアイアンクラス、中級のゴールドクラス、上級のプラチナクラス、最上級のミスリルクラス。

 そして全天才の憧れ、伝説級はそのままレジェンドクラスと呼ばれている。

 海外の天才が、ダンジョンからレジェンドクラス以上の武器を手に入れたとか噂になったが、真相は定かではない。


 さて、10万円で買える剣とは一体どんなものか。

 当然、ブロンズクラスである。

 アイアンクラスの武具ともなれば、平均価格が50万円前後。今の俺では買える訳がない。

 ゴールドなら100万、プラチナともなれば500万を超える。

 数千万の取引が行われるミスリルクラスなんて、夢のまた夢。

 レジェンドクラスは最早もはや、考えるだけで恐ろしい。


 ブロンズクラスの鉄の剣、お値段なんと税込み99800円を手に入れた俺は、夕方……再びゴブリン討伐に来ていた。


「おぉ~……ブロンズクラスとはいえ、造りもしっかりしてるから斬れる斬れる……」


 確か、民間の軍事会社と協力して、魔石を封じた武器を造ってるんだっけか。

 魔石は、凝縮し魔石の塊にする技術が存在する。

 だから魔石は、大きさと重さで換金価格が決まる。

 そして、その魔石はエネルギー源になったり、武具に封じ込めてアーティファクト化に使ったりする。

 しかし、アーティファクト化されている武具は、ゴールドクラスからなので、やはり俺にはまだ早いのだ。


 ――【探究】が完了しました。天恵【腕力E】の解析度100%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【腕力D】を取得しました。


 やはり、腕力系の天恵の成長が早い。

 まぁ、【腕力G】持ちのゴブリンを倒し続けてるってのが大きいけど、【腕力D】になった今でも、ゴブリンを一体倒せば1~2%進捗が進む。

 ここを卒業する頃には、もしかしたら腕力だけAとかになっているかもしれない。


 そんな期待をしつつ、今日もまた素振り、討伐、素振り、討伐。

 魔石、ウハウハ、魔石、ウハウハである。

 しかし……、


「う~ん……困ったな」


 昨日は五十体くらいだったが、今日のゴブリンは百体を超えてしまった。剣が悪い。スパスパ斬れるのが悪い。

 他責思考になってしまうものの、この時間だとまだ相田さんがいるだろうし……何か突っ込まれた時にボロを出してしまうかもしれない。


「…………仕方ない」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 天才派遣所は都内に二ヶ所出張所を置いている。

 相田さんが勤務し、俺がいつも入り浸っているのは八王子支部。

 そして、もう一カ所は新宿にある。

 天才派遣所に登録している天才は、全国どこでも依頼の受領と報告が可能だ。

 という訳で、電車に揺られ、俺は今、新宿まで足を伸ばした。

 新宿支部であれば、顔見知りもいないし――、


「あれ? キミは……」


 新宿支部の自動ドアを抜けて早々、俺は声を掛けられてしまった。

 何でこんなところに俺を知ってるやつがいるんだ?

 そう思い、俺は声のした方に振り返った。


「……ん? どちら様で?」


 どこかで見た顔だ。


「あれ? 覚えてない? キミ、ゴブリンジェネラルに襲われてた人でしょう」

「え……何でそれを…………ん?」


 首を傾けながら今一度女の顔を見る。

 なるほど、記憶が蘇ってくる。

 …………この人はアレだ…………【剣聖】さんだ。


「【剣聖】……水谷結莉ゆり……さん!」

「あ、やっぱり覚えてた。あんな状態だったからね、記憶も曖昧になるよね。もう大丈夫なの?」

「あ、あの時は助けて頂きありがとうございましたっ!」

「あはは……そんなにかしこまらないでよ。リハビリで偶然通りがかっただけだから」

「いえ、病院にまで運んで頂き、本当に助かりました!」


 俺は深々と頭を下げ、水谷に感謝を述べた。

 しかしそうか、新宿といえば巨大クラン【大いなる鐘】の活動拠点じゃないか。まさか、こんなところで水谷に会うとは……完全に想定外だ。

 しかし本当に綺麗な人だ。

 色んな視線が彼女に向いている。この人はきっとそれすらも気付いているんだろう。

 だが、彼女は一体何をしている? 

 スマホ? 俺の前で一体何故?


「あ、よしみ? 私よ」


 よしみ? 一体誰と電話してるんだ?


「君の彼氏、今、新宿に来てるよー」


 彼氏? 俺に彼女はいなかったはずだ。

 別の人の事を言ってるんだろうか。


「え? そんなのいない? あぁ、まだだったのね。ごめんごめん。え? 名前?」


 そう言って、彼女は通話口を押さえて俺に向き直った。


「キミ、名前は?」

「え? あ、申し遅れました。伊達玖命きゅうめいといいま――」


 名乗り切らない内に、水谷は電話に戻った。


「伊達玖命きゅうめいクン。うん、こっちに来てるよ。何でって…………何で新宿支部に来たの?」

「あ、えっと……ちょっと所用で……」


 だが、そんな俺の誤魔化しは通用しなかった。

 何故なら、俺は油断に油断を重ね、魔石用の袋を手に持っていたのだから。

 水谷は視線をソレに移し、電話に戻る。


「魔石の換金みたい」


 だが、気になる。

 電話の相手は一体誰なのか。


「え、代わって欲しいの?」


 そう言えば、よしみって名前……どこかで聞いた事があるような……?


「玖命クン、よしみが代わってって」


 そう言いながら、水谷は俺に電話を差し出した。


「えぇ……」

「いいからほら」


 強引にスマホを受け取った俺は、それを耳へと近付けた。


「えーっと……どちら様ですか?」

『伊達くん!? 新宿支部で魔石換金って一体どういう事っ!?』


 大変だ、とてもよく知ってる声が電話から聞こえる。

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