第4話 真価
「は……ははは……」
「ガ……ガァ……?」
突然笑い出した俺を見て、ゴブリンジェネラルも不可解を顔に浮かべている。
それもそうだ、こんな変な奴……たとえモンスターでもドン引きだろう。
これは……つまりそういう事か。
俺は今まで、どうして自分の天恵が使えないのか考えていた。
だが、考えるだけでは何も解決しなかったというだけの話だ。
俺は今まで、戦闘の場に立ってこなかった。
いや、立ったとしても今と同じ状況になる可能性は低い。
これ程の……これ程の窮地……天恵なしでは立てるはずもない。
「ハハ……ハハハハハハッ!!」
高らかに笑う俺に、ゴブリンジェネラルが対抗するように吼える。
「ガァアアアアアアアアアアッ!!!!」
まるで、「自分の方が強い」と誇示するかのように吼える。
「勘違いさせたなら悪かった。お前を笑ったんじゃないんだ。これまでの俺が滑稽でな……ははは」
「グアァ……?」
「まぁ、詳しい事は後で調べればいい」
言いながらナイフを構えた時、ゴブリンジェネラルも理解したようだ。
――次で決着だ、と。
「集中ぅ……集中っ……集中ぅう……!」
腰を落とし、呼吸を整え、息を吸い……止める。
そして、俺は気付いた。
【集中】の天恵が成長した【超集中】の真価を。
「はっ……凄いな」
見える……観える……視える……!
動作がスローモーションに見えていた【集中】とは違う。
俺の全てがゴブリンジェネラルを捉えて離さないかのようだ。
奴の視線の動き、視界の範囲、死角の範囲。
血管の脈動さえも視える。
だからこそわかる。
奴が次にどう動くかが……!
奴は言葉すら発さず、小指が欠けた右手から……左手へ大剣を預け……投げた!
俺はそれを屈んでかわし……そう、そこはやはりタックルだよな。それがお前の癖であり、お前の弱点だ。
丸めた身体で飛び込んできたゴブリンジェネラルを、屈んだままかわす事は困難。
だが、この【超集中】があれば――、
どのタイミングで足が上がり、どのタイミングでその下をくぐればいいかを教えてくれる。
そして、どのタイミングで跳べばいいか……!
「っ! そこだぁああああああああああああああっ!!」
反転しながら大地を蹴り、ゴブリンジェネラルの後頭部……狙うは――首の付け根!
「ッッッッ――!?」
刺さった瞬間、ゴブリンジェネラルの悲鳴は聞こえなかった。
ただ、ナイフから伝わる振動だけが、奴の悲痛を伝えた。
「悪いな、まだ死ぬ訳にはいかないんだよ……」
俺の言葉が伝わったのかそうでないのかはわからない。
だが、奴は奴で自らの負けを悟り、自らの死を理解したように見えた。
ゴブリンジェネラルは膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れていった。
……緊張からか、震えてナイフから手が離れない。
「はぁはぁはぁ……」
身体から全てが抜けていくようだ。
ダメだ……何も考えられない。
死闘を終え、気が抜けた?
いや、違う。
「ぁ……やば……」
俺は思い出した。
そうだ、俺の背中は血塗れだった。
今の死闘の中、傷口が更に拡がったのだ。
背中から流れる血を、
「くそ……」
そんな俺の願いのような悪態でも拾ったのか、更に俺を地獄に叩き落とす光景が目に広がった。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
響く咆哮。今の今まで聞いていた足音。
「嘘だろ……」
そして、またゴブリンジェネラルは現れた。
まさか、二体目がいたとは思わなかった。
「っ! くぅっ!」
ダメだ、身体が動かない。
当然だ。ランクGの俺がランクBのゴブリンジェネラルを倒したんだ。大金星と言えるだろう。だけど、二回目の奇跡を起こすのはもう――。
「グルァ! グルァアアアアア!!」
「ははは、怒ってるのか。まぁ……そりゃそうだよな」
仲間の殺害現場だ。
ゴブリンジェネラルに仲間意識があるのかはわからないが、誰が敵かはわかっているようだ。
「クソッタレ……」
自分の最期を悟った俺は、地面にどっと腰を落としてしまった。
ナイフを握る力もない。そもそも血が足りない。神にでも祈ろうか。いや……奇跡はもう見せてもらったか。
ゴブリンジェネラルの足音も、聞いてみれば悪くないかもしれない。
「ごめん……
不甲斐ない兄を……許して欲しい。
最後に残ったのは、妹への懺悔のみ。
ニタリと笑うゴブリンジェネラル。振り上がる大剣。
あぁ……最後に一花咲かせる事が出来たし……仕方ない、か。
大剣が振り下ろされるその時、俺は死を悟りゆっくりと目を閉じた。瞬間、俺の頬を風が撫でたのだ。
同時に鼻腔を通る華やかな香り。何と言うか……ほんとフローラル。
戦闘の場に似付かわしくない肌と鼻からの情報は、再び俺の目を開けさせた。
「間に合って良かった」
目を開けてすぐ、俺はその背中に圧倒された。
背後から得られる情報は確かに少なかった。
だが、これだけは言える。この細見の身体からどうやって、あのゴブリンジェネラルの一撃を受け止められるっていうんだ。
細剣を手に、大剣を振り払う程の膂力。
「ガァアアアッ!」
ゴブリンジェネラルも、一瞬で
すらっとした体躯、長い四肢。赤みがかった黒のショートボブは、おそらく戦闘に特化するためだろう。端正な顔立ちから見える芯のある強い視線は、ゴブリンジェネラルを捉えて離さない。
何で……何で
そう、俺はこの人を知っている。
顔見知りではない。あまりにも有名過ぎて知っているのだ。
日本には、三つの巨大なクランがある。
――一つ、北の【ポ
――一つ、西の【インサニア】。
――一つ、ここ東の【大いなる鐘】。
そして彼女は、その【大いなる鐘】が誇るランクSの強者。
【剣聖】――
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