第51話 見せつける
「そうかな? これぐらい普通だと思うけど? だって、颯君とうちは同級生だし」
「ぐっ。だが、まだ仲良くなって、そこまで経ってないだろ。それに、距離が縮まったのは、ここ最近だろ? ちょっと、馴れ馴れしくないか? 」
「その通りだけど。そんなの関係ないよ~。急に、名前呼びって、するものじゃないかな? そう主張したいけど、颯君は、どうなのかな? 馴れ馴れしいとか思ってる? もし、思ってるなら、すぐにやめるよ? 気は遣わないでね。颯君のためだもん」
「い、いや。そこまでは。…別に気にしてないけど」
「だって! 遥希ちゃん」
「ぐぬぬ~~。羨ましすぎるぞ瑞貴。おい! 颯!! 私のことも、瑞貴と同じように、下の名前で呼んでいいからな!! いや、呼べ!! 遥希って呼べ!!! 」
「えぇ!? そんないきなり!! しかも、流れるように、俺のこと、下の名前で呼んでるし!!」
第3者が聞けば、イチャイチャしているようにしか、思えない掛け合いが、2年6組の教室で、展開する。
自分の席に座る、颯を中心に、遥希と瑞稀が、他人のイスを許可を取って使い、左右で挟む形を取る。
2人共、颯との距離は異常に近く、遥希が右、瑞貴が左のポジションを確保する。
そんな夢にも思わなかった光景に、聖羅は直面する。
颯達以外の、2年6組の生徒達は、怪訝な目で、教室の後ろの戸で、佇む聖羅を凝視する。
だが、ショックからか。多くの視線に意識が向かず、その場から、全く動かない状態だ。
「「あ」」
ようやく、遥希と瑞貴が、聖羅の存在に気付く。
遥希と瑞貴のおかげで、颯も聖羅を認識する。
「……伊藤さん」
聖羅と目が合い、颯はボソッと呟く。
目が合ったことで、心の底から嬉しそうに、聖羅は頬を緩める。思わずといった形だ、
だが、すぐに、颯からの名字呼びを受け、残念そうに、辛そうに、目を細める。短時間で、コロコロ表情が変わる。
まだ、颯に対する好意は、少なからず有りそうだ。
颯と星羅の目が合い、見つめ合った状態に、納得がいかない人物が2人いた。
遥希と瑞貴だ。
一目で分かるほど、不満そうな顔を浮かべる。
一瞬だが、遥希も瑞貴も、聖羅を睨み付けた。敵対心は剥き出しだ。
「おっと! 私達は今、颯と楽しい時間を過ごしてるんだ!! 悪いが、邪魔しないでくれるか!! 」
「そうそう! 浮気した人は、もう颯君とは、関わらないでね。浮気相手の男子と、せいぜい楽しく過ごしなよ。確か、名前は石井君だったよね? 」
自分達の優位性を証明するために、遥希と瑞貴は、それぞれ、颯の腕に抱きついた。まるで、颯の彼女であることを、証明するように。
遥希が右腕、瑞稀が左腕に、しがみ付く。
「ちょっ。2人共。…近いって」
動揺を隠せない颯。
ブレザーで隠れているが、女性特有の柔らかい腕と、豊満な2つの、男をダメにする感触が、颯の両腕を、これでもかと襲う。
(それと。……色々と柔らかい物も当たってる~)
ゴリゴリと理性が削られ、落ち着かない。全ては、遥希と瑞貴のせいだ。
「いやいや。私達の仲だったら、これくらい当然だから!! なぁ! 瑞貴? 」
「うん! うん! 間違いないよ!! そういうことだから。ごめんね~。元カノさん」
より颯の両方の腕に、豊満な双丘を押し付け、聖羅を見つめながら、遥希と瑞貴は、含みのある笑顔を作った。意図のある笑顔に、間違いない。
黙っていたまま、苦しみに耐えるように、俯きながら、聖羅は、小刻みに身体を震わせる。
目の前に出現する、颯が美女に囲まれる光景を直視できないのだろう。悔しそうな、悲しそうな、顔を浮かべ、床を見つめ、歯を食い縛る。
「おい! 遥希と瑞貴は、どこだい! クラスで見掛けないんだけど」
ドタドタと、駆け足で廊下を走り、後方の戸から、急いで入室する人物が、いきなり現れた。
「お~。クズ1号とクズ2号が、集まったな。別に揃って欲しくなかったけど」
「うちも。遥希ちゃんに同意だね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます