第3話 謎の証拠
「そういうことだ。だから私と石井和久は既に友達ではない」
仁王立ちの姿勢を形成し、嵐のように現れた女子は主張する。
教室内は未だに騒がしい。周囲のクラスメイト達は動揺、戸惑い、驚きを隠せない。
スクールカーストトップレベルであり、学年1のイケメンの石井和久。そんなイケメンと友達の縁を切った。それは衝撃的だったのだろう。
普通、イケメンでスクールカーストトップレベルの人間と縁を切らない。並のスクールカーストの人間ならば、縁を切った結果、学校での居場所を失う羽目になる。
それほどスクールカーストトップレベルの人間は権力を持つ。
スクールカーストが高い=偉い。これは小・中・高の暗黙の了解である。大部分の学生がこの理不尽で、陳腐な現実を理解する。
実に不公平だ。学生で序列が存在するなんて。だが世の中は弱肉強食だ。そのため、スクールカーストの高い人間は学校において偉いのだ。
「それでだ。石井のクソ野郎のせいで被害を被った君に謝罪をしようと思ってね」
クラスメイト達から視線の集中砲火を受ける。だが、当の本人はケロッとする。視線など一切気にしていない様子だ。
「もう既に友達ではないが。元友人が迷惑を掛けた。本当にすまない」
申し訳なさそうに、美少女は謝罪する。会釈するように軽く頭も下げる。
美少女の行いに、聖羅を含めたクラスメイト達に?が浮かぶ。なぜ美少女が謝罪したのか。理解できないのだろう。
だが、颯は理解できた。おそらく、聖羅の浮気の件だろうと。そして、目の前の美少女は石井の下劣な行為を知ってしまったのだろう。
「い、いや。別に君が謝る必要はないよ。君は何もしてないでしょ」
颯の取るべき行動は1つだった。美少女の頭を上げさせること。それに尽きる。なぜなら、美少女は何も悪くないのだから。
しかし、美少女は申し訳なさげな顔を作ったままだ。
「…そうか? 前まで、友人だったから謝罪したのだが。必要はないか? 」
「その意味が分からないよ。君は悪事を働いてない。だから謝る必要は皆無だよ」
「本当か。そんなものなのか。ただ被害を受けた君が言うのなら」
ようやく頭を上げた美少女。
自然と颯と美少女の目が合う。ぱっちりした優美な水色の瞳だった。乳白色の肌も相まって、まさに日本人離れした様子である。
「うん。だから責任を感じなくていいよ。君は無罪だから」
颯は自然と美少女を励ますような口調になった。まるで自分が被害者のような感じで喋っていることに、彼は気づいていない。
昨日から落ちてた気分が嘘のような対応していた。昨日の精神状態からは考えられないほど、優しい対応を行う。
「そうか。そうなのか。私は石井の元友人だった。だから少なからず友人の責任があると思っていた。でも、被害者の君が言うなら。私は責任を感じる必要はないかもしれない。ありがとう」
ようやく美少女から笑顔がこぼれた。安堵したような、自然と漏れた笑顔だった。
目の前の美少女は笑顔の方が似合うと、颯が思った。美少女の笑顔は普段の口調とは相反し、非常に可愛らしかった。大概の男子はギャップ萌えだろう。
普段の口調は男のようにハキハキしている。だが、笑顔は抜群に可愛い。破壊力は抜群だった。
「君は優しいな。これから、また会う機会があれば。いや、会ってまた話そう!! 」
会社の上司のように、美少女はポンッと颯の右肩に触れた。
柔らかい手の感触が颯の肩に伝わる。スキンシップだった。
「あ…」
人生で異性との交友が少ない颯。彼女も聖羅が初めてだった。そのため、女子に対する耐性が未熟だ。
THE陰キャのように、1言ことだけ発し、特に反応できなかった。それ以降、何もアクションを起こせなかった。
「ちょっと! 人の彼氏と仲良くしようとしないで! 奪う魂胆なわけ? 」
今まで黙っていた聖羅が、喧嘩腰で颯と美少女の間に割って入る。額に青筋を浮かべ、不機嫌な雰囲気を醸し出す。一見して明らかだった。
「うるさいな~。クズ1号は静寂をキープできないのか」
大袈裟にため息を吐き、面倒くさそうに、美少女はブレザーのポケットからスマートフォンを取り出す。
慣れた手つきで操作し、無言で聖羅に向けて画面を見せる。画面の内容は聖羅しか視認できない。そういう風に美少女が仕向ける。
「え…」
スマートフォンの画面を視認した直後、聖羅の顔が固まる。言葉が出ず、絶句する。
「はい! 黙ってくれた。その状態をキープしてな! 」
満足した表情で、美少女はブレザーにスマートフォンを仕舞う。
「そろそろ教室に戻るわ。またな天音」
背中を向け、美少女は歩を進める。振り返らず、教室後方の戸へ向かう。教室の誰もが美少女に視線を集める。
そんな環境下でも、美少女は平然とした態度で歩く。背筋が伸びた整った姿勢を維持する。
特に周囲に視線を走らせず、美少女は教室を後にした。しっかりドアも閉めた。
ドアの閉まった音のみがクラスで鳴った。教室に身を置く全員の人間の鼓膜を刺激したのは、間違いないだろう。
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