俳句鑑賞の物語

北里有李

柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規

柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規


・・・


あまりにも有名な句である。

正岡子規という名よりこの句のほうが轟いているのではないだろうか。いや、流石に正岡子規レベルになればそんなことはあるまい。


さて、鑑賞の時間だ。


恐らくこのころの法隆寺というのは、今のように俗物的な観光客で溢れる前の法隆寺だ。

まだ着物が一般的だった時代だったから、着物の人が行き交う道だったに違いない。

作者も行き交う人の一人だったのだが、疲れてしまって休むことにする。あるいは旅疲れだったのだろう。

茶屋かなにかで休んでいると、柿を出してくれた。

シャクリと齧り、果物にしては固い食感と、さっぱりとした果汁を味わう。

すると、どこからか鐘の音が聞こえてきた。

「この鐘は何処の鐘か」と思えば、法隆寺の鐘だったのだ。

秋のからりと澄んだ空気の中を、続いて撞かれた鐘がびりびりと揺らす。

作者は秋の深さを感じながら、もう一度柿を齧った。

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