第13話 悪役令嬢と主人公
食堂を出た後のことだった。
「お二人は、どうしてそんなに仲がいいんですか?」
成り行きに任せ、私とクリスさん、イリーナちゃんで並んで学園の廊下を歩く。
私が真ん中、二人がそれぞれ私の右と左に位置づける形だ。
相変わらず人目を憚ることもなく私の手を握るクリスさんに、イリーナちゃんがかけた一言。
そのきっと何気なかったであろう一言が、私に……クリスさんがまごうことなき『悪役令嬢』であったことを思い知らせたのだ。
……ある意味では。
「なぜ? そうですね……私がマリーさんの彼女だからです」
なんか……いや、もういいよそれで。
彼女ってことで。
答えになってないけどな。
「へぇ……? よく分からないけど、そうなんですね! 私も彼女欲しいです」
「……? 貴方に彼女ができるとでも?」
待て。
クリスさん、それは……。
「え……いやでも、もしかしたら!」
「いいえ。ないです」
「そんなぁ!」
言ってること、ちょっときつくないか?
それでこそ悪役令嬢って感じもあるが、私としては正直あまり聞き流したくはない。
だって、他でもないクリスさんがこういうことばかりを言い続けた結果がゲームでの追放エンドだったりするわけで……。
「あ、そうだ、マリーさん! マリーさんは私のこと、どう思いますか!?」
「え、えと、それは……」
そんなことを考えていると、今度は私がイリーナちゃんに話をふられた。
だが、答えづらい類の質問だ。
こういうのってどう答えるのが正解なんだ?
「むふー……」
めっちゃ見てる。
めちゃくちゃ見られてる。
アニメもびっくりなキラキラ眼で見つめられてる。
「……ま、まあ、イリーナちゃんだってかわいいし……できる時はできるんじゃない?」
ひとまず曖昧な返事で濁す…………!?
よ、横から殺気が!
誰だ……いや、クリスさんか!?
他にいないよね!?
「……イリーナさん。マリーさんは渡しませんよ?」
クリスさんの目がイリーナちゃんを睨みつける。
渡しませんよも何も、別にクリスさんのものになった覚えはないのだが……でも、うっかりそんなことを言おうものなら殺されそうな雰囲気だ。
「え!? あ、いや、そんなわけでは……」
「ではどんなわけだったんでしょうか? 突然あんな質問をして……試すような真似を」
「あ、そ、それは……でも……」
「全く……身の程知らずも甚だしい。マリーさんは私のものですからね?」
言いやがった。
堂々と。
私に対して所有権を主張するな。
というかクリスさんの発言は何だ? 嫉妬か?
……何に対しての?
「あの、クリスさん……?」
「マリーさんは渡しません」
「む、むー……私だって!」
わあ怖い怖い、謎の喧嘩が始まってしまう。
何が怖いってこの人たち私を挟んで睨み合い始めちゃったんだよね。
勘弁してほしい。
私のために争わないで!
「あー……ちょっと二人とも、その辺で……」
「あ、イリーナさーん! 一緒に行きましょー!」
「わっ!? あ、キナちゃんか……すみませんお二人、友達に呼ばれたので行きますね! また今度!」
「あ、ちょっと……」
後ろから声をかけられ、そちらに駆けていってしまうイリーナちゃんをただ見送る。
今度は転ぶこともなく、さっさと走り去ってしまった。
うーん……まあいいか。
ひとまずこの場は収まったってことで……。
「……マリーさん」
「あ、クリスさん……ねえ、さっきのはちょっとさ、どうなの?」
とはいえ、何も言わないわけにもいくまい。
この先もあの調子じゃ、本当にクリスさんが追放されてしまう。
友人として、そして彼女(?)として、言うべきところは言わなければ。
「さっきの? いつのことでしょうか?」
「え? さっきほら、イリーナちゃんに」
「ああ、あの子ですか。……全く」
ふん、と鼻を鳴らしてクリスさんは続ける。
見ようによっては尊大な態度だ……が、なんだか違うような……?
「……クリスさん?」
「あの子には彼女なんかより、彼氏の方が似合いますよね?」
「……え?」
え?
「突然『彼女が欲しい』とか言い出したのは驚きました。もう……せっかく可愛い顔をしているのだから、どこかの貴族にでも嫁いだ方がよほど幸せになれるでしょうに。それであれば、余計な波風も立ちませんし……うん? どうかしましたか?」
「ああ……その……えっと……」
ああ……うん。
なるほど?
クリスさん的には、純粋にイリーナちゃんのことを案じた結果と……うん……?
確かに考えようによってはそうだよね、同性婚って宗教とかによってはタブーだったりするし。
イリーナちゃんは何というか人好きのする容姿だし、その気になればよりどりみどりだろう。
だからこそ恋愛ゲームの主人公を張ったりしたわけで。
彼氏だとか彼女だとか、そういうのに縛られない方が幸せになれる可能性は高いのかも……。
……いや、分かりにくいよ!
どう聞いても貶してるようにしか聞こえなかったけど!?
紛らわしい言い方ばっかりするから悪役になんか仕立て上げられちゃうんだよ!!
「……それに」
「そ、それに……?」
「マリーさんは私のものですから。誰にも渡しません」
突然のヤンデレ。
じょ、冗談で言っているのかと思ったんだけどな……いや怖い怖いよ目が、目のハイライトが消えてるよ。
そのうち他の人と話しただけで刺されるんじゃないかなーなんて……はは、そんなわけないない。
「……な、なんですか? クリスさん」
「それは……ありですね」
「ねえ待ってありって何? 何に対して言ったの!? まさかとは思うけど、今の私の思考に対して言ったわけじゃないよね!!?」
怖い。
怖すぎる。
物理的にも精神的にも離れられる気がしない。
……どうしてこうなった?
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