第2話 新発売

 私は割とどこにでもいる普通の女子高生だ。

 趣味はゲーム。以上。



 面白みも何もなく、ただなんとなく日々を生きている。

 大量生産社会の歯車、束の間のモラトリアムを満喫する個性ゼロ予備軍。

 社会に出ては適当に働き、出る杭とも凹む杭ともならず、そこそこの人生を謳歌したい。

 そういうものに私はなりたい。


 夢がない? うるさいよ。

 今時の高校生なんてこんなもんだ。知らんけど。


「はあ……暇だなあ」


 家の自室にて一人呟く。

 両親はまだ帰っていない。

 友達も彼氏も彼女もいない。


 つまり、ありふれたぼっちだ。


 こんなぼっちがありふれているなら、ぼっち同士で友達にでもなれそうなものだが……いや甘い甘い、我ながらさとうきびの砂糖漬けより甘い。


 ぼっちのコミュ力を舐めてはいけない。

 コミュできないからぼっちなんだよ。

 わざわざぼっち同士を引き合わせたところで、対消滅が関の山。


「つまりはネットが至高ってわけ……よっと」


 マウスをカチカチと鳴らし、家のパソコンをいじる。

 学校から帰ったあとはいつもこうして、面白そうな新作ゲームの情報を追うのだ。



 そんなこんなで数クリック、腕と目だけを動かしているうちにとある一文が目に留まった。


『待望の新作発売! 開発はあの〇〇!』

「……ふうん?」


 この開発者のフリーゲームはいくつかやったことがあったっけ。

 特にある恋愛系乙女ゲームが面白く、一時期結構熱中したものだ。



 ストーリーは割と王道。

 女主人公がとある学園に入学して、なんだかんだありつつハーレムを築く……とかそんな感じ?


 けど妙に捻ったところがあったりして、私含め一部の層には人気のゲームだったようだ。

 なんだかんだでキャラデザも設定も秀逸だったしなあ。



 主人公はもちろん、こうしたストーリー定番のおじゃま役? な『悪役令嬢』ポジのキャラが個人的には推しだった。

 実は結構いい人であることがルートによっては分かったりするんだけども、ストーリーの都合上どんなルートを取ってもこのキャラが幸せになる道はない。まあ不遇キャラだ。


 そんなこんなで悪役ながらも悲劇のヒロインっぽさもあり、ネット上でも結構人気らしい。

 『どこか深層の令嬢っぽくて良い』『個別ルートがあったら良かったのに』『救いたい』『舐めたい』『ヒールで踏まれつつゴミを見るような目で見下されながら罵倒を重ねられたい』……みたいな評価だ。私調べ。

 人気投票なんかがあったら、主人公を抑えてトップに立つタイプだろう。


「ふふ……」


 新作の情報を追っていたはずなのだが、いつの間にか旧作の評価を調べてしまっていた。

 別に減るもんじゃないしいいけどさ。

 ……時間は減るよな?



 噂で……そうあくまでも噂の上で聞いた話だけど、ネット上ではこの子と主人公がイチャイチャしたりする『百合エンド』なる二次創作があるらしい。

 どこぞの支部では一つのジャンルとして定着しているほど。


 どれもイラストが良くて……いや、あくまでも噂。

 噂、噂だ。

 決して読んだわけではない。

 わけではないのだ。

 本当だよ?


「んじゃ、まあ……買いに行くかなあ……?」


 ともあれ、同じ作者の新作だ。買わない手はないだろう。

 ネット通販で済ませてもいいんだけど……なんとなくゲームとか、趣味に関するものは自分の足で買いに行きたい。


 学生の身には、安い買い物でもないしね。


「えーっと、靴下靴下……あ、財布」


 空は曇天、いつ降るか分からないくらいの天気だが、それ故に暑くなく日当たりもない。

 隠キャ基準ではいい天気だ。


「っし、行ってきまーす」

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