教室のひまわり
一学期の終わりの特別授業。教室は先程返されたテストのせいで、夏のお祭りのようにギャーギャー騒がしい。私は教室の窓側の一番後ろの席で、小説を読んでいるフリをしながら、前方の席にいる彼女に、まるでカメラのピントを合わせるように眺める。
その彼女はブス(クラスの陰気な男)とオシャベリをしていた。
しかもその彼女は上目遣いで、奇麗で長い髪たらし、いかにもモテない男が勘違いを起こしてしまうような態度で、笑顔でニコニコしながら話している。なんであんな奴とあんなに楽しそうに話すんだろう?僕は気づいたらあの子たちに嫉妬していた。
僕は窓に反射している自分の姿を見る、自分の髪と体つきはいいと手前味噌ながらおもうのだが、彼女はかっこいい子が好きらしいから、このままでは彼女を振り向かせることができないと、自分の理想と現実のギャップを痛いほど感じる。いつ彼女が誰かに告白されて、自分のモノになる可能性がゼロになってしまうのか、まるで弄ばれているようで、焦らされているようで、私の臆病な自尊心と、尊大な羞恥心はズキズキして吐き気がした。
ストーカーのように彼女とブスを見ていると、ブスが先生に呼ばれた。思わず心の中で可哀そう、と心の中で侮蔑を孕んだ嘲笑のような醜い感情が口の外にまであふれだしそうになり、慌てて口を抑えた。推測でしかないが、ブスは欠点でも取ってしまったのだろう。このまま留年になって学校辞めてしまえ、と何の抵抗もなく考えてしまう自分に少し恐怖を感じた。でもそんなことを気にしていたら、きっと彼女は手に入らない。私には生まれ持った才能も努力も何も無いから、私は手段なんて選んでいられない。僕は再び、教室の隅で決心した。
オシャベリ相手のブスがいなくなってしまい、ひとりぼっちになってしまった彼女は、新しい話相手を探し始める。しめた!僕は心の中で叫んだ。彼女が向かった先は、僕の友達の新興カップルだった。僕はすぐさま椅子から立ち上がった。そしてみんなのいるところへ歩みを進める。すべての窓が少しずつ空いていたからか、乾いた風が流れてくる。流れる風がまるで生きているかのように、僕の髪をなびかせる。少し髪が伸びてきたのかな?
三人のもとへ行くと、新興カップルの男の方(早川拓哉)が、
「相変らず黒くて奇麗な長髪だな」と言う。僕は聞こえないふりをした。
すると、新興カップルの彼女のほう(間宮ゆきな)が、
「いやーもう一学期も終わりなんだね。なんだかとても短かったような気がするよ」
「ほんとうにそうだね。でも楽しかったなー」
それに呼応してあの子が満点の笑顔で言った。
ん?一学期が終わる?そうかこれから夏休みなんだ。あの子のことを四六時中考えていると、四季なんて、時間なんて、どうでもいいと思えてしまう自分がいる。でも、折角の夏休みならあの子と一緒にデートができるかもしれない。頼む、誰でもいいから遊びに行く約束を取り付けれくれ!そんなことを心の中で念じていると、新興カップルの彼氏のほうが、
「なあ、このメンバーで、ボウリングとか行かね?このメンバーで言ったら絶対楽しでしょ!」
お前は女の子が多くいたほうがいいだけだろうが!、言っとくけどお前の浮気なんかで、この子を奪わせる気なんて毛頭ないぞ。僕は心の中でこの女たらし男の警戒メーターを最大限引き上げる。でもまあいい、この男のおかげであの子と一緒に遊びに行けるわけだから、まあ今回は不問としよう。
また、教室の窓から乾いた暑い風が背中から吹いてきた。その風がなにか不穏なことを教えようとしているようで、なんだか胸騒ぎがした。
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