人でなしダンジョンマスターの魔王道

宇佐部

第1話 ほどほどな幸せはいらない

――ポタッ、ポタッ、


ベッドの上でダラダラとスマホをいじっていた俺は、気がつくと雫の垂れる洞穴の中にいた。


「ど、どこ……えっ? なになに?」


現状を知るための情報は限りなく少なく、強いて言うなら日の出ていない外の景色だけ。

僅かに見える月が今が夜であることを教えてくれる。


反対に、真っ暗な洞窟の奥には、僅かに月明かりを反射する水晶玉があった。


光に群がる虫のように、俺はその水晶玉へと近づいていく。


「何だこれ……うおっ!?」


思わず触れると、水晶玉に文字が映った。


«ダンジョンマスターとしての登録をしますか? 了承した場合、ダンジョンマスターとしての情報を自動的に植え付けられます。»


「ダンジョンマスター……」


基本的には人類の敵対者。創作物をよく読む俺にはそこそこ馴染みのある名前だ。


俺がそれになる? 現実味の無い話だ。しかし、何故だか惹き付けられる。


これまで当たり前に学生生活を送り、当たり前に就職し、当たり前に老衰で死ぬ……そんな、日本に生まれている者として平凡な、ある種恵まれているとも言える人生になるはずだった。


だが、このまま何の偉業も成し遂げない生き方より「ダンジョンマスターになれる」という与太話を信じ、怪物として生きる方がいいのではないか。


こういう面ではまだまだ幼稚さの抜けない大学生。


水晶玉に触れたまま「了承する」と呟いた。


そしてその瞬間から頭に流れ込んできた情報の量に、気を失うのだった。









意識を取り戻した俺は口から垂れるヨダレを拭いたあと、早速脳内に刻まれた情報に沿った行動を始める。


まずはDPダンジョンポイント――ダンジョンで何かをする時にはほぼ確実に必須となるエネルギーを確認する。


DP:1,000


今手元にあるのは初期値の1,000。これだけでやりくりしなければならない。



参考なまでに言うと、最下級の魔物であるゴブリンやスライム1体に必要な召喚コストは平均して10DP。

それ以下の生き物もいるにはいるが、それは魔物のカテゴリーには含まれないみたいだ。


魔物でないなら、召喚した時以上に強くなることが出来ない。確かに存在する、レベルアップの概念が組み込まれないのだ。


少し悩んだ後、ゴブリン生産渦というものを1000DPで購入する。

1日5体のゴブリンを生産する渦だ。


初速はイマイチだが、理論上は20日で元が取れる。


渦をコアの真横に設置すると、早速渦からゴブリンが這い出てきた。


俺が主だからか、彼らの能力が見れる。


――――――――――――――――――――

ゴブリン

レベル:1

スキル:なし

――――――――――――――――――――


全員これだ。

だが顔立ちや行動が微妙に違うので、恐らく個性がある。この5体の能力にも個体差があると考えていいだろう。


将来的にやりたいこともあるが……ひとまず今日はこの5体で凌ぐとしよう。


人間の敵であるダンジョンマスター初日。どう足掻こうとその生死は運任せだろうから、生きてられたらいいな。



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