最強の採点決戦!(全ギレ)

 冒険者学校はたいていの場合は3年制だ。

 今エリン達は1年生であり、春の半ばごろに俺が急遽講師として赴任した形になる。


 つまりカリキュラムの頭も頭、冒険者とは何たるものなのかというのを学ぶ時期である。

 どう考えてもやっていることは第一線で戦う戦士向けになっているが。


「……というわけで、ギルドの成り立ちはこのように国家認定を受ける以外にも様々な機関との連携あってのものなんだ」


 普段通りにやってくれというトップガン・ブレイブハート卿の要求通りに、俺は普通の座学を行っていた。

 エリンとクユミも流石に見学者がいる以上は真面目に授業を聞いてくれていた。

 こいつら普段は早弁とか他の奴にちょっかいかけたりとか俺の説明の補足とかしかしないのに……


「さっき挙げた連携機関以外にも諸々、冒険者活動の上で利用する場所はあるが……」


 だが最も普段と様子が違うのは、やはりシャロンか。

 理由は明白、教室後方で椅子に座り……座り?

 どっちかっていうと椅子の上にころんと乗っかっている聖騎士が原因だ。


「今でごわすよシャロン殿! 挙手して発言でごわす!」


 う、うるせ~……!

 どういう立場で来てるんだよ。採点じゃなかったのかよ。

 ブレイブハート卿は小さく大声を上げてシャロンを応援している。


 いやそういう授業じゃねえからこれ。

 ほら、シャロン耳真っ赤にして震えてるじゃん。


「あー、例えばそうだな……シャロン、どういう機関が思いつく?」

「ポーションを販売してくれる商会!」

「お、おう、そうだな」


 ヤケクソ感満載の即答だった。

 後ろでブレイブハート卿が立ち上がってサイレント拍手をする。

 でも座高と身長が大して変わってねえ。


 ……いや感覚がバグって流してたけど、骨格おかしくねえ?

 ほぼほぼピンクでまんまるな星の戦士みたいに見えるぞ。


 生まれつきこうなのか?

 だとしたら俺が原作で戦ったあの八頭身イケメンクズ騎士は誰?

 あんまり考えたくない可能性だけど、これもしかして別人だったりしねえよな?

 さすがに聖騎士並みの強さの人間がポンポン出て来るとは思えないんだが……


「シャロンに発言の機会を与える、加点50点……!」


 一体全体お前は誰なんだよと視線を向けるも、彼はぶつぶつと手帳に加点を書き込んでいる。

 どういう基準で採点してるんだ。


「くふふ……まさか教壇に立つハルートさんが見られるとは、毎秒加点したいでごわすな……! おっとアブナイ公平性公平性」


 お前に公平性は微塵も感じられねえよ、とデカい独り言に返しそうになる。

 とはいえ迂闊に動いて減点されるのも嫌だ。


 っつーかこれ何もわかってないんだけど何点満点?

 どれくらいでシャロンがどうなるの?

 ここまでルール不明だと何もできん。本当に普段通りにやるしかない。


「流石だなシャロン、そこは言っていなかったが思いついていなかったか」

「……無理して褒めなくていいんだけど」


 尋常じゃなく不服そうな表情を浮かべるシャロン。

 俺は肩をすくめて苦笑した。


「そんなことはない、まだ君は実際に冒険に旅立っていないんだ」

「……それはそうだけど」

「でも、何が必要になるのかを冷静に考えられている。その視点が冒険者には必要だ」


 旅行だって、いざ目的地に着いてからアレやらコレやら持ってくればよかったと後悔することがある。

 冒険ともなれば遭遇するシチュエーションが絞り切れない以上、この選択肢がほとんど無数に発生するのだ。


 もちろんポーションはその中でも優先度の高い代物である。

 迂闊に切らすことは即座に死へと直結する。

 でも、これが本当によく切れるんだよな。


 ……うちはマリーメイア加入後は話が根底から違ったけど。

 やろうと思えばポーション0本縛りとか舐め切ったこともできただろう。

 さすがに怖すぎてやらないけどさ。


「公的機関以外にも商会や運搬を担当してくれる輸送機関などがあって、冒険者はその生業を成立させることができている」


 黒板には、ざっとした冒険者ギルドの周辺機関との関係図を描いている。

 複雑なように見えるが一つ一つを拾っていけばそう難しくはない。


「板書が綺麗で見やすい、80点加点でごわすな」


 いよいよ俺個人で得点を荒稼ぎし始めちゃったよ。

 っつーか採点全部聞こえてるから。普通それこっちに聞こえないようにするやつだから。

 なるべく点数状況を考えないようにしつつ、話を続ける。


「とはいえこれは冒険者の話だ。仕事の関係で他の職業の人と話す際には事情が違うことを頭に入れておく必要がある」


 話を続けながらも、後ろでうんうん頷いているブレイブハート卿をちらりと見る。

 シャロンからすれば保護者でもないし昔ちょっと縁があっただけの男。

 なぜ今こんなことになっているか分からないだろう。そして俺にも分からない。


「例えばなんですが、ブレイブハート卿だったらどうですか?」


 少し様子を探ってみるか。

 試しに水を向けると、彼は椅子の上でスッと居住まいをただした。


「おいどんの場合は騎士団を支えてくれる方々とは別に、おいどん個人を応援して下さっとるスポンサーの方々がおりますからなあ」

「聖騎士さんは個別での支援が許可されていましたね」


 原作シナリオではそれを不正に利用する聖騎士がいたんだよな。

 お前のことなんだけどな、ブレイブハート卿。


「ええ、おかげで装備を充実させて、個人戦力として特化することができとります」


 頭をかきながら、たははと笑うブレイブハート卿。

 世間一般に浸透している、厳粛で厳格な聖騎士というイメージがぶっ壊れる光景だ。


 ……外見が違うからか、驚くほどに警戒心が沸かない。

 まずいな、という感想と、別にいいんじゃないのか、という感想が共存している。

 原作を参考にするのなら、クズ聖騎士相手にノー警戒はありえないはずなのに。


「有名な話では、聖騎士の装備、特にメインウエポンとして用いる剣は、騎士団が発注するよりも個人で用意していることの方が多いなんて話を聞きますが」

「ハハハッ、ハルートさんも人が悪い。それが事実だとあんたさんならご存じでござんしょう」


 まあ知ってる。

 いや……なんか勇者の末裔としてツテがあるから知ってるみたいな感じだけど、ゲームやってたらそういうテキストが出てきた。


「みんなにも考えてみてほしいが、聖騎士が通常の騎士とは装備段階から異なる理由はこの辺にある。上質、いやもうそんな言葉じゃ足りないぐらいの特注品だ、下振れがない」


 聖騎士から装備の発注なんか受けたら、そりゃなにがなんでも最上級の逸品を作ろうとするだろうからな。

 だが俺たち冒険者にとっては話が大きく違う。


「一方、俺たち冒険者は半端ない上振れと下振れがある。みんなはもうある程度の装備を持っているけど、普通の冒険者は自前の装備を作ってもらう場合に、ゴミみたいなのをお出しされる危険性を持つ」

「ゴミみたいって……言い過ぎじゃ……」

「エリンちゃんは知らないかもしれないけど、本当に一回振ったら壊れる剣とか渡されたりするんだよ♡」

「それは廃業した方がいいよ!?」


 俺の言い方に苦言を呈したエリンだったものの、クユミの補足を受けて悲鳴を上げている。

 これが現実なのだ。


 ちなみに装備作成がギャンブルなのはゲームシステムとしてもそうだった。

 素材を渡して作ってもらうと……こう……聖剣一歩手前みたいな装備ができたり、ゴミができたりする。

 だから既製品を買うのが安定なんだけど、高難易度クエストを頑張るのなら装備ガチャに勝たないといけないんだよな。


 しかし素材さえあれば無限にガチャを回せるゲームと現実は違う。

 冒険へと旅立つためには、どこかで妥協しなければならない。


「そこで連携機関の中では、装備開発を支援してくれる場所もある。これは普段は忘れられがちなんだが、多くの冒険者が装備更新を考えた際、ここにお世話になっているんだ」


 板書に装備開発支援機関を書き加えて、コンコンと叩く。

 テストに出すよーという合図だ。


 ……スポンサー関連でちょっとつついてみたが、怪しい言動は出てこなかったな。

 三人がノートにペンを走らせているのを確認しつつ、それとなく後方の聖騎士の様子を確認する。


「話しかけてもらった……加点500でごわすよこれは……」


 もう気にするのやめていいか? 勝ち確だろ。



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