Part0.5 アヤカシパンクXX

アヤカシパンクXX

〈海底より発見された壁画は、人類最古とされる文明の記録を、五千年若返らせた――。


 マリアナ海溝――その更に深部――海底都市遺跡から新たなる発掘品の数々が東京に上陸。

 この科学先端の時代、再びあなたを神秘へいざなう――新・世界海底都市展!〉


 はい! ということで、私は今ここ、千代田区は東京美術博覧館にお邪魔しておりま~す。こちら、ご覧ください! 圧巻でございます。私もいまなまで初めて鑑賞させていただいておりますが、もうなんというか、あまりの迫力に言葉が出てきませ〜ん。

 こちらの、マリアナ海底都市大壁画は、発見から十年以上の時が過ぎてなお、いまだに多くの謎を……』……と、リビングの壁に張り付けられた十六:九のウィンドウからは、美術系の特集番組が垂れ流されていた。ログハウス風にデザインされたこの室内空間において、その設備が妙に浮いてしまっているのは否めない。


 だがそれはひとまずどうでもよく、

 番組は完全無視に背を向けて、その学生少女と思わしき存在は食卓用テーブルと向き合っていた。


 彼女は手にしていた一、二枚の便箋に軽く目を滑らせると、それを丁寧に折りたたんで、優しく洋封筒にし込み、そのままそっと添えるようにテーブルに置いた。


『……このことから、古代の人類の中には本物の魔法使いが存ざ――』 フッ――とウィンドウが閉じる。下から同サイズの、スピーカー付のボードが露わになった。つまりは、所謂いわゆる「モニターの電源が切れた」ということだ。


 少女は何も持たないまま真っ直ぐに玄関へと向かう。

 その姿――黒を基調とした、ブレザータイプの制服。下はスラックスで、細身なスタイルの彼女にはピシリと似合っていた。


 ローファーを履き終えると、黒の革手袋を両手にはめる。そして玄関のドアハンドルに手をかけると、


 少女は固まった。


 ――数秒のだ。

 何を思ったのだろう。

 何を決心したのだろう。


 ドアを押し開く。

 結局無言を貫いたまま、少女は家を後にした。




 時刻はもうじき正午を回る。気のたるみそうな暖かさが外に充満していた。鬱陶しいこと、この上ない。

 空をあおげば、澄み渡った水色一色みずいろいっしょくがダイレクトに広がっている。当然なのだ。道に電柱はなし電線もなし、上下を遮るものは何もない。

 かと思えばだ、今度はプラスチックボックスを抱えたドローンが複数機、カッチリ隊列をなして駆け抜けた――。


 近づく駅前。増す賑わい。

 路上は全て、紺碧こんぺきのアスファルトできらめいて、

 その上を走りすれ違う電動の車達。そのどれもこれもが、不自然なほど等速。

 観察――ハンドルを握るドライバーとやらは、どこもかしこも見当たらず、更には乗員ゼロの車だって少なくはない。

 その事実に、まどう人間は、ここには一人もいない。

 少女もまたそうであった。


 改札から次々と通行許可の電子音が鳴る。

 少女は、他の人間同様、特に何をするでもなくで改札を越えた。

 彼女の背中は、駅の奥へと、その他大勢の中に紛れていった――。






 時は――――

     ――――20XX年なのである。



 シンギュラリティAI。量子コンピュータ。いつの時代の話か。

 量子AIの実用化だってとっくの昔の出来事だ。

 人類は今まさに、暴走したアンドロイド達による支配を受けていた、なんて馬鹿げたことが起こるはずもなく、

 彼らは、急激に発展を遂げ続けるハイテク横行社会を、どっぷりと謳歌していた。


 新たに物が生まれれば、それを使いこなし、慣れ親しみ、やがてその豊かさを忘れて、再び更なる幸福を抽象的に求め始める。

 やっていることはそれ以前の人類と変わらない。強いて言うとすれば、そのループを享受できる人口が大量に増加したくらいだ。


 よって、本来これ以上物を語る必要はない。

 何も変わらないのであれば、話の続きはいらない。

 ……って感じになるはずだった。




 だがどうやら事情は変わってしまった。




 二十一世紀後半――人々の、あずかり知らぬ地下研究施設にて、世界に舞い戻ってきたヤツラがいた。

 運命の鎖に引き寄せられたその宝石達は、きっと好き勝手に輝きだす。


 ならば――ならば―――


 〝目醒めろ〟

 〝望め〟

 〝昂ぶれ〟

 〝導け〟

 〝重なれ〟

 〝放て〟

 〝選べ〟

 〝貫け〟

 〝巣を立て〟




 そして――

 少女は――――






 始まった 始まっている

 ヤツラがぞろぞろやってくる

 平和なボケ共蹴散らして

 ワガモノ顔でやってくる

 己もお前も誰も彼も

 気が触れるほどに焼き尽くす

 痺れるほどに爆ぜて閃く

 清濁まとめて噛み潰し

 痛快まるごと胃に落とせ


 〝アヤカシパンク〟がこれより始まる






 ビビビッテル?

 ――To Be Continued

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