Case3-44 少女

 しかし、そんなことは些細な問題だった。そのまま立ち上がった少女は、やはり見間違いではなかったその光景に目を奪われていた。


 あちこちに転がされた、大きなコンクリートの瓦礫達と十人近い――はたまた既に十体か――黒ずくめの男達……そして、その先のには、巨大な、少女をたやすく呑み込んでしまうほどの、あまりに巨大な穴が空いていた。鉄扉よりも一回り二回り、いや三回りは大きい。

 少女はまばたきもできずに、ぽっかりと口を開きっぱなしのまま、ただただ言葉を失い続けていた。

 奴がやったのだ。鉄で出来たあの頑丈そうな扉ごと壁を壊して、この中に入ってきた。それほど恐ろしい怪物がここに、それも、自分の真後ろに確かにいたのだと、信じがたくもその事実を悟った。


 巨大穴の先はやはり真っ暗で、穴の大きさばかりに意識が向いていた少女は、やがてそのことに気がつくと早々に俯いて目をそらした。

 この先に、母がいる。幸か不幸か不幸中の幸いか、道は開けたのだ。ならば進まなければならない。少女は狭い歩幅で少しずつ巨大穴へと近づいていった。

 気を紛らわせるためか無意識に両手をにぎにぎと触れあわせる。近づくほどに、体の内から緊張と警戒が強まっていくのを感じる。

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