Case3-20 少女

「やめて!!」


 瞼が勢いよく開いた。

 少女は、自分で上げた声で、浅い眠りから引き起こされた。

 ふっかりとした革製のソファに仰向けで寝そべっており、お腹には冷えないようにとタオルケットがかかっている。

 息がかすかに上がっていて、心臓も無視できないほど強く鼓動していた。

 目尻を伝って、流れ落ちる感覚……涙だ。

 なんと、自分は夢を見て現実で泣いたのだ。そんなこと、今まで経験したことがない。

 本来であれば、そのことにもっと驚いていたはずだ。

 しかし、今の少女には、幻涙げんるいを噛みしめているほどの余裕はなかった。

 室内の天井中心に備え付けられたスピーカー。そこから繰り返し鳴り響く、頭を振るわせるような恐ろしい警報音――目ざめた瞬間から耳に飛び込んできたその脅迫に、少女は激しく心をかき乱されていた。

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