第七幕 行列

行列―1

 あさぎは、目を覚ました。見えたのは知らない天井で、首を横に動かすと凪の緑がかった髪があった。


「凪!」

 飛び起きて、凪に駆け寄った。顔を覗き込むと、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。


「良かった……」


 あさぎは、凪の寝ている布団の横にへたり込んだ。あの火事からちゃんと抜けることが出来たのだ。あさぎも、凪も二人とも。


 改めて、二人が寝ていた部屋をぐるりと見回した。布団が二つ並べて敷ける広さで、壁には掛け軸があり、あさぎの寝ていた布団の側には障子。見覚えがない。もちろん黄昏座ではないし、寧々の長屋ともまた違う。ここはどこなのだろう。あさぎは、そっと障子を開けて、部屋の外に出た。廊下がそのまま外に面していて、空の眩しさに目を細めた。今は昼頃、だろうか。廊下は、この建物をぐるりと囲んでいるようだった。


「誰か、いませんかー」

 あさぎは、声を掛けながら廊下を進んだ。すると、今歩いていたすぐ横の障子が開いた。


「わっ」

「あさぎ! 目が覚めたのか……!」


 琥珀の声がしたかと思うと、その腕の中にすっぽりと抱きしめられた。息が苦しいほど抱きしめられたが、琥珀の胸元に顔を埋めている体勢なので、声が出せない。代わりに、手のひらで、琥珀の背中を叩く。


「あ、すまん、苦しかったか」

 ようやく琥珀の腕の中から解放された。少し物寂しくも思えたが、あさぎは、こくりと頷く。


「心配かけて、ごめん。助けに来てくれて、ありがとう」

「ああ」


 琥珀が出てきた部屋には、寧々、花音、雪音、佐奈もいた。見られていたことは恥ずかしいが、黄昏座の全員が無事だったようで、安心した。


「ようやく目が覚めましたの。心配しましたわ、全く……」

「え、私そんなに寝てた?」


 火事があったのは、夜中。確かにもう昼だから起きるのが少し遅くはなったと思っているが。そんなに言われるほどだろうか。


「今日は十一日です。あさぎは、火事の後、丸一日寝ていましたよ」

「え!」

 そんなに寝ていたとは思わなかった。それは、心配をかけたに違いない。


「心配をおかけしました……」

 あさぎは、深々と礼をしてから、部屋に入れてもらった。

 昨日、あさぎが寝ている間に、皆は火事の後始末に追われていたと聞いた。持ち出せるものは持ってきたらしいが、かなりの物が燃えてしまった。黄昏座自体が半壊で済んだことが奇跡だ。


「ところで、ここは?」

「浅草寺の敷地内にある、鎮護堂というところやよ。火事に遭ったから、しばらくはここを使わせてもらえることになったんよ」

「ここは、狸が祀られているところで、常連のあの狸のやつが管理しているそうだ。その縁で、引き受けてくれた。覚えてるか、あさぎが来たばかりの時の、手紙の」

「あ! 手紙の文字が怖かった人!」


 あさぎの思い出し方に、その場にいた全員が吹き出した。あさぎも言ってから、失礼だったと思い、ごめんなさい、と言った。それが余計に笑いを誘う結果になってしまったが。

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