蝶となりにき我が薔薇の君
内藤ふでばこ
第1話 上京
東京に来て驚いたこと。それは、電車の車両が長いことだ。一両一両も長いし、連結車両の数の多さにも圧倒された。更に、通勤・通学の時間帯には、駅も電車の中も人で一杯だ。こんなにも多くの人々が一斉に移動しているのである。毎日変わらずに。皆さま、一体どこからいらっしゃるのでしょうか?
大学進学のために地方から上京して来た者は皆、心が折れていると思う。何故なら、未だかつて体験したことのなかった圧倒的な人混みを縫って、毎日学校に通わなければならないのだから。地元のお祭りだって、こんなに大勢の人来ないよ。
私は、
私は、東京都心にある私立大学の文学部に在籍している。1年生だ。
東京で暮らすにあたって、私は大学の学生寮に入ることを希望した。それは、早瀬家の兄である
ところが、私の入った寮は、私の通う校舎からはほど遠い東京都下に建てられたもの。
私の大学には都心と都下の2つの校舎があり、私の寮は、都下の校舎に近い場所に建てられたものだったのだ。当然のごとく、私は都心の寮に入ることを希望していたのだが、希望者多数で却下された。実験や実習などで、遅くまで学校に残らねばならない理系学生や医学生を優先的に入寮させるための配慮があったからだ。それは、わかりますよ。でも、私は裕福ではないんです。勉強も頑張りますが、バイトだってしなければならないのです。通学だけに時間を割くわけにはならないのです。都心に下宿するなんて無理なのです。何だか辛い…。
このような精神状態の時に、同じ寮で生活している
「ねぇ、ヒロコ。来年度から、私と、私のいとこの
柊子と私は同級生で、大学の新入生ガイダンスで出会った。いや、厳密には知らず知らずのうちに会っていたのかもしれない。柊子と私は同郷で、しかも同じ高校の出身だったのだ。偶然というか、世の中狭いというか…。ただ、柊子は一浪しているので、高校では私より1年先輩だった。2人とも揃って先輩・後輩事情に
「えっ、いとこの咲子ちゃんて音大でピアノ専攻しとる子?この間、演奏会に呼んでくれた?」
「そうそう。咲子ってさ、都心のマンションで叔父さんと叔母さんと暮らしとるんやけど、叔父さんの海外赴任が決まってね。叔母さんもついて行くことになったんやわ」
咲子ちゃんは柊子の母方のいとこである。苗字は
柊子によると、黛家は元々東京の西側の閑静な住宅街に居を構えていたが、一人娘の咲子ちゃんの音大合格をきっかけに、都心にある大学に通いやすい場所に低層マンションを購入して一家で引っ越した。咲子ちゃんが心置きなく練習に打ち込めるようにと、内装に手を加えて立派な防音室を設置したということだ。
「咲子は、音大に入るためにものすごく頑張ったで、叔父さんも叔母さんもあの子には大学をきちんと卒業してもらいたいと思っとるんやよ。だから、咲子が東京に残ることには賛成しとるよ。でも、1人暮らしになることが心配みたい」
「ほんで、シェアハウス?」
「そう。実は、叔母さんに直々に頼まれたの。『柊子ちゃん、あんた咲子と一緒に暮らしてくれへんか?1人くらいやったら、お友達も住んでくれて構わへんよ』って」
なんて素敵な提案。出来過ぎなくらい…。でも、本当にいいのかな?柊子はともかく、私は赤の他人だよ。黛一家は戸惑うのではないのかな。そして、早瀬家の両親は何と言うだろうか。
「柊子、まずは咲子ちゃんとそのご両親に挨拶させてくれへん?」
という
結論から言うと、私は
咲子ちゃんからは、一緒に暮らすにあたっての最低限の決まり事を2つ言い渡された。
① 咲子ちゃんではなく、咲子と呼ぶこと
② 咲子ちゃん、もとい、咲子がいる時は、柊子と方言で話さないこと
了解しました。よろしくね、咲子。
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