軍艦『駿河』物語-始動編-

立積 赤柱

1・夢見る新戦艦

●△□

 わたしは大海原を駆け回りたかった。

 そのために生まれ、育つ予定だったからだ。


 でも……適うのであれば、青い海原を思いっきり走りたい!

 金剛お姉様の代わりとして、生を受けたからには……。


 わたしが誕生したときは、街はお祭り騒ぎだったそうです。


 でも……わたし達、姉妹は、恵まれることがなかった。

 ワシントン海軍軍縮条約での決めごとで、わたし達はこんごうお姉様達の代わりとして、誕生する予定だった。

 だけれど、その後にあった第二次ロンドン海軍軍縮会議での決めごとで、わたし達は否定された。


 わたしの名前は、戦艦〝駿する

 戦艦〝金剛〟の代わりとして、誕生するはずだった最強の超弩級戦艦。

 最大排水量三九五〇〇トン。全長二三七メートル。最大幅三二メートル。

 四五口径四〇センチ三連砲を三基装備。

 四軸のタービン機関は七三〇〇〇馬力を誇り、最大速力二六ノット。

 ……。


 それがわたしの本当の姿……いえ、なるはずだった姿。

 今は、呉の港の片隅に浮かぶ、ただの鉄の塊。


 他の姉妹も……。

 すぐ下の妹〝常陸ひたち〟は横須賀で。三女の〝〟は神戸。四女の〝わり〟は長崎で、同じ運命だと聞いています。

 いつ解体されるかも分からないわたし達の運命。

 仕方がないことです。

 ロンドンの決めごとは、人間達が話しあった大切なこと。

 ふねでしかないわたしが、どうこう言うことではない事です。

 今は、不景気で世の中が厳しいと聞きます。

 人々を守るために生まれたわたし達が、率先して奉仕する覚悟はあります。


 でも、いつか……。

 いつか、わたしの魂が生まれ変わるのであれば、青い海原を思いっきり走りたい。

 わたしはそう願って、静かに眠りにつきます。

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