第36話 殿下に対する気持ちの変化

殿下にエスコートされ、王宮の大ホールの控室へと向かった。すると陛下と王妃様が。そう、王宮主催のパーティでは、王族は最後に入場する事になっているのだ。その為、殿下のパートナーでもある私も、王族と入場する。


「リリアーナちゃん、よく来てくれたわね。嬉しいわ」


「リリアーナ嬢、今日は目いっぱい楽しんでいってくれ。夜会の料理は、リリアーナ嬢の好きなメニューを中心に作らせたら、楽しみにしていてくれよ」


「ありがとうございます。はい、今日は目いっぱい楽しませていただきますわ」


相変わらず優しい陛下や王妃様。私の為に夜会のメニューまで考えて下さっただなんて、なんだか申し訳ない。


「さあ、そろそろ入場の時間だ。行こうか」


陛下と王妃様、殿下と一緒に、入場していく。そういえばこうやって王族の皆さんと入場するのって、1年以上ぶりくらいね。なんだか緊張するわ。


“リリアーナ、緊張しているのかい?僕もいるし、大丈夫だよ”


そう耳元で呟くのは、殿下だ。私は別に、緊張なんてしていないのに!そう言いたいが、久しぶりでやはり緊張する。そんな私をしっかり支える様に歩いてくれる殿下。彼なりに気を使ってくれているのだろう。


そして夜会スタートだ。


「リリアーナ、今日のファーストダンスを一緒に踊ってくれますか?」


「はい、もちろんです」


殿下と一緒にホールの真ん中まで来ると、ゆっくり踊り出す。なんだかんだ言って、殿下が一番踊りやすいのだ。殿下は昔からダンスの苦手な私の為に、踊りやすい様にエスコートしてくれていた。


それが昔は当たり前だと思っていたけれど、殿下と婚約破棄をして他の令息と踊る様になってから、その事を知った。


そう、彼は私の気が付かないところで、それとなくサポートしてくれていたのだ。私はずっと、殿下に冷遇されていると思っていた。でも…私自身も殿下の事をよく見ていなかったのかもしれない。最近はそんな事を考える様になったのだ。


「リリアーナ、また浮かない顔をしているね。やっぱり僕と一緒にいると、辛いのかい?」


「いえ、違うのです。ちょっと別の事を考えておりまして。ごめんなさい。それよりも殿下は、ダンスがお上手ですね。ダンスが苦手な私も、殿下と踊るとそれなりに見えますわ」


「僕はダンスがそこまで上手な方ではないよ。リリアーナが相手だから、上手に踊れているのかもしれない。リリアーナはダンスが苦手と言っているけれど、とても踊りやすいよ。もっと自信を持った方がいい」


そう言ってほほ笑んでくれたのだ。私のダンスが踊りやすいだなんて…きっとお世辞よね。それでもなんだか嬉しい。


ダンスの後は、他の貴族たちが声を掛けてきてくれた。


「殿下、リリアーナ嬢、ごきげんよう。お2人が一緒にいらっしゃる姿、本当に絵になりますわ。一度は魔法の力で引き裂かれてしまいましたが、やはり真実の愛には勝てませんね。それで、いつご婚約発表を?」


嬉しそうに貴族たちが聞いてくる。私はまだ殿下と婚約何て、とてもじゃないけれど考えられないのだが…でも、今日殿下にエスコートされた事で、貴族界ではいずれ私たちが再び婚約を結び直すと考えるのが普通だろう。


どうしよう、どう答えれば…


「僕たちは今現在、婚約を結ぶことはありません。僕はリリアーナを、心無い言葉で傷つけ続けました。いくら魅了魔法に掛かっていたとはいえ、何の罪もないリリアーナの心を、めちゃくちゃにしたのです。あれほどまでに酷い事をしたのに、今日はエスコートを受けてくれた事、とても感謝しております。ですから、どうか僕たちが婚約するという憶測はお持ちにならないでいただきたい。僕たちは、僕の強い意志で婚約破棄をしたのですから」


貴族たちに向かって、大きな声でそう伝えた殿下。


「まあ、そうでしたのね。確かにリリアーナ嬢は、あの事件の一番の被害者ですものね。そう簡単に、婚約を結び直すという話ではありませんもの。私たら、つい先走ってしまいして、申し訳ございません」


「いえ、こちらこそ、誤解を与える様な事をしてしまい、申し訳ありませんでした。今日は僕も、リリアーナと婚約したい男性の1人として、彼女をスコートさせていただいた次第ですので」


そう言って少し悲しそうに笑った殿下。その後も沢山の貴族たちから、私たちの婚約について聞かれたが、そのたびにはっきりと殿下が答えていた。


私が悪者にならない様に、あくまでも自分が悪いと言い続けて…

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