第35話 王宮主催のパーティに参加します
殿下が久しぶりに夜会にいらしてから、2ヶ月が過ぎた。あの後私に暴言を吐いた令嬢4人組は、何と家から勘当され、この国で一番厳しいと言われている最北の修道院に送られたらしい。
さすがにそこまでしなくても、と思ったのだが
「今まで散々色々な令嬢に酷い事をして来たのですから、それくらい当然ですわ。リリアーナ様は優しすぎるのです」
と、他の令嬢たちに言われた。どうやら私以外にも、被害者が沢山いた様だ。ちなみに最北の修道院に送る様に仕向けたのは、殿下らしい。お父様がそう教えてくれた。
そんな殿下だが、相変わらず毎日我が家に来ては、私の好きな物をあれこれ持ってきてくれる。そして他愛のない話しをして、帰っていくのだ。
あれほどまでに殿下を見ると嫌悪感を抱いていたのに、いつの間にか殿下の顔を見ても、それほど辛くなくなってきた。
ただ、私はやっぱり殿下とやり直すことは考えられない。これだけは、譲れないのだ。
「お嬢様、殿下からドレスと宝石が届いておりますよ。お嬢様の瞳の色をイメージした、青いドレスですわ。宝石は純金ですわね。これは素晴らしい」
そんな複雑な気持ちを抱えている私とは裏腹に、ソフィーが嬉しそうに殿下からの贈り物を見つめている。
そう、今日は王宮主催の夜会が行われるのだ。昨日殿下自ら
“よかったら身につけて欲しい”
と、ドレスと宝石を持ってきたのだ。もしかして殿下の瞳の色に合わせた緑色のドレスじゃないわよね!緑だったら絶対に着ないから!そう思っていたのだが、私の瞳の色に合わせて、青色のドレスを贈ってくれたのだ。
ただ、宝石は殿下の髪を意識してか、純金だが…まあ、それくらいは大目に見てあげよう。
ちなみに今日のエスコート役も、殿下だ。招待状を持ってきたあの日、どうやらお父様に自分がエスコートしたいと訴えたらしい。
エスコートは申し込みがあった令息の中から、一番身分の高い令息が選ばれるため、必然的に殿下になったという訳だ。
ソフィー含めメイドたちが手際よく準備を整えてくれる。
「お嬢様、準備が整いましたよ。さあ、参りましょう」
準備が整ったところで、玄関へと向かうと、既に殿下が待っていた。ただ…
「姉上はあなた様のせいで酷く傷ついたのです。父上や母上が許しても、僕は絶対にあなた様を許さないから!」
なんと、リヒトが殿下に文句を言っていたのだ。
「リヒト、何を言っているの?殿下、申し訳ございません」
急いで2人の間に入り、頭を下げた。
「どうして姉上が謝るのですか?殿下は姉上にあれほどまでに酷い事をしたのですよ。それなのに、姉上の気持ちを無視し、毎日毎日押しかけてきて。その上、夜会のエスコートまでしようだなんて、図々しいにも程があります」
「リヒト、その様な事は…」
「リリアーナ、いいんだよ。リヒト殿が言っている事は正論だ。僕はそれだけ君に酷い事をしたのだから。それでも今日、こうやってリリアーナをエスコート出来る事、とても嬉しく思うよ。リヒト殿、君になんと言われようと、僕はリリアーナを諦めるつもりはない。それじゃあ、いこうか」
不満そうに殿下を睨んでいるリヒトに
“リヒト、私の為にありがとう。あなたは私の最高の弟よ“
そう告げ、殿下の手を取り馬車へと乗り込む。リヒトはいつも私の事を考えてくれている。言いにくい事も、殿下に言ってくれるのだ。私の自慢の弟だ。
「殿下、先ほどは弟が失礼な事を申しあげてしまい、本当に申し訳ございませんでした。それから、今日のドレスとアクセサリー、ありがとうございます」
とりあえず建前として、リヒトが行った無礼を詫び、ドレスなどのお礼を伝えた。
「リヒト殿が怒るのも最もだよ。僕は君にそれだけの事をしたのだから。温厚で優しいリヒト殿があれほど怒るという事は、よっぽどの事だ。本当に申し訳ない…それからドレスとアクセサリー、身に付けてくれたのだね。とてもよく似合っているよ。そのドレス、僕がデザイナーと一緒に考えて作ったんだ。リリアーナが身に付けてくれるだなんて、本当に嬉しいな」
そう言うと、心底嬉しそうな顔でほほ笑む殿下。ここ数ヶ月、殿下は私の前で良く笑う様になった。その顔は、以前マルティ様に見せていた顔…いいえ、それ以上に私の事を愛おしそうに見つめているのだ。
婚約してから、ずっと私に向けて欲しかったその笑顔…皮肉な事に、婚約破棄された今向けられているだなんて…
「リリアーナ、悲しそうな顔をしてどうしたんだい?また僕のせいで、辛い過去を思い出しているのだね。ごめんね、そうだ!はい、これ食べて」
殿下が私の口に何かを放り込んだ。これは…
「甘くて美味しい飴ですね。もう、殿下、私は飴でごまかされるほど単純ではありませんよ。でも、美味しいです」
苺の風味が口中広がる。甘くて美味しいわ。そう言えばマルティ様の魅了魔法に掛かる前は、夜会に参加するたびに、こうやってドレスやアクセサリーを贈ってくれていた。もしかして…
「殿下、もしかして婚約後夜会のたびに贈って下さっていたドレスや宝石も、殿下がデザインを?」
「ああ、そうだよ。僕は口下手で、リリアーナに気持ちをうまく伝えられなかったから。せめてドレスや宝石は、僕の思いがたっぷり詰まったものを贈りたくてね。でも、今思うといくら陰で気持ちを込めても、本人には伝わらないのにね…本当にあの頃の僕は、バカだったよ」
そう言って苦笑いしている。
「さあ、王宮に着いたよ。行こうか」
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