魔王が最強とは限らない

防人

第1話 新しい魔王は怠け者

   ある年、世界で最も恐れられている存在、『魔王』が死んだ。死因は寿命である。この世界での魔族の寿命は200年ほどであり、魔王はちょうど200歳であった。


   そして魔王が死んだ日、魔王城のある部屋の前に魔族の最高幹部7人が集まった。そのうちの一人サタンがドアをノックした。

「魔王様、先代様が亡くなられました。」と言うが、中からの返事はない。そして

「魔王様、失礼します。」といいサタンがドアを蹴破った。すると魔王と呼ばれていた魔人が

「あああああ!」と悲鳴を上げ

「びっくりした!サタン!お前はいっつもやることが荒すぎるんだよ!」と手に持っていた本を投げつけた。サタンはそれを受け止め

「魔王様、先代様が亡くなられました。」と言った。そして魔人は

「それなら知ってるよ!じいちゃんが死んだんならお前らが訪ねるのは親父んとこだろ。」と言う。サタンは

「いえ、亡くなられたのは魔王様のお父上です。」と落ち着いた口調で言う。すると魔族は固まりながら

「え、もしかして死んだのって親父?」と聞くとサタンは

「先ほどから申しているではありませんか。」と答えると魔族が

「だからお前僕のこと魔王様って呼んでたの?親父の間違いじゃなかったの?」と聞くとサタンは

「はい。先代様が亡くなられた今、その後を次のは一人息子のあなた様です。」と答えた。それを聞いて魔族もとい魔王が

「ぜっっっっったいやだ!僕は魔王になんかなりたくないね。」と答えるとサタンは

「なりません。魔王様が亡くなられたらその血筋のものに後を継がせるというのが決まりでございます。」というと魔王は

「やだやだやだやだやだ!やりたくないやりたくないやりたくない...」と駄々をこね始めた。魔王は43歳であり、人間でいうと21歳になる。するとサタンは先ほど投げられた本のページを一枚破いた。それを見て魔王は

「おい!なにすんだよ!」と駄々をこねるのをやめて起こるとサタンが

「魔王様が魔王を継ぐというまで私はこの本を一枚ずつ破いていきます。」といいまた一枚破った。すると魔王は

「やめろー!」と言いながらサタンに飛びつくが華麗にかわされる。そしてサタンがもう一枚破る。そして魔王が

「ぐふっ!やめてくれ。僕が何をしたって言うんだ。」と苦しそうに言うとサタンが

「なにもしてません。」と言いながら一枚破る。魔王が何を言ってもサタンの手は止まらない。一枚、また一枚と本が薄くなっていく。それを見て魔王は

「わかった。継ぐから!手を止めろ!厚い本が薄くなるだろ!」と言うとサタンは手を止めて

「やっと覚悟を決めてくれたのですね。」と口を覆い泣きながら言う。

「強制的にな。」と魔王が本を取り返し、本棚にしまった。そして

「んで最初にやることは?」と聞くとサタンが

「とりあえず幹部たちと会議をしますので私たちについてきてください。」と言い部屋を出て行った。魔王が後をついていくと円卓にひとつだけ禍々しい椅子があり

「魔王様あちらにお座りください。」とサタンが魔王に座らせた。そして幹部たちも椅子に座りサタンが

「これより新魔王さま任命式の会議及び先代魔王様の葬儀についての会議を開始する。」と会議を始めた。

「まずは魔王様、任命式はどのくらいの規模で行いますか?」とサタンが聞くと魔王は

「んー?適当でいいよ。」と言い本を読んでいた。サタンは魔王から本を取り上げ真っ二つに破いた。すると魔王は

「あー!お前、なんてことを。」と怒り

「もういい!帰る!」と言い自分の部屋に帰っていった。それを見た幹部の一人マモンが

「サタン、今のはやりすぎなんじゃなぁい?僕だって自分の大事なもの壊されたら怒るよぉ。」と言うとサタンは

「近頃、勇者のレベルが上がってきている。こんな時だからこそ魔王様にしっかりとしていただかく必要があるのだ。」と言い返す。そしてしばらく沈黙が続いた。するとサタンが

「ああ、わかった。私もやりすぎた。謝罪してくる。」と言い魔王の部屋に行った。魔王の部屋は先ほどサタンが吹き飛ばしたので拗ねている魔王の背中がすぐ見えた。そしてサタンは膝をつき

「魔王様、先ほどは大変失礼いたしました。ですが、私は魔王様と一緒にこの魔界を守っていきたいのです。近頃の勇者の成長は異常なほど速くなっております。それから魔界を守るには魔王様の力が必須なのです。どうかお願いします。私と魔界を守ってください。」と頭を下げる。すると魔王は首だけサタンのほうを向き

「もう本を破らないなら考えてやってもいい。」と言った。サタンは

「わかりました。もう本は破りません。」と答える。すると魔王は

「行くぞ。」と言い王宮に戻っていった。


―――数日後

   魔王は任命式と葬式を終え、王宮でぼーっとしていた。するとサタンが来て

「魔王様、ご報告が。」と言い、

「なんだ?」と魔王が聞くと、サタンは落ち着いた口調で

「勇者パーティが乗り込んできました。」と報告した。それを聞いて魔王は

「へ~勇者ね~。ん?勇者!?」と驚きサタンは

「はい、勇者です。」と答えた。すると魔王は

「いやいやいや!なんでお前そんな落ち着いてるの?逆に怖えよ。」と言った。するとサタンは

「魔王さまの初陣ですね!」と笑顔で言った。

「初陣ですね!じゃねえよ!怖い怖い怖い無理無理無理。」と言っているとサタンが

「そろそろここに到達する頃でしょう。魔王様堂々としていてください。私たち幹部も一緒にいますので。」と言うと魔王は

「よかったー、お前らがいるなら安心だ。しっかりと守ってくれよ。」と安心するとサタンが

「いえ、私たちは勇者パーティの聖職者のせいで戦えなくなっています。なので戦えません。」と答えた。それに魔王が

「は?嘘だろ。お前冗談...」と言う途中で王宮の扉がバンッと空いた。そして勇者パーティが入ってきて

「やっとたどり着いたぜ。覚悟しろ魔王!」と武器を構えた。以外に魔王は堂々と椅子に座っていた。

「よくぞここまでたどり着いたな勇者よ。」と魔王っぽいことを言い出した。

「だが残念だな勇者よ。おぬしらの聖職者のせいで私は今戦える状態ではない。」と言うと勇者が

「騙されないぞ!魔王が新しくなっても代々魔王にはあらゆるデバフが無効化されるスキルがあるって知ってるんだ。」と言うと魔王は

「えっ、そうなの?」と逆に聞き返した。魔王がサタンのほうを向くとサタンは顔を反らした。

 実は魔王の血筋はありとあらゆるデバフを無効化できるスキルを生まれながらにして持っているのである。このスキルによって魔王は勇者との実力勝負に持ち込めていたのだ。そして人間の平均寿命が80歳なのに対して魔族の平均寿命は200歳、人間が一番強い年齢が20代のところを魔族は10歳から死ぬまでとなっている。この仕組みによって、勇者はなかなか魔王を倒すことができないでいた。

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