第343話 悪そうな奴はだいたい誘拐
俺達が見ている先には、二階建ての建物があり、どうやらそこに俺達が追っている冒険者がいる。アンナは一連の流れを見て、あの冒険者が何かを知っているという。
「こんな街中で、ワイバーンを見たなんていう依頼を取る奴は居ない。まさかこうもあっさり引っかかってくれるとは思わなかったが、賢者は良くギルドに来ると思ったな?」
「いえ、内通者があの研修者の中にいるとしたら、冒険者がらみである可能性が高いと思っただけです。もしくは内通するつもりではなく、冒険者に話してしまった可能性もあると思ったのもですから」
「ぴたりと当たったわけだ」
「まあ、そうですね」
「賢者は伊達じゃない」
「経験上そう思っただけなんですけどね」
そして俺が言う。
「いや凄いよ。私にしてみりゃ二人とも凄い」
「そして、聖女。やるんだろ?」
「そう。恐らく何かは知っている。だったら実力行使するしかないよね?」
「ふふっ。久しぶりだ」
そして俺は全員に身体強化をかけていく。マグノリアは万が一があるといけないので、ダークネスハットをかぶらせてシーファーレンの影に入れた。速やかに建物に近づくと、アンナが俺達に言う。
「ドアの向こうに三人」
「エンド。そこを薄っすら開けて」
俺が言うと、アンナが音もたてずに扉を開ける。俺が魔法の杖をその隙間に入れて魔法を行使した。
「スプラッシュライトニング」
我ながらいい技名だと思う。霧吹き電撃! じゃいまいちだったから。
室内にしゅぷーっと水蒸気が入り込んだ後で、俺の電撃魔法が飛んだ。
ごとり!
倒れた音がしたので、アンナが先に飛び込み、俺とシーファーレンがその後ろから入る。
すると奥から声が聞こえて来た。
「なんか音がしなかったか?」
「そうか? おーい!」
どうやら、その声は二階から聞こえてきているらしい。俺達は速やかに階段に向かい、そろりそろりと上がっていくと上から足音が聞こえて来た。俺はその廊下の天井付近に水蒸気の雲を発生させた。
「ライトニング」
ピシャッ!
ゴト!
「な、なんだあ?」
騒ぎになったので、俺達は一気に駆け上がる。人がドアから飛び出してくるところだったが、それをアンナが思いっきり蹴飛ばした。ドガガガ! 出てこようとしていた奴が思い切り部屋に吹き飛び、そこにあった机を破壊して気絶する。
あと三人いた。
「なんだ!お前ら!」
「この!」
「貴族か?」
そう言って三人が剣を抜く。そこで俺が聞いた。
「あー、あのね。あんた、ワイバーンの討伐依頼受けたよね? 討伐やってくれんの?」
その中にいた冒険者に聞く。
「なんでそれを?」
「ま。いいか」
「こ、殺せ!」
一斉に飛びかかって来た。
「スプラッシュライトニング!」
俺の杖から電撃が飛び、三人の意識を刈り取る。
「よーし大量大量」
するとシーファーレンが言う。
「マグノリアさん出て来て」
マグノリアはダークネスハットを脱いで、影から出て来た。
「ヒッポを呼びます!」
「来たらヒッポと馬車を隠すわ。それまでに三人で、屋敷の中の人らを縛り上げてあつめましょう」
「ほい」
「わかった」
俺はその部屋にいた奴らを縄で縛り、アンナが次々に一階へと運んでいく。廊下の奴も一階の奴も縛っていると、マグノリアがシーファーレンに言った。
「ヒッポ来ました」
「はいはい」
シーファーレンが玄関から出て、ひょこっと顔を出す。
「では、その者達を縛りましょう」
縄で馬車の後ろに括り付けて行き、全員を縛り上げたところで俺達が馬車に乗り込む。
「マグノリアさん。出して」
「はい」
曲者をぶら下げた俺達の馬車は、空高く舞い上がりヴィレスタンの皆が待つ場所まで飛ぶのだった。山を越えて到着すると、丁度騎士が食事をとっており、空中に浮かぶ縛られた人らを見てご飯を噴き出していた。透明な場所から俺達が飛び出すと、レルベンゲルが一目散に近づいて来る。
「ソフィア様!」
俺の見た目がソフィアなのでそう言ったのだ。本物のソフィアは俺の格好をして、まだ隊列を組んで砦を睨んでいるらしい。
「ルクセン卿を呼んでください」
「は!」
そしてレルベンゲルが走って行き、その間に俺達は馬車のロープを外していく。
「おお、聖…ソフィア嬢! これらは何者です?」
「えーっと、実際は良く分かりません。ですがこの者達は、ウェステートに関する情報、とりわけワイバーンに関する情報を知っているはずです。拷問でもして取り調べをしておいてください。死んだら補充します」
「わ、わかったのじゃ!」
「では」
「ど、どちらへ?」
「また行ってきます。とにかく情報を知ってそうな奴は、片っ端から連れてきます」
「わかった!」
すると薄っすらヒッポが見えて来たので、シーファーレンが再び魔法をかけて隠した。
「では」
俺達が再び乗り込んで、ヒッポが飛び出していく。
「よし。この調子で怪しい奴をガンガン誘拐してこよう」
「おう!」
「わかりましたわ」
「はい!」
これはマグノリアが同行するとなった段階で、やろうと決めた作戦だった。足取りを追うのに俺達だけでは時間がかかりすぎる為、知ってそうな奴は全部引っ張ってこようと決めたのだ。
名付けて、悪そうな奴はだいたい友達作戦。
「シーファーレン。次はどこに向かう?」
「先ほどの都市の奴隷商あたりがよろしいかと」
「あー、たしかに!」
そして俺達は再び都市から離れたところでヒッポを下り、徒歩で都市に向かった。すると門番が俺達を見て驚いている。
「あれ…さっき通らなかったでしたか?」
「初めて会いました」
「そうでしたっけ?」
とりあえずそこをパスした。俺達は入ってすぐに、さっき案内してくれた冒険者達に会う。
「あ! さっきのお嬢様方!」
「あー、これはこれは」
「今度はなに用で?」
「奴隷商ってどこにあるかな?」
「分かりました。おつれしやしょう」
俺達は再びさっきの冒険者に連れられて、治安の悪そうな町に行く。そして冒険者が言った。
「危ないので、護衛を承りましょうか?」
「いえいえ。奴隷商とは知り合いなんですよ」
「あー、そうですか! 良く奴隷を買うんですね?」
「そう言う事です」
そして俺はまた、冒険者に銀貨三枚を渡した。
「いや、道案内でこんなにうけとれねえっす」
「じゃあ、私達が奴隷を買っているなんて噂されたら困るので、ここに来た事を内緒にする口止め料も含むという事で」
「ああ、わかりやした。なるほど…慰みですか…」
変な誤解をしているがどうでもいい。
「さあ。早く行った行った!」
「へい」
ソフィア…ミリィごめんよ。君らの悪いイメージを持った冒険者を一人生み出してしまった。
「気を取り直していくか!」
「ああ」
「「はい」」
そして俺達は奴隷商の裏口にまわり、薄っすらと扉を開けて俺が魔法の杖を忍び込ませるのだった。
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