第342話 敵国の都市にて
関所には聖女やシーファーレン、そして聖女の剣であるアンナが隊列を組んでいる。だが彼女らは身代わりのペンダントをつけた、ソフィアでありミリィでありリンクシルだ。聖女がここにいると分かっていれば、容易に手を出しては来ないだろうというシーファーレンの案だ。
俺達が王都に行って戻ってくるまで、それほど時間は経っていない。だが時間が経過すればするほど、ウェステートの命が危ないのだ。とにかく一刻も早く救出する為にと、シーファーレンがヒッポとヒッポの馬車に魔法をかけた。
「これで国境を超える間は、敵から認識されません。魔法はそれほど長く持ちませんので、直ぐに参りましょう」
「わかった」
俺とシーファーレンとアンナは、隠れたところでヒッポの馬車に乗り込む。敵を欺くためには味方からという事で、聖女邸の面々と朱の獅子以外には俺達が残っていると思い込ませる。
バッとヒッポが飛び上がり、俺達が乗る馬車は一気に国境を越えた。山岳地帯から下を見下ろすと、やはり敵軍が続々と集まっているようで、いつヒストリアから越境されても立ち向かう準備が出来ているようだった。ルクセンが忍ばせた間者が描いた地図を元に、俺達はそこから一番近い都市へと飛んだ。
「マグノリア」
「はい」
「下りたらすぐにヒッポを戻して」
「はい。ヒッポは一人で帰らせます」
「マグノリアも下がった方が良い」
「いえ。敵がワイバーンを使役していると聞きました。私も連れて行ってください」
なるほど……。どうやらマグノリアにはマグノリアで、何か考えている事があるらしい。
「わかった」
そうして最初に見えた大きな都市周辺の草原にヒッポが降り立ち、俺達四人を降ろしてどこかに飛んで行ってしまった。
俺達はいま、完全に違う見た目になっていた。俺がソフィアにシーファーレンがミリィにアンナがリンクシルになっている。そしてシーファーレンがマグノリアにペンダントをつけると、マグノリアは…ネル爺になった。向こうでは恐らく、ネル爺が可愛いマグノリアになっている。
「ネル爺に渡したんだ?」
「口が堅いと思いまして」
「その通り。喋らなければバレない」
「はい」
そして俺達は、貴族とメイドと帽子をかぶった獣人、そして老騎士のパーティーとなった。そのまま街道を進んで行くと、街道を次々に騎士達が通り過ぎて行く。
「集まってんね」
「ヒストリアからの攻撃を待っているのでしょう」
「ルクセンという人は、そこに私情を挟む人じゃない。恐らくウェステートの事は諦めるか、単身で斬り込んで玉砕するかもしれない」
「急ぎましょう」
俺達が最初の都市に到着すると、中にも騎士達があふれており俺達は俯き加減に街中に入っていく。
「冒険者はいないかな?」
風貌的にあれです。
シーファーレンが指さした先に、冒険者パーティーっぽい人らがいた。俺達はいそいそとそいつらに近づいて言って、話を聞く事にする。
「すみません」
俺が言うと、パーティーの男らが振り向いた。だがいきなり鼻の下を伸ばして、見た目ソフィアの俺にかしずいて来る。
「な、なんでございましょう。お嬢様」
「騎士様が多いようです。なんの騒ぎです?」
「はあ。何でも戦争が起きそうだとか」
「恐ろしい」
「そうですねえ」
「ところで冒険者ギルドはどちらかしら?」
「冒険者ギルド? お嬢様が何をしに? 依頼ですかい?」
「はい。なんと西に向かうワイバーンを見たのでございます」
「なんだって! こんなところに?」
「ギルドにお知らせしないと」
「案内しまっせ」
「お願いします」
冒険者は一緒に歩いている間も、ソフィアである俺を見て鼻の下を伸ばしていた。俺達は冒険者について、この都市の冒険者ギルドに来る。
とりあえず俺は胸ポケットから財布を取り、銀貨三枚を冒険者に渡す。
「ありがとう。これで」
「案内だけでこんなに?」
「助かりましたから」
ウザいから、早くどっか行け!
だが失敗した。
「こんなに頂いたんじゃあ、あれだ、ギルドに取り次ぎますぜ?」
「ん、それじゃあそのように」
そして俺達は冒険者から、ギルドの受付まで案内された。とりあえず冒険者達はそれで満足したらしく、名残惜しそうに俺達から離れて行った。
ギルドの娘が聞いて来る。
「ご用件は?」
「空を飛ぶワイバーンを見たのでございます」
「ワイバーン? 見間違いでは?」
「いえ。確かにワイバーンでした。そこで私達はワイバーンの討伐依頼をお願いしたく思います」
「分かりました。ではこちらにご記入を」
討伐依頼の紙を出されて、俺達はそれに記入した。
「依頼人の情報は伏せてください」
「かしこまりました」
そしてその紙が掲示板に張り出され、俺達はしばらく冒険者達がいるエントランスで待っている。冒険者でごった返しているが、出入りが激しいようだ。珍しそうに俺達を眺める者もいるが、直ぐに興味を無くして出て行った。
だが、そこにギルドの娘が来て言う。
「あ、あの。直ぐに依頼は受けられないと思いますが?」
「あれを」
丁度俺達が見ている先で、その紙をもって受付に行く奴がいた。慌ててギルド嬢が戻り、その人と話をし始める。その冒険者がギルド嬢と話し終わり、その冒険者が出て行った。
「エンドつけて」
「ああ」
シーファーレンが言う。
「エンド。ではこれをあのものに忍ばせて」
「了解」
シーファーレンから何かを受け取った、コードネームエンド。アンナがリンクシルの姿でその冒険者の後を追った。すると俺達の所にギルド嬢がやってきて告げる。
「見た人がいるようです。先ほどの冒険者が受けました」
「何ていう冒険者?」
「シェードスキンというパーティーです」
「ありがとう。ならまた来るわ」
「はい」
そして俺達はギルドを外に出た。
「アンナは何処に言ったかな?」
するとシーファーレンは、コンパスのような物を取り出して言う。
「こちらです」
「それは?」
「追跡の羅針盤です。先ほどエンドに持たせた小さな石板を追跡します」
「凄い」
俺達は羅針盤に導かれて、街角をスルスルと通り抜けていく。かなりの距離を来たが、だんだんと治安の悪そうな路地裏へと向かっていた。
「これは…」
するとスッと俺の口に手が当てられ、路地裏に引きづり込まれる。慌ててシーファーレンとマグノリアがついて来るが、俺をひいたのはアンナだった。
「エンド」
「見張りがいる。真っすぐ追うのはダメだ」
「でも、石板は取り付けたのですね」
「ああ」
「なら問題ありません。騎士の姿はまずいので、マグノリアさんはペンダントを外しましょう」
「はい」
俺達は羅針盤を確認しながら、見慣れぬ都市を迂回して進んで行くのだった。だがどうも治安の悪そうな場所らしく、俺達の前に悪そうな奴らが出て来た。
「どうも。こんな場所に、大層お金持ちそうなお嬢様が何用だね」
するとシーファーレンがニッコリ笑って言う。
「あら。恰幅のいいおじさまがた。私達と良い事しましょう」
「ぐへへへへ。なりのいい娼婦か!」
「こりゃついてる! 別嬪じゃねえか」
「メイド服とは面白い趣向だな」
「さあ。こちらへ」
そして俺達は、その三人の男を路地裏に連れ込み、アンナが一瞬にして片付けてしまう。
「行こう」
俺達は頷き、更にスラムの奥へ向かって歩き始めるのだった。
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