第340話 動く王宮と居なくなったソフィア

 ヒッポが王城に降り立つと、一目散にバレンティアと近衛騎士団が走って来る。俺とルクセンが降りると、一斉に跪いて挨拶をして来た。


 バレンティアが聞いた。


「恐れ入りますが、来城のご予定はございましたか!」


 そこでルクセンが言う。


「火急の用じゃ! 直ぐに陛下に取り次ぐのじゃ!」


「聖女様とルクセン卿であれば、直ぐにお通しする事が出来ます」


「うむ」


 俺達は近衛に囲まれながら入城していく。そして待合に通されて、俺とルクセンとアンナとマグノリアが待った。


「準備が整いました!」


 騎士が迎えに来たので、俺達は謁見の間に通される。扉を開けて中に入るや否や、王を見かけたルクセンが大きな声で言う。


「大変ですじゃ!」


「何事だ!」


 アンナとマグノリアを端に待たせ、俺とルクセンがルクスエリムの前に跪く。


「よい!」


 ルクセンが周りを見て言った。


「人払いを!」


 するとルクスエリムが言う。


「ならば場所を変えよう!」


 そして俺とルクセンが密談室に連れていかれた。


 まあ面倒ではあるが、大国の王様に会うって言うのはこういう事だ。というよりも、俺だからこんな簡単に謁見が許されているというのもある。


「して、どういう事じゃ」


 ルクセンが身を乗り出して言う。


「は! 陛下! とんでもないことが起きました!」


「うむ」


「落ち着いて聞いて下され」


「うむ」


「東スルデン神国とアルカナ共和国にて、大規模な軍の動きを捉えたのですじゃ」


「なんだと!」


「恐らく、王の密偵も今ごろは情報を掴んでおるじゃろうが、あいにく西方に聖女様がおったのでな、いち早く戻り伝えたという事なのですじゃ!」


「確かか?」


「確かです。国家騎士団のレルベンゲルも確認をしております。じきに報告が来るはずです」


 ガタン! とルクセンが立ち上がった。


「なんと…」


「まだ先兵が山の向こうへと集まったところのようですじゃ。直ぐに侵略して来るかは分かりませぬ」


「国家騎士団を動かさねばなるまい。第一騎士団を差し向ける! そして各地の領主に通達だ!」


 そこで俺がルクスエリムに聞いた。


「トリアングルム連合国はいかがなさいましょう」


「敵が進軍してくるまでは、国内で処理をする。まずは早急に大臣を集めねば!」


「それと、王都の貴族令嬢達がヴィレスタンに居ます。この話が終わったら早急に、こちらに連れて来ねばなりません」


「なんと…そうであった。それは優先事項として進めねばならん」


「はい」


 そしてルクスエリムはすぐに従者を呼びつける。


「大臣に通達じゃ! 緊急招集!」


「は!」


 密談室を出て、俺達が謁見の間に戻るとルクスエリムがバレンティアに叫ぶ。


「フォルティスを呼べ!」


「は!」


 騎士達もただ事で無いと分かったようだ。にわかに場内が慌ただしくなってくる。


 それから一時間が過ぎた頃に、チラホラと大臣が登城し始めた。俺とルクセンを見ただけで、ただ事ではないと気づいたようだった。そして重鎮だけを部屋に残し、騎士や従者を全て下がらせる。


「ダルバロスよ!」


「は!」


「西の国々に軍事行動が見られたようじゃ。山の向こうに兵が集まっておるらしい」


「なんと」


「直ぐに動かねばならん。詳細はルクセンより説明する」


「は!」


 ルクセンが現状を伝えていく。それを聞いて皆の顔色がだんだんと変わって来た。


 ケルフェン中将が言う。


「陛下。これは…」


「うむ。ズーラント帝国の時に似ておる。何よりアルカナ共和国が動いているのが解せん」


 そこで俺が発言した。


「恐らくは、邪神ネメシスが暗躍していると思われます」


 そういうと大臣達がざわつく。その恐ろしさを知っているからだ。


 そこでルクスエリムが言った。


「狼狽えるな。あの時とは違う、我々はあれで学び、そして女神フォルトゥーナへの信仰を取り戻しておる! そして我々には聖女がいる!」


 ざわつきが収まった。皆が俺を見ているので何か言わないといけないみたい…。


「目下、シーノーブルという聖女の組織を設立中です。ですがシーノーブル騎士団はまだ設立すらできていません。ですので皆様のお力が必要です。皆で力を合わせ、西の脅威に備える事に致しましょう」


「「「「「「おう!」」」」」」


 これで国家騎士団は動く。

 

 俺がルクセンを見ると、ルクセンも大きく頷いた。ルクセンの書状をルクスエリムに渡し、俺達はとんぼ返りでヴィレスタンへ向かって出発する。


 ヒッポの馬車の中で、俺とルクセンが話をしていた。


「王宮も、迅速に動ける準備が出来ていたようじゃ」


「この国は学んだのです。これまでの事で後手に回らないように」


「今までとは違うという事じゃな」


「そうだと思います」


 それから小一時間、急いで飛び帰って来た俺達の目に衝撃の光景が映るのだった。


「なんと…」


「マグノリア! 急いで!」


 西方のどこかで火が上がっており、モウモウと黒煙が昇っていたのだった。


「どういうことじゃ!」


「既に敵が侵攻を始めたと認識すべきです」


「う、うむ」


 なんと…学んでいたのは、俺達だけじゃなかった。ネメシスは俺達の裏をかくために、何かをやっていたのだろう。ヴィレスタンまで火の手は上がっていないようで、俺達はすぐに辺境伯邸に舞い降りる。


 急いで辺境伯城に入っていくと、慌てて貴族令嬢達が俺達の元に歩み寄って来た。


「どうしたの?」


「その…ソフィア様が騎士達と共に出て行かれたのです!」


 うっそ。なんで?


「賢者もいたでしょう?」


「それが、聖女邸の皆さまを連れて出て行かれました」


 マジか…。そう言えば、皆を引き連れて戦う夢を見たとか言っていたな。


 ルクセンも尋ねる。


「倅は、シベリオルは?」


「一緒に出て行かれました!」


「なんと…」


 どういう事かは分からないが、きっと何かがあったんだろう。


「アンナ! マグノリア! いくよ!」


「ああ」

「はい!」


「わしも連れて行っておくれ!」


「わかりました。装備を!」


「うむ!」


 そして俺達は戦闘の装備を整え、急いでヒッポの馬車に乗り込むのだった。

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