第326話 最愛の人と寝るのはつらいよ
だが! 風呂が不発でも、濡れた布一枚でソフィアのおしりが見れた事は僥倖である!
まだ終わらんよ。
俺は風呂から上がるとすぐに部屋に戻り、ミリィから念入りに身だしなみを整えられていた。これから寝るというのに、髪をしっかり縦ロールに巻いてもらったり、薄っすらナチュラルメイクをしてもらったり、本当に気持ち程度の香水をフッとふりかけてもらった。更に歯も二回磨いて、自分で何度も口臭の確認なんかをしている。
そして俺が立ち上がりミリィに聞く。
「どう…かな?」
「とてもお美しゅうございます」
「ほんと?」
「万人がそうおっしゃると約束します」
ミリィは俺が答えて欲しい答えが分かってる。だからこそ何度も聞いてしまう。
今、ミリィは俺の体をいい香りの乳液で丹念にマッサージしていた。体中をすべすべにして、一緒に寝た時に少しでも不快感を与えたくないと思ったからだ。
「ではこれを」
更にミリィが用意してくれたのは、シルクの下着と寝間着だった。いつもの綿の寝間着ではなく、シルクの寝間着を用意していたのだ。つるつるの素肌にひっかかりはなく、するりとシルクの寝間着が体を包み込む。
俺は自分で鏡を見る。
いろっぺえ…。こいつはやべえ…。
「これなら嫌がられないよね?」
「嫌がる人などいらっしゃるのでしょうか?」
「そう?」
「はい」
ただ一つ…ここで不安な事がある。相手が男なら、間違いなくこれで一コロだろう。もちろん前世の俺なら一秒ももたないで恋に落ちる。こんな姿をバレンティアやマイオールなどに見せるわけにはいかないだろうし、犯されても、こっちにも責任があると裁判で言われそうだ。
いや。俺を犯したりなんかしようとしたら、問答無用でぶっ殺すけど。犯されたとしても、それをルクスエリムに訴えたら処刑されるだろうし。
なんてどうでもいい。このセクシー聖女が彼女らに受け入れられるかって事が重要だ。
でもミリィは大丈夫だって言うし。ここはこれで勝負するしかない。
コンコン。
「はーい」
するとヴィレスタンのメイドが顔を出した。
「お部屋にご案内いたします」
「あ。わかりました」
俺はミリィに聞く。
「嫌われないよね?」
「その要素が何処にあるのか分かりません」
「わかった」
そして俺は部屋を出ていく。メイドと一緒に廊下を歩いていると、メイドがやたらチラチラと俺を見て来る。
えっ? えっ? おかしいのかな? 流石に狙いすぎ?
俺は自分の姿が気になりだした。夜のガラス窓に映る俺は、明らかにいつもと様子が違う。
「こちらです」
部屋の前で立ち止まりメイドがドアをノックした。
「失礼します。聖女様がいらっしゃいました」
「はい。どうぞ」
ウェステートの声だ。
どっくんどっくん!
心臓が口からまろびでそうだ。
「お待たせしました」
「あ、は、はい」
ウェステートが俺の姿を見て頬を染めて目を逸らす。ウェステートは綿の素朴な寝間着だった。
可愛い…。
すると奥からも声がかかる。
「聖女様。お疲れ様でございます」
麗しきその声は、ソフィアのものだ。蝋燭が数本灯るだけの薄暗い部屋で、ソフィアも寝間着姿になっていた。そのまま俺が近寄っていくと…、なんとソフィアも素朴な綿の寝間着。
しくった。しくじった! 俺だけセクシー系だ!
だが俺を見たソフィアが言う。
「素敵でございます。やはり聖女様は洗練されておりますね」
えっ? そう?
するとウェステートも言う。
「そうです! 憧れちゃいます! そういう素敵な女性になりたいと思っています」
そうか、彼女らは年相応の格好をしているのだ。そして彼女らから見て、俺もそれ相応の格好をしているという事になる。とはいえ俺のこの体の年齢は、それほど彼女らと離れてはいない。
「いえ。貴族の女性と寝るのは初めてだから、どうしたらいいか迷って、こうなった感じだったりしてますけど」
しまった…。ついぶっちゃけてしまった。
するとソフィアがくすりと笑った。そしてウェステートが言う。
「えっ! 聖女様もそういった事をお考えになるのですか?」
「もちろん常に」
ソフィアが言った。
「そうなのですよね。聖女様はいつもお気遣いなさる」
いや。女にだけね。男に気を使った事は一ミリも無い。
「て、言うか疲れたよね? もう、寝ようか」
「「はい」」
そして大きなベッドに行く。それこそキングサイズより大きな姫様ベッドだった。流石は辺境伯のルクセン、孫可愛さにこんなところに金を使っている。
ベッドの縁に三人で腰かけた。
ウェステートが明るく言う。
「なんか。楽しいですね! 本当に幼少の頃に戻ったよう!」
ソフィアもにこやかに言う。
「本当にそうです」
そうか…女子の…お泊り会。人生初のお友達とのお泊り会感覚をこれから味わうんだ。
うわあ…。
そこでウェステートが言った。
「あ、あの!」
「どうしました?」
「ど、どういう順番で寝ます?」
「あ…」
少し沈黙が起きる。二人を見るとちょっと恥ずかしそうに頬を染めていた。
俺はめっちゃストレートに欲望をぶつける。
「あの。私が真ん中でも?」
「「はい!」」
食い気味に返事が来た。どうやらこれで良かったらしい。
「じゃあ」
布団を上げて、三人が潜り込み俺が真ん中に寝て布団をかける。
うはあ…。布団を一緒にかぶる事で、二人の体温が直に伝わって来る…。温かいし…なんてえ、殺人的な良い匂いだろう。
なんて思っていたら、ウェステートが言う。
「聖女様。とおーってもいい香りが致します…」
「そう?」
すると反対側のソフィアも言った。
「ウェステートの言う通りですわ。とっても安らげるような香り…」
二人がスースーと匂いを嗅いでくる。くすぐったいような恥ずかしいような…。
幸せだ…。
だがむしろ俺は二人の匂いが嗅ぎたい。特にソフィアの匂いが。
おっ! 俺も!
「スースースー」
「スースースー」
えっ! 俺が左右を見ると、二人は眠ってしまっていた。スースーは寝息だった…。
寝室の女子トークはないの?
俺はまじまじとソフィアの顔を見る。昼間のようなキツメの表情は抜けていて、あどけない少女の顔で眠っていた。それこそ安心しきったような幸せそうな顔で。
思わずチューをしそうになるが、なぜか思いとどまる。
俺を信じきって何の警戒もせずに寝てしまったソフィアに、許可もとらずにキスをしていい訳がない。それはウェステートとて同じこと…。
だが問題は…二人がぐっすりと寝込んだのに対し、俺はもうギンギンになっているって事。
ああ…女神よ。何故に俺はこんなに卑しく、いやらしい生き物なのでしょう?
こんな純真無垢な二人に性欲を感じているのです…。
ま。いいですよね?
しかし誤算だった。俺はそのうち眠くなるだろうと思っていたのだが、いつまでたっても目が冴え渡りソフィアが気になって眠れないのだ。
腹の減った犬のマテ状態…。蛇の生殺し…。
そして俺は一晩中、悶々とした時間をすごす事になるのだった。
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