第312話 チートな貴族女子会ブースト

 うしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!


 完全につかみはオッケー! ソフィアはうるうるしているし、マロエとアグマリナは泣いている。お揃いネックレスサプライズは見事に決まり、三人は感動の渦! この流れで次はきっちりと胃袋を掴むとしよう。しかも異世界チートを使って…。


 チリンチリーン!


「はい」


「ランチを」


「かしこまりました。どちらで?」


「そうね。中庭がいいかな」


「ご用意いたします」


 俺は三人に言う。


「お腹空いたでしょう? お昼にしようね」


 そう言って三人を連れ中庭に出た。いつもはメイド達の憩いの場になっているが、今日はわざわざ綺麗なテーブルと椅子を用意させている。もとより中庭で食う事は決まっていたのだ。


「この感じ懐かしいでしょう?」


「はい。良く我が家の中庭でお話をしましたね」


「懐かしいです」


「この日がまた来るなんて」


 こんな状況になる前、俺達は良く公爵邸の中庭で女子会をしていた。そのシチュエーションと全く似たような雰囲気を演出しているのだ。三人ともまたうるうる来ている。


 くっくっくっ! だがサプライズはこれからだよ。今までに無い、めっちゃ斬新なサプライズがね!


 するとミリィとメイド達が料理を運んで来てくれた。その料理を見て三人は目を真ん丸に見開いている。ソフィアのぱっちりした目がこぼれ落ちそうでチューしたい。


 ソフィアが言う。


「聖女様。私はこのお料理を存じ上げません」

「私も見た事無いです」

「聖女様の元へ来てから一度もないですね」


 そうだろ、そうだろ。だってこっちの世界にこれは無いもん。


「秘密にしてたからね」


 俺が台所に入っていろいろと指示を出したり、皆で試食を繰り返したりした甲斐があった。うちのアデルナやキッチンメイド達の再現能力には頭が下がる。


 目の前のテーブルに鎮座しているのは…なんと。


 ハンバーガーである! しかも聖女邸の特性トマトレタスチーズハンバーガー! 力作である! しかも肉は大盛りで、なんとマヨネーズが仕込んであるのだ! 完璧だ! 完璧すぎる! それが一人一人の目の前に置かれているのである。


 更には籠に一盛りにした大盛りポテトがあり、これをみんなで突っついて食べるのだ! その横に並んでいるコップに注がれているのは、なんとアイスミルクティーである。


 どうだね? 


「じゃ! 食べようか!」


「は、はい。ですがナイフとフォークが揃っていません」


「だからこの包み紙があるの!」


「ど、どう言う事でしょう?」


「それはねえ…」


 俺がガバッと目の前のトマトレタスチーズハンバーガーを両手で持ち、ぎゅっとつかんでガバッと大口を開ける。


「バクッ! もぐもぐもぐ。ごっくん! こうやって食べるんだよ!」


「て、手でございますか?」


「大丈夫包み紙があるから! あと私しか見てないから恥ずかしくない!」


 三人は恐る恐る目の前のハンバーガーを持ち上げ、俺がやったようにぎゅっと握って大口を開けた。


「「「ぱくっ!」」」


 ぱあああああああ! と表情がめっちゃ明るくなった。


 ああ…ソフィアがハンバーガー食ってるよ。ワインレッドの髪とちょっと吊り上がった目の、美しい美女がハンバーガーを。ああ…。至福。


「おいしいです…そして…こんなことをしているのに楽しいです」


「な、何でしょうこれは! こんな感動は初めてです」

「私も始めて食べました! なんだか病みつきになりそうな…」


 そうでしょうそうでしょう。


「そしてこのポテトを一本! パクッ! んー最高! どうぞ!」


 三人は指でポテトを掴み、ぱくりと口の中に入れた。


「なんという…このような食べものがあるのですか・」

「美味しいです…」

「も、もう一本」


「もう一本と言わず何本でも」


「「「はい」」」


 そして俺は、またガッと口を開けてハンバーガーを食べる。


 マジでうんまっ! ここまで再現できるか…。


 アイスミルクティーもめちゃくちゃ風味が良くてうまい。マジで。


 ソフィアとマロエとアグマリナもバクバクと食べている。すると一気に緊張のようなものが溶け出し、打ち解けた雰囲気になって楽しく話し出した。


「聖女様。このような楽しくて、美味しい食事は初めてでございます」


「でしょ! ほらほら、ソフィア。マヨネーズついてるよ」


 俺は、ソフィアのほっぺについたマヨネーズを指ですくってぺろりとする。ああ至福。


「す、すみません」


「これはハンバーガーって言うんだけど、食べ方が難しいんだよね! 口の周りは汚れるし、最後の方は本当に大変でさ! でもこんな美味しい食べ物無いと思わない?」


「「「ハンバーガー?」」」


「始めて聞くよね」


「どちらのお国の食べ物なのですか? 聖女様はあちこち足を延ばされていますのでその時に?」


「ま、まあそんなところ。とにかく気に入ってもらって良かった!」


 メイドがナプキンをそれぞれに渡し、それを使ってほっぺを拭いたり手を拭いたりしている。


 やっぱ女子トークって言えばファーストフードが王。一度やって見たかったことだけに、俺もめっちゃテンションがアガる。四人でハンバーガーをがっついた事で、更に距離が近くなった気がする。


 これぞチートだろ?


 食後は緊張が無くなったようだ。本当に女子校生のように、和気あいあいと話が出来たように思う。


「ありがとうございます。聖女様…」


「いいんだよソフィア。ずっと待ってたんだから」


「はい…」


「そしてね! 今日はお夜食も用意してるから楽しみにしていて」


「よ、よろしいのですか? そんなに遅くまで?」


「すでに、うちのアデルナからお父上には話を通してあるから。今日は本当にゆっくりしていってほしい」


「はい!」


 やっぱ女の子なんだな。ソフィアもマロエもアグマリナも、前世で言ったら未成年。屈託のない笑みを浮かべるソフィアは、本当に年相応の雰囲気になって来た。気を張っている時は、二十代も半ば過ぎのような雰囲気を纏っているが、素直な彼女が見れたのはうれしい。


 うれしくて、ウレションしそう。まあこんな絶世の美女がウレションしたら皆驚くだろうけど。


 俺達はご飯を食べ終わり、しばらく中庭で話をしていた。だが午後はもっとサプライズが待っているのだ。聖女邸の能力を、フルに使ってのサプライズはまだまだ始まったばかりだった。

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