第五章 半百合冒険

第307話 未知の扉を開けなきゃ無理

 本当に良かった。絶対死ぬかと思ったが、こうして五体満足で生きている。マジで一回死んでもおかしくない攻撃を食らった気がしたんだけど、ちゃんと生きてた。不思議な事もあるもんだ。


 ちゃぷん。


「いい…」


 さっきまで泣いていた彼女らも落ち着きを取り戻し、俺を労わって洗ってくれた。俺は暖かい湯船に浸かりながら、聖女邸の面々が体を洗ったりしてるのをじっと見ている。みんなが俺のわがままに付き合って、全員でお風呂に入ってくれているのだ。


 そこでちょっと驚いた事がある。


 それは…。


 俺の体がめっちゃ敏感になっている事だ。禁欲生活というのは、これほどまでに体に影響するのだと初めて知る。前世の男の体と違って、未だに体の性質が把握できていない。ちょっと恥ずかしかったが、みんなに洗ってもらっている時に何度もビクビクしてしまった…。


 これが前世なら…俺はビクビクではなくビンビンだ。ビンビンがバレないこの体に感謝しておこう。しかし、こんなに感度が良かったっけかな? 全く違う体になった気さえしてくる。


 まあ今はそんなことはどうでもいい。そろそろ洗い終わってみんなが湯船に入って来る。洗われている時とは違い、この時間はウォッチングチャンスなのだ。


 何故かって?


 それは皆が湯船に入る時にタオルを外すからだよ。洗われている時は壁を向いているし、みんなが洗っている時は背中とお尻の一部しか見えない。湯気が邪魔して、はっきり見えないのが残念なポイントだ。湯船に入ってしまえば、みんなの体はお湯に浸かるから見えないし、俺が先に入れられるから、出るのもいつも俺が先なのだ。


 だから! 俺はこの一瞬の光景を完全に脳裏に焼き付けるつもりだ。ずっとお預けを喰らっていた、このシーンを一瞬たりとも見逃すわけにはイカンのだ!


 バシャッ! かぽん。


 桶を置いた。来るぞ…。誰だ? おっ? 先にマグノリアか…だが俺にロリの趣味は無い。一応見るが速やかに風呂に入ってくれたまえ。


 ちゃぷ。


 おじぎをしながらマグノリアが湯船に入った。


 これから頑張って成長しなさいね。


 ジャバ! かぽん。


 今度は…? お、やっぱり早いのは、アンナとリンクシルだ。アンナのめちゃくちゃ筋肉質なアマゾネス的な体も良い。リンクシルの引き締まった体に、犬の尻尾が生えているのもいい。実に。


 来た。


 じっ。


 見えた!


 ちゃぷ。ちゃぷ。


 二人が湯船に入って並ぶ。


「いい…」


 スポーツマンの体を見ているみたいで、むしろ性欲というより美的感覚が満足させられる。


 じゃばっ! かぽん。


 おっ。今度は一気に四人来た。マロエとアグマリナ、ジェーバとルイプイの仲良し四人組だ。貴族だったマロエとアグマリナの体はまっしろで、日焼け跡もない素晴らしいものだった。手入れされてきたためか、貴族落ちした今でも綺麗な体を保っている。それと相対的なのはジェーバとルイプイだ。盗賊に捉われていた経験もあり、あちこちに傷跡が残っている。でもその傷跡ひとつひとつが愛おしい。まだ幼さの残る二人だが、なでなでしてあげたくなる。


 じゃぱ! かぽん。


 今度は、今日ここに泊まる予定のシーファーレンだ。


 言って見れば、この中で一番のストライクボディだ。豊満な胸に豊満なお尻、くびれたウエストがゴージャスと言わざるを得まい。


 キター!


 俺が湯船に顔半分を沈めて、じっとシーファーレンのパーフェクトボディを拝む。


「ぶくぶく。いい…すばらしい」


 得も言われぬ余韻がある。


 ああ…。


 じゃば! かっぽん!


 見とれている暇はない! 最後は聖女邸三人娘だ…。


 ふうっ。ようやくお出ましだ…。久しぶりもいいところだ。


 湯気の向こうから、ミリィとスティーリアとヴァイオレットがやって来た。広い浴槽ではあるが、だいぶ混雑して来た。皆が遠慮して俺の側に来ないので、空いているのはここだけ。


 さあ…おいで…。


 ちゃぷ。


 三人娘は案の定、俺の方へと歩いて来た。まだタオルで前を隠しているが、このままだと俺の前でタオルと取る事になるだろう。


 そう…こっちだよ…。早く…。


 間違いなく前世なら…バッキバキ…。いや…なんだ? くらくらして来た。


 もう少しなのに…。


 そして三人が俺の前に来た時に、ミリィが聞いて来る…。


「聖女様。恐れ入ります。空いているところがここしかありませんので、よろしいですか?」


 俺はコクコクと頷いた。目だけが三人のタオルに釘付けだ。


 くるぞ…。この至近距離で美女三人娘の…。くる……


 ハラリ。


 ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく。


「聖女様!」

「聖女様あ!」

「みっみんなあ! 早く!」


 すぅーーーー。と俺の視界が真っ黒になった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「じょさま…。せいじょさま…。聖女様…」


「ん?」


 俺が薄っすら目を開けると、ミリィとスティーリアとヴァイオレットとシーファーレンの顔が並んでいる。


「よかったお目覚めになりましたか!」


「ミリィ…どうしたの?」


「覚えていらっしゃらないのですか?」


「えーっと。お風呂に入ってて、目の前にタオルがあって…それがハラリと…」


「何をおっしゃってます?」


 はっ!


「えっと。私は何故ここに?」


 皆はもう服を着ており、俺はガウン一枚を着せられ脱衣所で皆から扇がれていた。


「突然、目を回されて。鼻から血が出て…湯船に沈まれたのです」


 うわあ。あまりにも興奮して血圧上がり過ぎたか? 完全な湯あたりだ。みんなの裸をしっかりと目に焼き付けようとしたばかりに、無理をし過ぎてしまった。するとアンナが言う。


「無理もないだろう。長旅の上に死闘を繰り返し、ネメシスを倒してわたし達を救ったんだ。その疲労はとんでもなく蓄積されていると思う」


 いや。それは回復魔法で何とかなったし、なんかめっちゃ体が強くなった気がするけど。


 だがシーファーレンが言う。


「無理をなさらないでくださいませ」


 いや。だって見たかったんだもん。


 するとミリィが首を振って言う。


「聖女様は、私達みんながそろうまで待ってくださったのです。ここまで皆を心配させたと思っていらっしゃるのです」


 スティーリアもうんうんと頷いた。


「そうです。聖女様はいつも私達を思って、じっと見てくださっていました。とても心根のお美しい方ですから」


 いやあ。下心どろどろで、とんでもない欲望を抱えてるけどね。


 するとアンナが俺を抱き起し、アデルナがコップを口の前に持って来て言う。


「気付けです」


 くぴっ。


 にっが! なんじゃこりゃ。


 それにシーファーレンが言う。


「クラティナが持たせてくれたお薬ですわ。いかがでございますか?」


「目が覚めた。みんな心配かけたね」


 すると皆がホッと胸をなでおろしている。


 とにかく…今はもう一人にしてほしい。一刻も早く!


 俺は皆に言う。


「あの! 今日はもう眠ります! 明日の朝までは誰も部屋に入れないで!」


「かしこまりました」


 そうしてフルチャージした俺は、一目散に自分の部屋へと駆け込み鍵をかける。トリアングルム遠征では、ずっとみんなと同室だったので、夜はただただ品行方正に眠るだけだった。


 だが今日はようやく自分の部屋に一人! 


 ダッとベッドに飛び込み、俺は初めて新たな未知の扉を開けたのだった。

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