第300話 破格の報酬

 いきなり俺達への待遇が変わった。最大級のおもてなしに代わり、国賓どころの騒ぎではない扱いを受ける。最上級の来賓用の部屋を与えられ、俺達はめちゃくちゃVIP扱いを受けていた。流石に全く違う待遇になりすぎて、俺もケツの座りが悪かった。だがマルレーン公爵家がいる事で、俺もここにいていいんだと自分に言い聞かせている。


 それにも増して、常に周りに王宮の騎士やメイドがつくようになり自由が無くなった。せっかく目と鼻の先にソフィアがいると言うのに、逢瀬を重ねる事も出来ないでいる。


 あー、出てってくんねえかな。ソフィアと近づけねえじゃん。


 俺はこっそり隣のシーファーレンに耳打ちする。


「出て行かないね」


「致し方ありません。聖女様に万が一があったら、国が大変になると知っているのです」


「なにもないけどねぇ」


「そう思うのは聖女様だけ。皆が聖女様の身を案じているのです」


「そっか…」


 俺がちょっと動こうとするだけで、気を効かせたメイドがあれこれやってくれる。


 こんなんしてたら、太っちゃうよ。


 すると部屋に従者がやってきて膝をついた。


「聖女様御一行に、謁見の間に来ていただきたいとの事です」


 いよいよか。これが終われば帰れる。


「はい」


 そして俺達が従者の後について行くと、メイドや騎士達がぞろぞろと付いて来た。


 まあめんどくさい。


「聖女様いらっしゃいました!」


 俺が入っていくと、謁見にいる人達が跪いた。そこには王やメルキン王子、カイト王子までがいる。とにかく居ずらいが、早々に話を終わらして帰りたい。帰ってソフィアとデートしたい。


 アンナはいつもの冒険者風の格好に戻っているが、シーファーレンもリンクシルも、マグノリアもゼリスも、クラティナもネル爺も高級な衣装に身を包んでいた。彼女ら彼らも、俺と同じ席につく事になりそわそわしている。目の前には王家が勢ぞろいしていた。


「お越しいただき、ありがとうございます聖女様!」


 トリアングルム王が言うので、俺は冷静に答えた。


「いえ。それではお話をさせていただけたらと思います」


「はい。貴族や大臣もそろっております故、潤滑に事は進むかと」


「王よ。そのように低い位置からお話する事はございません。是非とも同じ席にお座りいただけますようお願いします」


 話し辛いから。


「はい! その広き心に感謝して座らせていただきます」


 やっと同じテーブルに来た。そしてまずはトリアングルム国からの提案を聞く事となる。巻物を広げたトリアングルムの王が読み上げる。


「この度は国家を救っていただいた事、御礼申し上げます。ここで聖女様への褒賞…いえ! 献上品の一覧の読み上げたいと思います」


 献上品?


「白金貨五千! 王家の所蔵する装飾品百点! 騎馬五十頭! 騎馬戦車十台! 千人分の鎧兜! 刀剣槍三千! 薬草及び野菜の種を五百袋! 穀物袋を三千! 以上にございます!」


 ずいぶんと破格じゃね? 俺、そんなに頑張ったっけ?


 俺がきょとんとしていると、トリアングルムの王が慌てて言う。


「不服で御座いましょうか?」


 するとシーファーレンが俺に耳打ちをした。


「恐らくは、これまでヒストリア王国に儲けさせてもらった分と考えてよろしいかと」


 あー、そう言う事ね。


「私も急ぐ身です。それで構いません」


「はい!」


 そしてその巻物に金で出来た印を持って来て押した。どうやらこの国にはハンコという概念があるらしい。その巻物をもらって、俺は後ろにいるマグノリアに渡した。


 なるほど…。それだけ俺に恐れをなしているって事か…。


 ここはちょっと便乗させてもらおうっと。


「それでは、私からよろしいでしょうか?」


 そう言うと皆が戦々恐々として頭を下げた。


「なんなりと!」


 俺はずっと気になっていたことを言う。


「この国にも優秀な人材がおります。そしてまずはお願いがあります。一つは薬師のメリールーの事でございます。彼女は非常に優秀かつ、私のひざ元に置いておきたいほど心根が良い女性です。彼女にそれなりの地位を与え、王宮にて発言を持つ立場にしてください。そうですね…」


 皆が息をのむ。


「薬事関係の大臣の役を作り、そこの大臣に任命してください。そしてその文官として父親を雇い入れる事をお願いします。また、貧困層にも手を差し伸べる事が必要です。貧困層には優れた能力が眠っている事があります。子供達を無駄にしない事、それだけを忠実にお守りください。孤児には、生きるすべと道を与えるのです。私からはそれだけです」


 すると王とメルキンとカイトが深々と頭を下げた。とりわけカイトのメリールーへの扱いが酷かったので、俺からのお墨付きをあげておくことにする。もう二度と彼女に酷い事をしないように。


「「「「「「「は!」」」」」」」」


「心に命じましょう。それが聖女様の望みとあらば!」


「お願いします。それではヒストリア国への橋渡しはお任せください。是非、友好を結びお互いの国が栄えますよう!」


 パチパチパチパチパチ! 


 拍手が鳴り。最後に王が言う。


「もし聖女様に仇名す国があれば、我々トリアングルムはヒストリア王国に加勢いたします。その旨もこの書簡にあります故、なにとぞヒストリアの王へお渡しください!」


 そう言って別な書簡を渡して来た。


「わかりました。それではいただいてまいります」


「はい!」


 するとメルキンが大きな声で言う。


「聖女様への献上式は無事終了となった! それでは帰りの道のりは、我々トリアングルム軍が同行いたします!」


 その言葉に王が答える。


「うむ。頼んだぞ」


「は! 父上! そしてカイト! 留守は任せた」


「かしこまりました。兄上、安心していってらっしゃいませ」


 そして式は閉廷した。だが俺はすぐに出て行かずに、カイトの所にスススと近づく。


「カイト王子」


「はい」


「メリールーをいじめたら…分ってるかな?」


「いじめたりしません! 聖女様のお眼鏡にかなった女性をないがしろにはしません」


「これは神託です。もしかしたら彼女は未来の王妃になるかもしれません。大切になさい」


「…は…はい!」


 周辺の人達も、完全に神託だと信じたようだ。


 そして俺達はようやく解放され、トリアングルム王軍と共にヒストリア王国へと出発するのだった。

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