第299話 平伏すトリアングルム王都
カイトたちに連れられ、トリアングルム王都に到着すると建物のあちこちが破壊されていた。ネメシスが放った黒霧弾が落下して、建物が崩壊し結構亡くなった人もいるらしい。カイトが言うには、あれだけのバケモノが出現したにも関わらず、都市が壊滅しなかったことは不幸中の幸いだと言っていた。
俺達はすぐに、メルキンや近衛兵達が運び込まれた王宮病棟へと連れていかれる。そこにはトリアングルム王がいて、ベッドの傍らに跪きメルキンの手をしっかりと握っていた。俺が部屋の入り口に立つと、王は手を放し俺の所に歩み寄ってきて深々と礼をしてくる。
「聖女様! ありがとうございました! 聖女様達が、あのバケモノをひきつけてくれたおかげで、この都市は壊滅せずに済みました。民の多くは無事で、復興も速やかに進みそうです!」
「陛下、お話は後です。メルキン王子は?」
「あれは…もう…ダメでしょう。近衛たちにも死者が出ました。メルキンは、あなた方ヒストリア王国の来賓や市民を守れたことで、役目を果たしたと思われます。悔いはないかと。…ですが、第一王子のジュリアンはあのような化物を都市に引き入れました。死んでしまいましたが、その責はそれで償われたのでしょうか?」
「もとより責などはないと思われますよ。だれも隣国の王の正体が邪神だなどと気づけはしなかった。ジュリアン王子をお責めになる事はありません」
「そうでしょうか…」
「はい。丁重に葬られるが良いでしょう」
「わかりました」
王の後ろを見ればメルキンが僅かに息をしている。早くしないと死んじまうぞ!爺さん! と思いつつ俺は王に言う。
「ここを通していただいても?」
「は、はい」
瀕死のメルキンと騎士達がいる病棟の中央まで進み、俺は魔法を発動させた。
「蘇生!」
シャアアアアアン!
部屋が光り輝いて騎士達の無くなった手足が生え、抉られた肉が戻っていく。
「ゾーンメギスヒール!」
ぶわっと光が広がり、騎士達の傷を回復させ体内のダメージを治して行った。すると騎士達がムクリと起き上がり出す。メルキンが起き上がった時、トリアングルム王だけじゃなく、そこに治療の為にいたメイド達や医者たちも感嘆の声を上げる。
「なんと! あの薬でも治らなかった傷が!」
あの薬とは俺達が作って納品していた奴だ。もちろんあれは効能的に付与したにすぎず、俺の力が本家本元なので利きが違うのは当然だ。
「おお! メルキン! メルキンよ!」
「お父上…我は?」
「もうダメかと思ったのじゃ! よくぞ戻ってくれた!」
泣きながら叫ぶ王にカイトが冷静に言う。
「父上。ひとえに聖女様のお力によるものかと」
「そうじゃった! 礼を礼をさせて欲しい!」
すると、驚愕の表情を浮かべて静まり返っていた医者やメイド達が声をあげた。
「おお! 奇跡だ! 神の御業!」
「素晴らしいわ!」
「もう…手遅れだと思っていたが、このような…」
「聖女様ありがとうございます!」
「「「「「「わああああああ!」」」」」
部屋の中が歓声に包まれる。だが俺はすぐに王に言う。
「陛下。市民を救わねばなりません」
「メルキン! カイト!」
「「はい!」」
「直ぐに聖女様をご案内差し上げろ」
「「はい!」」
彼らについて行くと、町の広場にたくさんの怪我人が集められて治療されていた。だがメルキンたちの所に居たような医者は少なく、治療が遅れているようだ。
しかし…。さっきめっちゃ治癒したのに、魔力が減った感じがしないんだが…一体どう言う事だ? ネメシスと戦った時は信じられないような動きだったし、自分でもよく分からないが能力が超向上している。
俺はすうっと息を吸って精神を集中した。
なんか知らんけど…電撃スプリットみたいに魔法の二重がけしてみっか。
んんんんんんん!
なんか前世でこんな風にして気を溜める、戦闘狂の宇宙人のアニメがあったな。俺、金髪になって髪とか逆立ってないよな?
「蘇生&ゾーンメギスヒール!」
ドン! ぶわっ!
あれ?
まるで俺が爆心地のようにして魔力が広がった。俺が周辺の人達を治すつもりで放った治癒魔法だったが、広場に広がり建物を通り越してどんどん広がっていく。
すると俺の傍らにいたシーファーレンが唖然として言う。
「聖女様…都市中に広がっていますが、魔力は大丈夫ですか?」
「なんか、大丈夫みたい」
ソフィアも心配そうに言う。
「魔力切れはしませんか?」
「んー、大丈夫だよーソフィア! なんか全然切れそうにない」
するとアンナも心配そうに言った。
「市壁まで到達したぞ…都市全体を包んでいる」
「まあ、ここに来れない人もいるだろうからいいんじゃない?」
自分でもなんでこんなことが出来ているか分からない。ネメシス戦でも特大電撃を二発も出してるし、聖魔法もガンガン使ったはず。それなのに無尽蔵に魔力が湧いて来る。
変…だよな。確かにおかしいぞ。俺、突然死んだりしないよな?
だがそんな事は全く気にする必要は無さそうだった。広場の人達が回復して起き上がったので、俺は魔法の発動を止めた。
メルキンとカイトと、騎士達が呆然と俺を見ている。そしてメルキンが言った。
「全ての逸話は本当の事だったのですね。ヒストリアの勇者であり、神の使徒というのは誠なのですね?」
まあ嘘じゃないけど。けっこう脚色して広がっている気もする。
「どうでしょう?」
「カイトよ。よくぞ聖女様を見つけてくれたな」
「まあ偶然だけどね。でも非凡である事は分かってたよ」
確かに見る目だけはある奴だ。
「やはり…器があるのだろうな」
メルキンが言うが、その意味はよく分からない。そしてその場に遅れて王がやって来た。
「王都中の怪我人が治っているようだぞ! どうなっておる!」
するとメルキンが、今起きた一部始終を伝えた。
「なんと…」
すると信じられない光景が広がる。俺の前にトリアングルム王とメルキンとカイトが跪いたのだ。それを見ていた騎士や市民達も一斉に俺に向かって跪き、手を胸に組んで祈りを捧げている。その壮観な光景に俺も息を飲み、なぜか俺の仲間達やソフィアまでが俺に跪いていた。
や、やめて! 恥ずかしいんだけど!
ただ俺はそこに立ち尽くし、俺に祈りを捧げる人達を見ているのだった。
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