第297話 聖女復活!
自分が何故、真っ白な空間にいてヒモ男に戻っているのかは分からない。だがさっきまで、めっちゃデカい化物と戦っていたのは確かだ。そいつから掴まれ持ち上げられて、バーンと地面に投げ捨られたあげくこんな場所にいる。
とりあえず自分がフルチンなのは置いといて、ここが何だか分からず歩きだしてみる。だがどんなに歩いても全く風景が変わらない。
「なんだここ?」
白いし靄がかかっている気もするし、先が何処まであるかもわからない。もしかしたら天国か、はたまた地獄なのか? そもそも自分が歩いているのかもあやふやに思えてきた時、唐突にそれはおきる。
「え!」
目の前に聖女が現れた。まあ俺なのだが、俺が動くように聖女も動く。
「なんだ? 鏡か?」
手を振ったり、にまーっと笑ったり、中指を立てたりしても同じ動きをする。間違いなく聖女が目の前にいる。顔を近づけてじーっと見ていると、唐突に声が聞こえてきた。いや、心に直接響いているといった感じかもしれない。
「精神は死んでませんね」
ん? 誰?
「器を壊されたようです」
「器?」
「精神さえ死なねば大丈夫。でも大事になさってください」
心の中の声は、勝手に話を進めている気がする。
「ちょ、ちょっとまて」
「……」
「あんたは誰で、俺はなんでここにいる?」
「魂を宿す器が邪神によって壊されました。よってここにいます」
「えっと、器とは」
「目の前にあります」
「聖女ってこと」
「厳密にあなたは聖女ではありません。聖女は他にいます」
つうことは…やっぱ聖女の力を持っているソフィアが聖女って事かな…。
「俺はなんだ?」
「私の分身です」
「あんたは誰なんだ?」
「あなたがいる世界では女神と呼ばれているようです」
マジか…。どうやら俺は女神フォルトゥーナと話をしているらしい。
「この聖女は?」
「これは我の姿なり」
「女神の姿?」
「そう」
うっそ。人間離れした美しさだと思っていたが、どうやらこれは女神そのものの形らしい。教会で見る銅像や絵とは全く違う気がするが、絵描きは本当の女神を見たことが無いのだろうか。
って、冷静に言ってる場合じゃない。
「そもそも、なんで男の俺が女神の器に入ってるんだ?」
「それはあなたの心のせいです。世界の女性を全て守りたいと思っているからです」
「確かにそれはそうだけど、ただそれだけで?」
「あなたが一番その気持ちが強かった。大好きな聖女を前にしても、他の女性も全てを守りたいと思っているからです」
「確かにそう思ってるけど」
「邪神は女が邪魔なのです。自分を倒しうる存在が生まれ出るのを阻止したいのです。邪神を倒せるのは女だけだから。これまで聖女は過去に何度も生まれました。だがその時代その時代で、ネメシスを倒す事は出来なかったのです。しかし再び聖女は誕生した。だからネメシスは策を立てて、全てをかけて倒しに来ているのです。全ての力を封じ込むために」
そうか。女全部が活躍できないようにしてしまえば、ネメシスの天敵が誕生する事は無くなるってことか。めっちゃまどろっこしいやり方で、ねちねち攻めてくるかと思ったら、そういう経緯が過去にあったわけね。なんか納得。
「どうすればいい?」
「あなたがしようとしている事を、愚直に続ければいいのです」
女性の地位を上げたり、女性が活躍する場所を増やす事を指しているのだろう。邪神からことごとく阻止して来た、全ての事を徹底してやればいいと言う事だ。ただ、ふと思う。
「でも、俺はただ自分がしたい事をしようとしているだけだけど? 良いの? 欲望のままに…」
「いいのです。動機が清らかでなければならない、などの決まりなど無いのです。ぜひ続けてください。その世界が邪神の力を弱まらせます」
神様ってのは意外に現実的だったりするらしい。俺が女が大好きで、そのすべてを幸せにしたいって思うのは、欲まみれの不純な行為だと思っていたが、それでいいのだと言う。
「でも、もうダメじゃない? こんなところに居ちゃってるし」
「大丈夫。あっ! そろそろ仲間達が危険です。行ってください!」
「どうやって?」
「新しい体は凄いのです。思う存分やってください。まずその目の前の体に口づけを」
えーっと。自分にチューすんの! マジ!
「早く!」
俺は、めっちゃ焦らされて、さっきまでの自分の体に唇を重ねる。
ちゅっ。
しゅぽん!
「は!」
ぱちりと目が覚めた。いくつもの立ち木が並ぶ空が見えた。どうやら森の中に目覚めたようだ。俺は…さっきネメシスに…なにを…。
「あれ? なんだっけ? 俺なんで倒れてんだ?」
思い出してみると、俺はさっきネメシスからぶん投げられたんだった。それで怪我をして倒れているのだろう。とりあえず大怪我をしたと思う…。
怪我を…。
あれ?
全然痛くない。つうか、全く怪我してないみたいな気がする。
そういや、ネメシスは!
上半身を起こすと、バキバキと木々が倒れネメシスが暴れまくっているのが見えた。
「ネメシス!」
俺はバッと飛び上がり、ネメシスの方へと走り始める。
「軽!」
羽のように軽く走る事が出来た。まるで風になったように走ってる。
…俺、身体強化かけたっけかな? なんでこんなに軽いんだ?
ビュンとネメシスの足元に近づくと…。
満身創痍のアンナが、今にも倒れそうになりながら剣を握って立ち向かっている。
他のみんなは…。
シーファーレンが倒れている、マグノリアも倒れている、リンクシルもゼリスもネル爺もクラティナもあちこちに倒れていた。
「みんな…」
さらに周りを見渡すと、マルレーン公爵…奥さん…。
「ソフィア!」
倒れているソフィアに俺が大声で叫ぶと、それにアンナが気づいた。
「聖女! 生きてた! 聖女! 生きてたのか!」
「アンナ!」
俺はアンナに走り寄るが、そこにネメシスの拳が下ろされ、剣で受けるが大きく吹き飛ばされる。そしてアンナはゴロゴロ転がって止まった。
「アンナ!」
「せ、聖女…」
すると俺の声に、シーファーレンやソフィアが力なく顔を上げる。
「戻っていらっしゃって…」
「聖女…さま…」
みんな血まみれだった。もう命の火が消えかけていているような弱弱しさが伝わって来る。どうやらアンナは、皆が殺されないように命尽きるギリギリまで戦っていたのだ。
ビキビキビキビキ!
俺のこめかみが音をたてるのが分かる。
……。
頭の上から声が降りて来た。
オオオオオオオオオオオ!
アンナを吹き飛ばしたことでネメシスが雄叫びを上げているのだ。勝ち誇ったように。
俺はネメシスの正面に走り込む。
「てんめぇぇぇぇ! 俺の女らに何してくれてんだこらぁ! ぐっちゃぐちゃのミンチにしてやっからよぉ! はらわたぶちまける用意でもしとけ!」
意識のあるソフィアやシーファーレン、アンナの事などおかまいなし、男の心が全開になってしまい、まるでヤンキーのような発言をしている自分に気が付かなかった。
すると、するりとネメシスの顔が変わる。
「おまええええ! いきていたのかぁぁぁぁぁ!!!」
「あたりめえだ! てめえを野放しにして死んでられっか! ぶっ殺してやる!」
その俺に、また勢いよくネメシスのデカい拳が落ちてくるのだった。
ズッズゥゥゥゥゥン!
地面にめり込むが、俺は余裕でそれを避けた、そしてそのままネメシスの腕に飛び乗り、一気に腕を駆けあがっていく。あまりにも軽い体は飛ぶように進み、次の瞬間俺はネメシスの顔の正面に飛び出ていたのだった。
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