第292話 邪神ネメシスとの死闘
なんかこれ…、この世界に来てから一番ピンチな気がする。こんなバケモノらしいバケモノと、正面切って戦っている事が信じられない。めっちゃファンタジーな状況だが、それほどチートらしい力を持っていない俺は苦戦を強いられていた。
ワイバーンよりヤバいなコイツ。
先ほどから黒い霧を槍のようにして俺達を突いてきているが、聖結界によって全てを弾いていた。ネメシスの野郎も、これを突破する術を持っていないようで攻めあぐねている。するとシーファーレンが俺に耳打ちする。
「これはわざとです。聖女様に聖魔法や浄化魔法を使わせない為に、連続攻撃に出ているのです」
なるほど。
「あいつ攻め疲れたりすると思う?」
「相手は人間じゃないので分かりません」
確かに。人間ならいつかは攻撃が収まるかもしれないが、コイツは邪神。神の種類のなにかだから、ずっと疲れない可能性もある。
そして唐突にネメシスが言った。
「防戦一方でいいのか? そろそろ仕掛けさせてもらうぞ」
「なにを?」
「我がこの部屋の人間を皆殺しにしたら、怪しいお前達とメリディエス王としての我のどちらを信じるだろうなあ」
やっべ! そうじゃん! そしたら俺達はこの国で追われる身となるぞ。
「みんな! 私の周りに集まってください!」
トリアングルム王とカイトが、慌てて俺の後ろに来たので結界の枠を広げて入れる。するとトリアングルムの王が従者たちに叫んだ。
「何をしておる! みなこちらへ走れ!」
その後の動きは半々だった。こちらに向かって必死に走ってくる奴と、部屋を出ようとドアに向かった奴がいる。
「だめです!」
シーファーレンが叫ぶが時すでに遅し、ドアに向かった連中に向かってネメシスが黒い霧の槍を向けた。あっという間に串刺しになって、空中に持ち上げられている。口から血を吐きながらも、じたばたしているが、腹を貫かれていてどうする事も出来ない。
とにかくこっちに来た連中は結界で守るが、それを見てネメシスが言う。
「聖女よ。いつまで魔力が持つかな?」
じり貧だ。このままだと押し負ける!
そんな事を思った時だった。
ガッシャアアアアン! ステンドグラスを突き破って何かが飛び込んで来た。それがドスンとネメシス教の奴らの上に落ちすぐに発ちあがった。
「ヒッポ!」
背中にはマグノリアとゼリスが乗っていた。
「助けに来ました!」
「マグノリア! ゼリス!」
すると今度は剣の合わさる音が聞こえて来る。
ガッシィィイイ!
もう一人、リンクシルが一緒に飛び込んで来たらしく、鉤爪の少年にナイフを振るっていた。その事で一瞬の均衡が破れ、ネメシスの後ろ側のドアが開き、ネル爺とクラティナが飛び込んで来た。
その手から赤い石をネメシスに投げつける。その石があたる瞬間に、ネメシスがバッとそれを避けて部屋の隅へと逃げた。
だがヒッポを見たメルキンが言う。
「あれも悪の手先!」
俺は慌てて声を上げる。
「あれは味方! ダメ!」
ネメシスの攻撃が止んだので、思わず弱電撃をメルキンに飛ばしてしまった。
パシィ!
メルキンの体が硬直した。
いっけねえ。アンナが言うとおり肉壁にしちゃいそうだ。だが倒れたメルキンはヒッポが咥えて脇にどけてくれた。
ナイス! マグノリア!
カイトが言う。
「あれは!?」
「うちで使役している魔獣です」
「使役! あんなバカでかいのを?」
こんな話をしている暇はない。俺はネメシスに向かって聖魔法を放つ。不意の事にネメシスは完全に避けきれず、横っ腹を抉られるように俺の聖魔法を受けた。
「ぐう」
手ごたえあり!
すぐさま俺が第二撃の浄化魔法を放つと、ネメシスはバシュゥンと黒い煙になって居なくなった。するとアンナがシーファーレンに言う。
「聖女を頼む!」
「はい!」
アンナは結界から出て、あらぬ方向へと向かう。するとそこに黒い煙の塊が出て来て、ネメシスの形になって来た。アンナが勢いのまま剣を降ろすが、ネメシスの黒い霧の刀がそれを受け止めた。
ガシィィィ!
「うっとおしい! 女神の加護を受けた騎士め!」
だがアンナは答えもせずに、ひたすら剣を振り続けている。どうやら今度は逆に、ネメシスに反撃の隙を与えないようにしているようだ。
「シーファーレン! 援護を」
「はい」
俺はトリアングルム王族から離れ、アンナに向かって走った。
何故ならば、アンナにはかなりの身体強化を施しているのに、それでもネメシスを押しきれないのだ。という事はネメシスはかなりの強さという事になる。俺が聖魔法で援護するしか、切り抜ける方法など無い!
アンナとネメシスの戦いに迫り、俺が至近距離から聖魔法をネメシスに喰らわせようとした。
「くらえ!」
バシュ!
「ぎゃっ!」
叫びをあげたのはネメシス…ではなかった。
なんと俺のすぐ前で、聖魔法の直撃を食らったのは鉤爪の少年。どてっぱらに命中して、床に落ちてゴロゴロと転がった。どうやらネメシスを守ろうと、体を挺してそれを受け止めたらしい。
「すみません。ネメシス様」
「バカめが」
「取り込んでください!」
すると鉤爪の少年は突然黒い煙になって、ネメシスに吸収されてしまったのだった。そこでシーファーレンが叫ぶ!
「アンナ様! 引いてください!」
だが時すでに遅し、ネメシスが途端に膨れ上がりアンナが吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「ごほっ!」
アンナが盛大に血を拭いた。それだけ強烈にたたきつけられてしまったらしい。それを見たリンクシルが逆上して、ネメシスに飛んでいくが、黒い霧の剣ではじかれて血を噴き出しながらテーブルを壊して落下する。
「アンナ! リンクシル!」
リンクシルは動かない。アンナは剣を杖にするようにして、なんとか立ち上がり構えを取る。
「ゾーンメギスヒール!」
俺はこの室内全てに広がるように、最上級のヒール魔法を発動した。そのおかげで、アンナとリンクシルがシャキッと治り、メルキンや騎士達も一気に回復をした。だが俺の魔法の精度が悪く、ネメシス教団の奴らまで回復させてしまう。
だが…教団の様子がおかしかった。
シーファーレンが説明をする。
「あれらは、邪神の強化魔法にて強化されていました。聖女様の聖なる回復魔法を浴びたことで、一気に普通の人に戻ったようです」
いいんだか悪いんだか…。
それより問題なのが、ネメシスがどんどん大きくなっている事だった。するとネメシス教団の連中も訳の分からない事を言い出す。
「ネメシス様! 何卒われわれも糧にしてくださいまし!」
その瞬間、ごおっ! と黒い霧がネメシス教団の連中を飲みこみ、あっという間に吸収してしまう。その次の瞬間、爆発的にネメシスの体が膨れ上がり始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます