第289話 こじれていく王族会談
ありえへん! いきなり第一王子ジュリアンが、俺の愛しいソフィアに公開プロポーズしやがった。どういうことだ? 約束でもしてたのか? そんな地獄のような展開があるのか?
だが! それを真っ先に否定した人がいた。ソフィアの父親である、マルレーン公爵その人である。
「ジュリアン殿下! どういうことですかな? 聞いておりませんぞ! 到着したばかりでそのような! ご説明をお願いいたします!」
いきなりの事に、感情的になりつつジュリアンに詰め寄る。 そりゃそうだ、自分の愛娘に対しての失礼な振る舞いに、このくらいで済んでいるのは大人だからとしか言いようがない。だかジュリアンはどこ吹く風とばかりに、澄ました顔で答えた。
「ん? その前に、わざわざこの城にいらっしゃった理由をお聞かせ願えますかなぁ?」
ジュリアンでは埒が開かないと思ったのか、マルレーン公爵はジュリアンをスルーして、トリアングルムの王に詰め寄る。
「陛下! 貴国では、これが常識なのでしょうか?」
ようやく状況を把握しつつある、トリアングルムの王がジュリアンに聞いた。
「ジュリアンよ。これはどうなっておる?」
「どうもなにも、ここにいる皆さんには、証人になっていただこうと言う事ですよ」
皆が呆気にとられジュリアンを見ていた。
なるほど、ジュリアンは三男のカイト以上にとんでもない馬鹿だった。カイト王子はガキなだけだが、ジュリアンはとんだ食わせ者のようだ。
じゃあすぐ殺してしまおう。
俺が一歩足をすすめようとすると、今度はシーファーレンとアンナが俺の前に来て止める。
「様子を見ましょう。ここで暴れたら国際問題になります」
ちっさな声だが、シーファーレンの焦りが伝わってくる。だがアンナは違った。
「手を汚すならわたしがやる」
それを聞いたシーファーレンが慌ててアンナの手を掴む。
俺達がバタバタしていて目立ちそうだが、周りも騒然としているので全く目立ってはいない。王様も他の王子も立ち上がって、あまりの事にジュリアンに集中しているからだ。
すると、そこでソフィアがようやく口を開いた。
「恐れ入りますがジュリアン殿下。このような場で、そのような話は相応しくないのではありませんか?」
それを聞いたジュリアンが口角を釣り上げ、まるで足元を見るように言った。
「ほう。では何処なら相応しいと?」
うっわ! いやらしい目をソフィアに向けやがった! すぐさまジュリアンの目を潰してやらなきゃ!
だがソフィアが、毅然とした態度で聞き返した。
「恐れ入りますが、殿下にお尋ねいたします」
「どうぞ」
「ジュリアン殿下は、このマルレーン家、及びヒストリア王国との関係を見据えておっしゃっているのですか?」
「それはそうです」
「それは、ヒストリアの情勢を踏まえての発言と捉えてよろしいので? トリアングルム国はヒストリア国に完全に与すると?」
ソフィアのキリリと吊り上がった目と、つんと通った鼻筋の顔が、より緊迫感のある表情を見せる。
それはそれは神々しいほどに美しく、その場にいた誰もが息を呑む。
かっかわええ…美人ここに極まれり。
ソフィアの気迫に、ジュリアンがあからさまに狼狽えている。
「そ、その…」
もはやそれに自信を持って答えられないようだった。
よし! やっぱソフィアは凄い! 隣国の王子相手に一歩も引かない。
好き。
「どこまでの覚悟か教えていただきたいのです。もちろん駆け込んできたのは私達ですが、それならそれで真意をお聞かせ願いたい!」
「そっ、それはもちろん考えておりますとも!」
するとソフィアは、トリアングルムの王に向かって言う。
「陛下もその、おつもりで?」
「すまぬ。お恥ずかしながら、寝耳に水。実は今知ったばかりで、メリディエス王にもこのような話しを、お聞かせするのは心苦しいところです。ジュリアンよ、まずは後にした方が良いのではないか?」
だがメリディエス王は、それを聞いても表情を変えない。こんな状況なのに、やたら冷静に俯瞰して見ているようだ。他の王子達も特に動く様子がない、だがそこで声を発したのは、ソフィアの母親だった。
「陛下もそのようにおっしゃっていただいてますし、この場は一旦、収めていただいてもよろしいのでは? お話しがあるのであれば後ほどでよろしいかと」
よしよし。ひとまずぐだぐだになったし、この場は流れそうだな。王族の会談が終わったら速攻でソフィアに正体をあかして、すぐにヒストリアに連れ帰ろう。
と、思ったら、ジュリアンがまだ黙っていなかった。
「だ、ダメです! い、今ここで返事をいただきたい!」
いや、お前…。今いったんまとまりかけていただろ。ちゃんと空気を読まないやつが、次期王様なんて無理だって。
そこで声を上げたのはカイトだった。
「兄さん。分かりませんか?」
「何がだ?」
「全員が違うって思ってます」
「違うとはなにがだ?」
「えっと…。全部ですね」
「はっ? 全部?」
「見ていて恥ずかしいです」
「なっ…」
オブラートに包まずにストレートに言った。あまりにもその通りなので、周りが言葉を発する事が出来ないでいる。
そうだ。カイトは言いたい事をそのまま言うやつだった。
だがその時だ。
「くっくっくっくっ」
みんなが声の方をみると、笑っていたのはメリディエス王の側近だった。メリディエス王はそれでも何も言わない。
「もう良いんじゃないですか? こいつら、その女の価値を誰も分かっちゃいない!」
突然の無礼な発言に誰もが声を失ってしまった。
そして…。
その場で動いていたのは、俺とシーファーレンとアンナだった。
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