第262話 聞き込み調査で足取りを
俺達は公爵家の足取りを掴むべく、邸内をくまなく探したものの足取りがつかめるようなものが見つからない。だが邸宅は明らかにしばらく使われていない様子で、公爵家は更に移動したと考えられた。
クラティナも、いつ居なくなったのか分かっておらず、この邸宅をいくら探したところで見つからないだろうと結論付けられた。
「さて困ったな」
「そうですわね」
俺達が次の動きを決めかねていると、クラティナがシーファーレンに言った。
「シーファーレン様!」
「なにかしら」
「私以外にも出入りしていた業者をいくつか知っています!」
「そうなの?」
「うちに薬を買いに来る、お爺さんやお婆さん達がべらべらと話して行くんですよ。それでいろんな話が聞けるから、この屋敷のうわさも広がっていて」
「なるほどそう言う事ね」
「や、役に立ちませんかね?」
「立つわ。案内できる?」
「はい!」
そして俺達は、クラティナについて屋敷を出た。そもそも公爵家は逃げているのだから、屋敷にその痕跡を残すわけがないのだ。それよりも聞き込みの方がずっと役立ちそうだ。
峠を降りて村に入り、クラティナは商店街の方に向かっていく。
「こっちなのね?」
「食料を卸していた問屋に聞いてみます!」
「いい考えね」
「えへへ」
クラティナは褒められて頬を染めた。なんと単純で可愛い女の子なのだろう。だが俺を見る目だけは相変わらずキツイ。
「こんちわ」
「おや! 薬屋じゃないか。どうした。いっぱい連れて」
「ちょっと聞きたいことがあってね。あの山の上の屋敷の事さ」
「ああ。どこぞのお偉いさんのな」
「そうそう」
「なんだい?」
「最後に食料を卸したのはいつ?」
「そうさな…ひと月もならないと思うけどな」
「お金は?」
「いつも現金でその場でとっぱらいだから、ちゃんと貰ってるよ」
「いついなくなったか分かる?」
「知らないねえ…。でもうちの丁稚が御用聞きに言ってるなあ」
「その子はいる?」
「ちょっと待ってくれ」
そして問屋は奥に行って、少年を連れて来た。
「薬屋が聞きてえ事ああるんだとよ」
「へい!」
そしてクラティナがそいつに聞いた。
「山の上のお屋敷に御用聞きに言ったのはいつ?」
「十二日ほど前ですかね」
「その時はいた?」
「へい。だけど商売にはならなかったっすね」
「そうなんだ…」
やっぱ手詰まりか…。だが丁稚が言う。
「だけど、その時代わりに道具屋を呼んでくれって言われたよ」
「道具屋?」
「へい。道具屋っス」
クラティナがくるりとシーファーレンを見た。するとシーファーレンは頷いて、懐から銀貨を出して問屋の親父に渡した。
「ありがとう。これ少ないけど」
「いや。いらねえよ、いつも薬屋には世話になってっからな」
「いえ。ほんの気持ちです」
「分かった。悪いね」
そして問屋の親父は金を受け取った。俺達は問屋を後にして道具屋に向かう事にした。
「道具屋で何を買ったんだろ?」
「どうでしょう?」
道具屋はすぐそばにあった。クラティナが先に店に入ると、店主らしき親父が声をかけて来た。
「おう! 薬屋じゃないか。どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあって来た」
「なんだい? 薬屋には世話になってるからな、何でも聞いとくれ」
「山の上の屋敷なんだけど、何を買ったの?」
「ああ。問屋に聞いたんか?」
「そう」
「旅支度の為の道具だよ。あとは馬車の補強なんかも依頼されたね。武具の補修もやったかな」
「馬車の補強?」
「ああ。ガタが来てないかの点検と、輪留めが壊れた時の部品も買った。あとは寝袋や何やらを買ってくれたよ」
そこでシーファーレンがクラティナの代わりに聞いた。
「なんでか言ってました?」
「どうやら少し長旅になるかもしれねえと言ってたね。ありゃ長い距離を進むための準備だからね」
「どこに行くかは言っていたかしら?」
「さすがに知らねえなあ。鎧や武具も補充してたから、きっと護衛を引き連れてどっかに行ったんだろ」
「そう…」
「羽振りが良くてね。なんと払いは、この辺では見ねえ白金貨だったよ。まあ俺も両替に困るんだが、やった分に見合わねえ額に驚いちまったよ」
長い旅路に出たことは間違いないらしいが、どこに行ったかは分からないようだ。これからどうするべきか俺達が思案していると、道具屋の親父が言う。
「村はずれの爺さんに聞いてみたらどうだ? いつ出てった位は分かるかもしれねえぜ」
「わかった。ありがとう」
そしてまたシーファーレンが銀貨を取り出して渡す。
「いやいや、良いって! 薬屋には世話になってるしな」
「気持ちですから」
「わかった。じゃあありがたく貰っておくよ」
そして俺達は道具屋を後にした。するとクラティナが言う。
「ネル爺だ」
「その人はどこに?」
「村を出て少し南に行ったところに小屋があります!」
「では行ってみましょう」
俺達は村を出て、ネル爺とやらの所に向かう。村のはずれの更に外にそのボロボロの小屋はあった。しかもその小屋の前に、皮の鎧を着た爺さんが座っている。それにクラティナが声をかけた。
「ネルじい!」
「おお。クラティナ、なんだ? 大勢連れて来て」
「ちょっと聞きたいことがあって来た」
「…なるほど」
何か含みがあるようだが、ネル爺と呼ばれた爺さんは俺達に家に入れという。
「ではお邪魔します」
そして俺達がボロ屋の中に入って驚いた。屋敷の中は教会の様になっていて、そこには女神フォルトゥーナが祭られており、お供えもきっちりされているようだった。恐らく毎日拝み倒している証拠に、床の一部が黒く痕がついている。
「あんたら…どっちだい?」
ネル爺がぎょろりと長いまゆ毛の下から睨んだ。
「どっちと言いますと?」
「フォルトゥーナ様に仕える者か、それとも邪神の手先かと聞いておる」
俺が聞いた。
「それを聞いてどうするつもり?」
「もし、邪悪な者の手先なら、この剣の錆びにしてやろう」
「あなたは何を信じますか?」
「女神フォルトゥーナ様に決まっておるだろう! さあ! お前達は何をしにここに来た!」
それを聞いて俺達は目線を合わせる。するとシーファーレンが俺に言った。
「ここはよろしいでしょう」
「そっか…分かった」
そして俺だけが変身のペンダントを取り去って、黒いマントを脱いだ。、マントの下からは、聖女の法衣が現れる。それを見たネル爺が目を真ん丸にひん剥いて、俺を穴が空くほどに見つめた。
「私は信心深い者の味方です」
「は…も、もしや?」
「初めまして。聖女のフラル・エルチ・バナギアと申します」
するとネル爺がわなわなと震えはじめた。急いで跪き、俺の前で手を組んで床に頭をこすり付けた。どうやらこの爺さんは俺が来るのを待っていたらしかったのだ。
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