第259話 情報通の人物に会う

 俺達はヒストリア王国の東の端、関所に近い町まで来ていた。関所近くの町なので少々荒っぽい人間もいるようだが、俺達は関わり合いにならないように調査を始める。真っすぐに食事処に入り、早速周辺の話を聞きこむ事にした。だがめぼしい話は入って来ず、店の人から周辺の事情に詳しい人の情報を得る。


「その薬屋さんが詳しいと?」


 俺が聞くと店の女将が言う。


「行商にも歩いてるし、薬草も冒険者に頼まず自分で摘んでるからねえ」


「そうなんだ。この店には来る?」


「週一でハーブを納めに来るよ」


「いつ来るの?」


「昨日来たばかりだよ」


 って事は後一週間は来ないって事か。


「その薬屋は何処にいるの?」


「町はずれの森の側だね。柵の内側だけど、近くに入り口があるからそこから出入りしているんだよ」


「わかった。ありがと」


「ちょっとまち!」


「ん?」


「すこーし気難しいからねえ、気軽には答えてくれないと思うよ」


「そうなんだ」


「まあ薬の腕は確かだからねえ、そこは皆が認めてるけど、それ以外の事はあまり好きじゃないみたいでねえ。あんまり話は聞けないかもしれないよ」


「そうなんだ…。ありがと」


「あいよ!」


 俺達は代金を払って店を出る。前回の村での失敗を踏まえて、より効率よく情報を集めようとしているのだ。俺達は店のおばちゃんに言われたとおりに、街の端っこに向かい始める。


「ゼロ」


「なんでしょうオリジン」


「気難しい相手だって、少々骨を折るかも」


「……」


「どうしたの?」


「うーん。なんと申しましょうか、その人は簡単に口を割ると思います」


「そうなの?」


「恐らくは、わたくしが知っている人ですわ」


「おお! それは助かる」


「はは…でもあんまり会いたくないと言いますか、なんと言いますか…」


「そうなんだ。じゃあ私達だけで行って来るけど」


「そう言う訳には参りません。同行いたしますわ」


「わかった」


 町はずれの言われた場所に、ポツリと平屋建ての煙突が突き出た家があった。外の柵をあけて庭に入ると、薄っすらと薬品の匂いがしてくる。俺達がそのまま玄関に行ってノッカーを叩くが誰も出てこなかった。


「行商に行ってるか、薬草を摘みに行ってるかかな」


「そのようですわ。出直しますか?」


「いや。すれ違いになったら二度手間だから、ここで待たせてもらう事にしよう」


「はい」


 少しすると、そこに腰の曲がった老婆がやってきた。


「あんれ? 薬屋はいないのかい?」


「待たせてもらってます」


「なーんだ。薬を買いに来たんだけどねえ」


「そうなんだ。何処か悪い所あるの?」


「見ての通り腰が痛くてねえ」


 なるほど。そりゃ気の毒だ。


「えーと。良かったら治癒してあげる」


「ん? なんじゃて?」


「座って」


 老婆を段差の所に座らせて、俺はすぐに老婆の状態を見る。骨が完全に曲がっているので、腰はある程度までしか戻らない。だけど痛みを引かせるのは問題なかった。


「じゃ、楽にして」


 そして俺は老婆に軽い蘇生魔法と治癒魔法を重ね掛けした。老婆が光に包まれ、しばらくすると光が落ち着いて来る。


「どう?」


「どうって言われても…」


 老婆がスッと立ち上がって、腰の曲がりも若干直った。


「こ、こりゃどういうことだい! 痛みが無くなったし、歩きやすくなった! あ、あなた様はいったい…」


「名乗るほどの者じゃありません」


「とりあえず薬は又の機会にしようかね」


 だがそこに唐突に声がかかった。


「おいおい。人の商売を邪魔する奴がいるね」


 柵の入り口の所に、頭に布を巻いて籠を背負った女が立っていた。前髪は水色のくせ毛で、目までかぶさっておりその表情が見えない。


「おや、クラティナ帰ったのかい?」


「婆さん。腰が良くなったんなら帰んな」


「すまないねえ。本当は薬を貰いに来たんだけどねえ」


「まあ…また痛くなったら来な」


「そうさせてもらうよ」


 そうして老婆が水色の髪の女とすれ違いで出ていく。


「まったく! どういう神経してんだろうね! 薬屋の前で治癒師が病人の治癒とか笑えないんだけど」


「すみません」


「わりーんだけど、帰ってくんない?」


 ヤベエ…いきなり怒らせてしまった。そりゃ商売の邪魔されたら怒るのは当たり前か。でもここで引き下がってしまっては、ソフィアの行き先が分からなくなってしまう。


「あのー、ちょっと聞きたいことがあって来たんですが」


「はあ? 聞こえなかった? 帰ってっつったんだけど」


「ちょっとだけで良いんですけど」


「話す事はないよ。そこどいてくれる? 中に入りたいんだけど」


「あ、ああ。すみません」


 俺達がそっと横にどけた。すると水色の髪の女は、玄関の鍵を開けて中に入ってしまった。


「怒ってたね」


 アンナが答える。


「商売の邪魔をしたからな」


「だよねえ」


 だがシーファーレンがため息をついて言った。


「相変わらずです」


「あ、やっぱ知り合いだった?」


「わたくしが変装をしているから気が付かなかったのでしょう」


「だよね」


「仕方ありません」


 そう言って、シーファーレンが変身のペンダントを外してポケットにしまい変装を解いた。そうして再びノッカーを叩く。しかしすぐに返事は無く、シーファーレンはもう一度強めにノッカーを叩いた。


 中からドスドスと足音が聞こえて来る。どう考えても怒っている感じだ。


「ちょっと! 帰ってっ…」


 ドアが開いてシーファーレンの顔を見た水色の髪の女は呆然とした。


「相変わらずねクラティナ」


「し、ししし、しー!!! シーファーレン様ぁ!」


 いきなり態度が軟化して、水色の髪のクラティナと呼ばれた女は、思いっきりシーファーレンの胸に抱きついてギューッとするのだった。シーファーレンはこめかみに汗を垂らして、引きつり笑いをしている。どうやらこの子が苦手らしい。抱きしめ返すでもなく、ただただされるがままに抱きつかれているのだった。

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