第255話 聖女の冒険者パーティー招集

 各方面に打診をして、マルレーン家が何処に避難したのかを探るが、なかなか見つからなかった。まあ簡単に見つかるなら隠れた意味はないし、むしろ邪神ネメシスにも見つからないのだろう。とにかく奴に見つかる前に、こちらが先にソフィアを見つける必要があった。


 俺が部屋でそわそわしていると、ミリィが温かいミルクを持って来てくれる。


「ありがとう」


「心ここにあらずと言った感じですね」


「そんな事も無いんだけど…」


「いえ。とても心配そうな顔をしておられます」


「公爵令嬢が無事なのかなって心配で」


「気休めかもしれませんが、もし何かあれば王宮から知らせが来るのでは?」


「かもしれない。でも敵が敵だけに気が気じゃなくて」


 にわかに外で何かが動いたような音がした。俺が窓から玄関の方を見ると、どうやら来客があったようだ。


「誰か来た」


「どちら様でしょうか?」


 しばらく待っているとメイドが上がってきて告げる。


「ギルドからお客様です」


「来た!」


 俺は慌てて部屋を出て走って玄関まで行く。するとそこにギルドのビスティが立っていた。


「ビスティ!」


「これは聖女様」


 ビスティは丁寧にお辞儀をした。だが構わず手を引いて連れて行く。


「まずは入って!」


 そのまま応接室に通して、ビスティを座らせ俺が正面に座る。


「忙しい所ごめんね」


「いえ。アデルナ様から火急の要件であると聞いておりましたので」


「そうなんだよね。それで、何か分かったかな?」


「数日前に王宮から書簡が各方面に出されました」


 きたきた。俺がヴァイオレットに頼んでいた、貴族の娘達の研修会の件。それが進められて王宮から書簡が出されたのだろう。


「それで?」


「各方面のギルドへ依頼を出し調査した結果、候補は三カ所に絞られました」


「おお!」


 ギルドには沢山金貨を持って行ったのだから、それぐらいやってもらわないと困る。ギルドを直接動かすわけにいかないので、ビスティを介して各方面にこっそり依頼を出してもらったのだ。


「方角としては二つに絞られます」


「どっち?」


「南東、そして南です」


「南東なら友好国がある方向だね。南と言うとアインホルンの領地かな?」


「そうです」


「誰かが手引きしてるんだろうね」


「そこまではわかりませんが」


「まあいいや。完全な場所は特定できてるの?」


「いえ。ある程度の地域が分かっただけです」


「まあそれでも十分かな。教えてもらえる?」


「はい。ですがギルドから聞いたと言わないでほしいのです」


「それは当然」


「では」


 そしてビスティはテーブルに地図を広げて言う。


「ペンをお貸しください」


「ああ」


 俺は後ろのデスクにあるペンを取り、インクと共にビスティに差し出した。するとビスティはインクをペンにつけて、地図に丸を付け始める。


「恐らくはこのあたり」


「おお! そこまで分かったんだ」


「ですが、詳細まではつかめませんでした。むしろ貴族や聖女様の方が入り込めると思います」


「わかった。ありがとう、情報が正しかったと確認出来たら更に報酬をお支払いする」


「わかりました。くれぐれも他言無用です」


「もちろん」


「では」


 いつもならお菓子を食べたり食事をしていくビスティだが、今回は案件が案件なだけに、あまり関わり合いになりたく無さそうだ。国の秘密に触れる事になるのだから、それも無理は無いと思う。


 玄関で振り向いたビスティが言う。


「くれぐれも」


「わかってる」


 そして去って行った。俺はすぐに執務室に向かい、情報を精査するべくヴァイオレットに地図を見せた。するとヴァイオレットは、丸で囲まれた場所にある街の名前を書き出した。


「ありがとうヴァイオレット」


「いえ。ですが王都からはかなり離れています。道中には危険が伴うと思います」


「それは承知の上。まずは準備しなくちゃ」


「スティーリア様とアデルナ様が、間もなく戻られます」


「帰ったら伝えといて。私はちょっとアンナと出かけます」


「かしこまりました」


 そして俺はそのまま地図と都市の名が記された紙を手に、庭で修練をしているアンナの元を訪れた。俺が来たことを確認したアンナは、剣を振るのをやめてやってくる。


「いよいよ来たか」


「来た」


「動くのか?」


「すぐに行きたい所がある」


「賢者邸だな」


「そう」


「リンクシル! 屋敷の護衛は妹達に任せるから、リンクも一緒に来い」


「はい」


 リンクシルは今、アンナから護衛のやり方を教わっているのだ。そして俺達は馬を二頭用意して、賢者邸へと走る。既に俺は何度も賢者邸に来ているので、シーファーレンから魔道具を貰っていた。この魔道具を門でかざす事で、結界を潜り抜けられるようになるのだ。俺はシーファーレンから唯一勝手に入って良い許可を貰っている。


 玄関に行って扉を叩くと、シルビエンテがスッと出てきた。


「お待ちしておりました」


 えっ? 何も言ってないけど…。と考えるのは無駄だった。シーファーレンは既に予測していたのだろう。俺達がシーファーレンの居る部屋に通されると、彼女は俺の元にやってきて手を握った。


「いよいよですわね」


「そう」


「では私も一緒にまいります。出来上がった結界石を持って参ります」


「いいの?」


「一緒に行きたいのです。わたしは聖女様と行動を共にしたいのです。冒険するならば、聖女の剣と一緒にわたくしもお連れ下さいな」


「賢者が来てくれるなら心強い。でも本当にいいの? いろんな人と接触する事になるよ」


「かまいません。その為の魔道具はそろえております」


「わかった」


 するとシーファーレンはシルビエンテに向かって言う。


「留守をお願い。魔道具を用意してホウキも用意して頂戴」


「はい」


 ホウキ? 何か分からんが、俺達がエントランスで話しているうちにシルビエンテが集めて持って来た。シーファーレンは綺麗なローブを羽織り、大きめの鞄を肩にかけてホウキを持つ。そして俺に振り向いて言った。


「では参りましょう」


「旅支度は出来てたんだ?」


「ええ。聖女様をお待たせするわけにはまいりません」


「ありがとう。ではこのまま聖女邸までお連れします」


「はい」


 俺は頼もしい旅仲間を連れて、出発の準備をするために聖女邸にとんぼ返りするのだった。

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