第253話 大きな兆しが現れた日
王宮から通達が来て、王子カレウスは操られていた時の事を曖昧にしか覚えていなかったそうだ。その事もあり関係各位との話し合いの結果、カレウスは離れに軟禁されることになる。もちろんそれは俺達事情を知っている者に対しての話であって、表向きは病気によって療養すると発表になった。
まあ落としどころとしてはそんなところだろう。
また、邪神が現れた謁見の間に居合わせたた者で、黒い煙に巻かれたものの影響がなかった者について話し合いがなされたそうだ。それについては、賢者からの助言もあり女神フォルトゥーナへの信仰心で守られると知られた。信仰が弱れば国は邪神ネメシスに乗っ取られるという助言付きで。
そこで俺はまた王宮に呼び出されることになる。
俺は今大広間で、大勢のお偉いさんの前に立って声をかけられるのを待っている。宰相や各大臣、大物貴族に軍部、騎士団のお偉方も立ち並び彼らも王の言葉を待っていた。今この国を動かしている全員がここに集まってると言っても過言ではない。
ルクスエリムが口を開いた。
「わしらが思い違いをしておったようじゃ」
なにが?
俺がキョトンとしてルクスエリムを見る。
「申し訳なかった」
ルクスエリムが頭を下げると、大広間にいる重鎮や貴族達が頭を下げる。
えっ? えっ? なんで?
「恐れ入りますが陛下! これは一体何事です?」
俺は耐えかねて尋ねてしまう。
「そなたは人ではないのであろう?」
いーや。人だけど? 可愛い女の子に下心満載のめっちゃ俗物ですけど?
「人であります」
「いや。邪神を退け、あまつさえ王都中に邪神の結界を張り巡らせた。そのような事が人の身で出来る訳がない」
えっと、それは俺の神聖魔法と賢者の魔道具の技術のなせる業なんですけど。それに皆で必死に埋めて回った成果なんですけど。
「きちんと理由があります」
「そうじゃろうて。そなたには常に答えがあるのじゃろうて。今回の事で、我々人間はよーくわかったのじゃ。目の前にいるのは修道士から位が上がった聖女ではない、女神フォルトゥーナの化身であると確信したのじゃ」
確信されてもなあ。俺は決してそんな高尚な者じゃないと思うけどなあ。
そしてルクスエリムが、宰相のザウガインに目配せをする。ザウガインが前に出て来て言う。
「恐れ入ります。聖女様! 私の言葉でその恩耳を怪我してしまう事をお許しください」
「えっと。普通に話してくださって結構です」
「は! 私達はあなた様を、修道士上がりの位の高い聖者と認識しておりました」
「そうだと思いますけど?」
「それがハッキリわかったのです。あなたはこの国と世界を邪神から守る、女神フォルトゥーナの化身であると。我々はこれまで、あなたがなさろうとした事業に、もっと手を貸し命がけで尽力する必要があったと知りました。これまではただ文官任せになり、全ての事業が遅れに遅れてしまっていた事と思います」
それはマジでそう。俺が一生懸命進めると、必ず横やりが入ってストップする。
「それでどうされます?」
「最近の王都の騒ぎで滞っていた聖女基金を再開させ、さらに聖女様が提唱しておられた全事業をすみやかに、国の事業へと繰り上げて取り組む必要があるとわかりました」
マジか!
俺は思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて言う。ここまで勝手にノッてきたら畳みかけるしかない。俺は必要もないのに自分に金剛と神聖結界をかけた。戦闘時には使うが、こんな人前で会議中に使った事など無い。たぶんめっちゃ後光がさしていることだろう。
「分かっていただけましたか。流石は聡明な大臣様や御貴族様であります」
「そ、そのような! 恐れ多い!」
そこまで持ち上げられちゃったら言う。こんなチャンスはもう巡ってこないかもしれない。
「では、やりましょう! 王都の貴族の娘および、地方貴族の娘を集めて国力を高めるための勉強会を復活させるのです。一回で終わってしまったあれを今すぐ始める必要があります。そして女子高にしてしまいましょう!」
「はは!」
皆が頭を下げた。
「また、教会主導でやっている、孤児院学校についてでございますが、これも国の事業としてすぐに進めてください」
「はは!」
「そして各仕事の要所に、女性の席を設けるのです。市の月例議会には女性も参加させるようにしてください」
「はは!」
「さらに、私は!」
「はい!」
「女性は男性と違い、美に磨きをかける事でその力を増します。私は女性専用の、エステサロンという機関を設立する事を提唱いたします!」
「え、えすてさろんとは?」
「神託です! 女性による女性の為の男子禁制の自分磨きの場所です。これを作るにあたっては、私が直接指導にあたります!」
「わかりました!」
そして俺はくるりとルクスエリムに振り向いて言った。
「陛下! 女神フォルトゥーナはこう言っておられます! 邪神につけ入るすきを無くすために、女性にも爵位を与えよと! さすればこの地は未来永劫安泰になると」
「わかったのじゃ!」
「そして早急に、国内全土に邪神の結界を張らねばなりません。騎士団や冒険者、市民も含めて大量の魔石を集めるようにしてください。王宮でギルドから買い取り、それを賢者邸に運んでいただきたい!」
「すぐに手配しよう」
「そして最後に! 男尊女卑の法律を撤廃してください。人類は皆平等、優秀なものが世界を救うのです。男女関係なく、優れた者にはそれ相応の仕事と報酬を用意する法律を制定してください」
一瞬、ルクスエリムと大臣達が怯んだ。それはさすがに抵抗があったらしい。だがそこで口を出したのが、ルクスエリムの正妻であるブエナだった。
「陛下。女神フォルトゥーナの神託は何よりも重く、世界を救うには優先すべきとおっしゃったのは、陛下や大臣様方でしたわ」
「う。うむ。しかし」
「滅んでもよろしいのですか?」
「わ。分かったのじゃ、最後の提案も優先して進めよう。良いなザウガイン、ペール、ホムラン」
「「「は、はは!」」」
通った! これで変わる! 俺の理想とする世界への第一歩が今決まった!
わ、笑ってしまいそうだ。口角が上がってしまう…。
これで公爵令嬢ソフィアに大きく近づいたぞ!
笑を堪えるのに限界が来たので、聖女の法衣のヴェールをかぶりルクスエリムに伝えた。
「結果が楽しみです。今日は神託を聞きすぎて疲れてしまいました」
「わかったのじゃ! バレンティア! フォルティス! どっちの騎士団でもいい! 速やかに聖女を送って差し上げろ!」
するとフォルティスが口を開いた。
「バレンティア殿は陛下の警護がありますからな。ここは第一騎士団がお送りしましょう」
「そうですか? 第一騎士団も王宮警備を覚えるいいチャンスかと」
「それはお任せします」
「いえいえ」
なんか変なところでバチバチに火花を散らしている。ここで喧嘩になっても嫌だし俺はルクスエリムに行った。
「ギルドで優秀な冒険者を雇いました。よって護衛は不要です。本日はありがとうございました」
そう言って勝手に大広間を出る。アンナとミリィが慌ててついて来た。
「いいのか?」
「言う事言ったし」
「…笑ってるのか?」
「いいから! はやくはやく!」
大きな玄関を外に出ると、朱の獅子の連中が馬車の前で待っていた。
「もう終わったので?」
「ええ。行きましょう」
早く帰ってみんなに伝えたかった。そしてすぐに賢者邸に行って、シーファーレンにも伝えたかった。逸る心を抑えて馬車に乗り込むと、ミリィとアンナも乗り込んできた。馬車が出発して門を出たところでこらえきれなかった。
「 わはははははは! ミリィ! アンナ! ありがとう! 皆のおかげ!」
二人は興奮する俺を優しい目で見つめていた。この世界に降り立って、今日ほど嬉しい日は無い。
「ミリィ。今日はパーティーしよう! お金に糸目をつけずに食材をいっぱい買って来て」
「わかりました」
上機嫌の俺に二人も楽しくなってきたのか、二人ともにんまりと笑いを浮かべていたのだった。
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