第47話 王宮からの知らせ
孤児に関する調査をギルドマスターのビアレスに頼んだ夜、聖女邸に戻って報告会をしていた。俺の部屋にはスティーリアとミリィとヴァイオレット、女性執事のアデルナがいた。ミリィが煎れたお茶を飲みながらテーブルを囲んで話し合っている。
「アデルナに聞いた通り、ギルドに行ったんだけど冒険者登録はダメだった」
「なんと、残念でございます。それではまた新たな方策を?」
「いやいや、違う違う。冒険者登録はしていないんだけどね、ギルドマスターのビアレスって人が孤児院出身で協力してくれる事になったって感じ」
「すばらしい。流石は聖女様やりますねぇ」
アデルナはそのふくよかな胸を震わせて喜んでいる。貫禄のある体はおふくろって感じで、俺に安心感を与えてくれるのだった。東京の小料理屋を思い出すから。
「アデルナのおかげ、勇気を出して行ってみて良かった」
「それは何よりです」
「あとこれはヴァイオレットの発案だったからね、おかげでうまく事が運びそうだ」
「うれしいです!」
俺はその成功体験を皆に話して聞かせているのだった。スティーリアとは一緒に動いていたので、教会の情報は事実だけを伝えるにとどめる。答え合わせはギルドからの報告があって初めて分かる事だ。
「でも素晴らしい事です。孤児の未来を見据えての手を打つなんて、普通の人では絶対に思い浮かばないと思います」
スティーリアが興奮気味に言った。俺と一緒に動いた事で、その凄さに驚いているようだが実際の所俺自身も驚いている。こんなにすぐにいろんな事が動き出すなんて、直感にせよ行動する事の凄さが分かった。
「私自身も驚いてる。一番の驚きはギルドマスターの事かな」
「本当です。まさか聖女様と同じ事に考えを寄せていたとは」
「まあ、完全に信用できるかどうかはこれからの動き次第だけど、きちんとこちらに対しての有効な情報を持ってくるかな」
そう。とにかく俺の役に立つかどうかで、あいつ(ビアレス)の評価が決まって来る。役に立たなければまた次の作戦を考えるだけだ。むしろギルドも金で買われている可能性が見えてくるし、そうなったらそうなったで他の事をやればいい。
するとミリィが言った。
「私は上手く行くと思っています。聖女様がこれと決めて動いた時は、必ずと言っていいほど結果が出ています。私は絶対に上手く行くと思います!」
「なんだかミリィがそう言うと、そういう気がしてくる。まあ朗報を待つとしよう」
「そうですね!」
そして俺はヴァイオレットに向き直って言う。
「ヴァイオレットは、これからまた忙しくなりそうだけどよろしくね。今度私と一緒に教会に行って、ある孤児院の孤児のリストを書き写してほしい。あとギルドから上がってきた情報をまとめる事も必要だし、あとは孤児たちの嘆願書だよね」
「わかりました。情報が集まりましたら、上にあげやすいようにまとめます!」
「頼りにしてる」
「はい!」
するとアデルナが俺に言う。
「ギルドには私が情報を取りにまいりましょう、常に聖女様が行くと騒ぎになりそうです」
「ほんとそう。アデルナには面倒をかけるけどお願い」
「面倒などではございません! 私はよく依頼をしにギルドへ出入りしていましたから、ある程度冒険者とも顔見知りなのですよ。ギルドマスターのお墨付きがあるとなれば、やれることも増えそうです」
すっごい頼もしいおかあさんだ。普通のおばちゃんなので腕っぷしが強いわけでもないが、なんとなく逞しくさえ思えて来る。
「頼もしい」
「ありがとうございます」
情報を集め終わった後も気が重いが、俺がソフィアと定期的に会う為の準備だと思えば楽勝だ。とにかく俺の計画第二弾がスムーズに動き出したのだ。
するとそこに部屋のドアをノックする音が鳴り響いた。
「失礼します」
「どうぞ」
メイドの一人が入って来て言う。
「王宮からの使者が参っております」
「こんな夜に?」
「はい」
俺は皆を見渡して言った。
「ならみんな、今日の所はこんなところでいいね」
「「「「はい」」」」
そして俺が行こうとすると、ミリィが俺に言う。
「私も一緒に」
「まあそうだね。近くにいてくれたらいいかな」
「はい」
するとスティーリアが聞いて来る。
「こんな時間に、どんなご用件でしょうね?」
「恐らくこの前の研修関連の事だと思う」
「やはりそうですよね」
「まあ行って来るよ」
「はい」
そして俺とミリィが応接室へと向かった。応接室の前には騎士が二人立っていたが、鎧は着ておらず急ぎで来た事が分かる。俺は二人の騎士にお辞儀をして応接室に入った。
髭に短髪のおっさんが立ち上がって挨拶をする。
「おお! 夜分に恐れ入ります! 聖女様はお休みでしたか?」
いつも来る王宮の使者で、ルクスエリムの使いパシリのような奴だ。名前は…忘れた。
「これはこれは。どうされました」
「早急にお伝えせよとルクスエリム陛下より申し付かってまいりました」
まあそうだろうよ。もたもたすんなよおっさん!
「とにかくお座りください」
「は、はい」
俺が対面に座り、後ろにミリィが控えた。出かけるなどの急な時は、俺の代わりに館内に伝達してもらうつもりだった。そして王宮の使いの話を聞く。
「それで?」
「はい! 朗報と言いますか、悪い知らせと言いますか…。とにかく研修時に、聖女様を襲った魔獣を使役していたと疑われる男を捕縛したそうです」
「えっ! 本当ですか?」
「さすがに事が事ですので、騎士団総出で捜索にあたったそうです。国中に早馬をはしらせ網を巡らせて、すぐに怪しい男を捕まえたそうなのです」
「まだ、それが犯人だとは決まってはいないと?」
「そこまでの情報はまだ。早馬にて知らされ数日のうちに王都へと送還されてくるとの事です」
流石にうちの騎士団は優秀って事か。と言うより、早い段階でなければ捕まらなかったろうし、もしかするとルクスエリムが諜報部を動かした可能性もあるな。それだけに今回の事は大事だったって事だろう。
「それで?」
「既に容疑者は捕縛先の領地を出発したと聞いておりますが、聖女様には引き続き王都から外に出られないようにとの事です。安全が確保されるまでは動かないようにと」
「わかりました。もとより、王都を出る予定はございません」
「それを聞いて安心しました」
「あとは何か?」
「それとこの度の襲撃犯の一件が終わった後で、女子部研修会についてお話があるとの事でした」
ほら来た…。そりゃ分かってはいたけど、二回目以降の研修会は見合わせだろうな。まあ貴族の娘達を危険にさらすわけにはいかないし、俺も我慢するしかない。
「わかりました。他には?」
「以上でございます。なんにせよ、聖女様にはご自身を危険にさらす事の無きようにとの指示を受けております」
「承りました」
「それでは今日はもう遅いですので、私はお伝えしたことを王宮に戻ってお知らせします」
「よろしくお願いします」
すると髭に短髪のおっさんは立ち上がって礼をした。俺も立ち上がって玄関先まで送る事にする。足早に歩きながらも、髭に短髪のおっさんと護衛の騎士はちらちらと俺を見て来る。
夜に男の顔なんか見たくねぇんだっつーの! 見んな! ウザい!
そんな事を思いつつ顔では固まった笑顔を作る。そして玄関を出て行き扉を閉めた後、俺は後ろを向いて玄関に背をつけ天を仰いだ。
「あーあ」
するとミリィが残念そうな俺に声をかけて来る。
「聞きたくない報告でございましたね」
「そうだね。でもまあいずれ聞く事になるし、早い方がモヤモヤしなくていいや」
「さすがに聖女様に疲れが見えます」
「そうだよねぇ…。そうだ! 今日はお風呂会にしようかな!」
「えっ! 聖女様はお疲れではないのですか?」
「疲れたからこそのお風呂だよ。ミリィ」
「わ、わかりました! それでは皆に伝えて準備をさせましょう」
「おねがい」
ミリィが俺の前から走るように居なくなり、俺はトボトボと自分の部屋に戻るのだった。楽しみがなくちゃ今日の夜を乗り切れなそうだ。そう思いながら。
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